第18話「空閃」
この一カ月間、クレイドル内で半ば軟禁状態だったので青島と、勿論μも一刻も早くゲートへ戻り戦場に向かいたがっていた。
戦場にのみ自分の価値を見出す二人は、ある意味兵器としてもっとも模範的な態度なのかもしれないが、今は青島にその自覚はない。
隊長クラスならともかく、奪還者は基本的に一部屋に四人押し込められ、ゲートは勿論クレイドルであっても、寄宿舎とは単に寝るためだけの施設である。
しかし青島には特別に個室が与えられていた。
他の隊員がいるとμの機嫌が損なわれるという理由もあったが、部屋に関してはもう一つの方が主な理由である。
壁に立てかけられているのは、巨大な翼のような双剣。
翔竜剣と呼ばれるμの固有武器の内の一つ、翼刃を置くスペースがなかったのだ。
本来ならば、医療キッドや携帯食糧をはじめあらゆる武器は一旦光子化し、パワードスーツにつけられたバックパックに貯蔵しておくのが奪還者の常である。
しかし高圧縮フォトンブレードや、超小型とはいえ大出力フォトンブースターを内蔵した翼刃は、それだけでバックパックの容量を使いきるどころか、全く足りていないのだ。
そうなるとコクーンタワーにある、μの本体が眠る部屋から一々転送し直さなければならないのだが、それにも膨大な時間がかかる為、結局常に持ち歩かなければならなくなったという訳である。
「蹴爪は足に収納出来るからまだマシだけど……ま、言ってもしょうがないか。そういえばさ、この翼刃で気になったことがあるんだけど」
部屋に戻った青島は、翼刃の柄を眺めながらμに問いかける。
「翼刃って、もしかしてくっつけられたりするのか?」
『流石タツヤは目ざといですね。たしかに翼刃は連結することで、内蔵されたジェネレーターの出力を、乗倍に増加する機能を持っています』
μが指をパチンと鳴らすと、青島が装着しているヘッドギアの視覚モニターに空閃というタイトルのファイルが表示された。開いてみると、翼刃を連結する様子を映した動画の様だ。
いつのまにこんな映像を作っていたのかと呆れるのと同時に、μのきめ細かいサービスに感心する青島なのであった。
「なんだ、そんな便利なものがあるなら、どうして先月教えてくれなかったんだ?」
μの答えを待つ青島は、ふと動画がまだ終わっていない事に気付く。よくよく考えてみれば、まだ空閃という単語の意味が分からないままだ。
急速回転する翼刃を両手にもった映像内の兵士の両腕は、よく見るとなにか水飛沫を放っているではないか。
「なんだこれ……血?」
次の瞬間、兵士の両腕は真っ赤な血の噴水を撒き散らしながら弾け飛んだ。
「なっ……!!」
残った手だけをこびりつけながら、どこかへ飛んで行ってしまった「翼刃を最後に映像は終了した。
『ご覧の通り、タツヤ達のパワードスーツでは耐久力が足りません。私の腕を移植すれば可能ですが……どうしますか?』
戦時では大活躍出来るμの両足だが、平時ではむしろ苦労の方が多い。
あまりの重量にエレベーターには乗れず、毎度外さなければベッドで寝ることも出来ない。そもそもこれ以上、自分が人間離れしていくことに抵抗を感じない筈がない。
μの問いかけに、青島はただ黙って首を横に振るのであった。




