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斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
三章/極光´虚無
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第17話「新たなる戦場」

 パワードスーツやオートマタ、そして兵器に限らず、征歴社会の基盤をなすエネルギーであるフォトン。

  これら西暦からのテクノロジーは、実のところ仕組みがよく分からないまま使っているものが多い。

  フォトンが様々な色に発光する理由も、使用者のDNAに働きかけているとの説や、感情によって変化するという説、あるいは単純に用途によって変わるのか等と、推論の域を未だ出ていない。

 かつてとある基地では捕獲した征服種(レックス)に様々な処置を施し、再び人類の制御下におけないかという実験が行われたこともあったが、成果は芳しくなかったとされる。


 そもそも我ら人類をここまで衰退させ、地球の支配者を交代させたのも、他ならぬ西暦の技術である。

 もし征服種の原型を自在に操れたかつての技術を、人類が手に入れられたのなら征服種(レックス)の手から地球を取り返せるのではないかという考えを持つものもいるが、私はむしろ現人類に西暦の技術は、最早手に余るものなのではないかと考え始めている。

 もしかすると人類は、再び自らが放った火で、今度こそ自らを焼き尽くしてしまうのではないだろうか……?




 ――――アメリカ第二要塞都市 とある研究者の手記より








 関東西新宿区第参要塞都市・通称クレイドル内にある隊長の事務室で、青島は資料片手に唸る伍行と共にいた。

 居住区内、ましてや非戦闘時であるにも関わらず、青島はヘッドギアを装着したままだ。

 マスクと上半身のパワードスーツを外し私服ではあるものの、ヘッドギアと下半身にだけパワードスーツをつけた姿は、なんとも珍妙な格好であるがこれには理由がある。

 今事務室内には、部屋の主である伍行とその副官である熊野、そして呼び出された青島がいる。設置されているカメラの映像を見ても、これは確定情報だ。

 しかし青島のヘッドギアのディスプレイのみ、この部屋にはもう一人の客人がいた。

 VG‐02 15/D 対光子生物兵器・ヴァルキリーギア高速機動型十五号機。通称、μ(ミユ)

 すらりと引締まった長身を青いワンピースで包み、肩の高さに切り揃えられ研ぎ澄まされたような銀髪を携え、透き通った白い肌に深紅の瞳を宿すこの美少女は、傍目には人間にしか見えないものの、遠い昔西暦の世に生み出された自律機動兵器なのだ。

 加えて今は、宿すべき肉体を失ってしまった電脳幽体(サイバーゴースト)でもある。

 機械にのみ干渉出来るその姿は、何故か青島にしか視認する事が出来ず、さらにその両足は大怪我を負い死にかけていた青島に移植され、以来行動を共にしている。


「……お前の報告通り、コクーンタワーの亀裂の奥に、さらに隠された地下空間はあった。しかし……十五号機がいる部屋に入る事は出来なかった」


「えーっと……その、軽々しく他人に見られたくないらしいっス……すいません」


『タツヤが謝る必要はありません。誇り高きヴァルキリーギアの心臓部を、愚か者に見せる必要などないというだけの話しです』


 勿論μ(ミユ)の声は、青島にしか聞こえていない。もっとも青島としては、聞こえない方が有難いのかもしれないが。

  無事コクーンタワーの奪還が完了し仮要塞(ゲート)へ戻った後、従来のパワードスーツのスペックを遥かに上回る青島の両足や、兵士の動くべきコースを自動で計算・誘導出来る全自動戦闘支援(ブリュン)誘導システム(ヒルデ)を解析しようと様々な手段が講じられた。

  しかしどうも上層部の無礼な対応がμ(ミユ)の逆鱗に触れてしまったようで、ゲート中のあらゆる計器は数日間正体不明のエラーで塗り潰される羽目となった。

 最初は青島の報告を殆ど信じず、役に立つ部分だけちゃっかり回収しようとしていた上層部も、これには電脳幽体(サイバーゴースト)という摩訶不思議な存在を信じざるを得なかったという訳だ。

 しかしμ(ミユ)は最初にぞんざいに扱われた事に未だ腹を立てているらしく、コクーンタワーを奪還してから一カ月経った今でも、青島以外に協力するつもりはないらしい。


■青島〉μ『なぁ、そろそろ機嫌を治しても……』


『部屋の場所を教えたのは、修繕工事中にうっかり破壊される可能性があったからです。中に入れるとは言った覚えはありません』


 青島はどうにか仲を取り持とうとするも上手くいかず溜め息をつく。そんな青島の表情を察して伍行と熊野も溜め息をつく。

 青島のヘッドギアを掌握しているμ(ミユ)は、思念チャットですら容易く傍受出来る。

 以前青島に内密に相談しようとしたらあっさり看破されてしまい、しばらくの間青島はご機嫌斜めになったμ(ミユ)に詫びつつけることとなったのは記憶に新しい。


「まぁ今日は他にも話すことがある。お前の申請が通ったぞ。来週から開始される旧都庁奪還作戦に、お前も俺の分隊として配属されることになった」


 クレイドルの意向としては、貴重な情報の塊であるμ(ミユ)も青島も、戦地に飛ばさず安全な要塞都市内で検査させた方が有益だと判断していたが、そんな事情関係ないと言わんばかりに、μ(ミユ)はあらゆる検査を拒み続け、頑なに旧都庁奪還への参加を希望し続けていた……μ(ミユ)曰く、旧都庁にはもう一体のヴァルキリーギアが眠っている可能性が高いらしい。

 旧都庁……はるか西暦、まだこの土地が人のものだった頃からそびえ立つ摩天楼。

 改増築を重ね地上150階までそびえ立った旧文明最大級の遺跡は、征歴となった今でもその雄姿を保ち続けているまさに宝の山だ。

 しかし旧都庁付近は、遺跡泥棒たちのアジトがあると前々から目星がつけられている上に、奥深くには強力な征服種(レックス)がいると噂されていたので、奪還は後回しにされていたのだ。

 しかし、先月の青島の活躍により予定よりもはるかに速くコクーンタワーを奪還出来たので、計画を前倒しして旧都庁奪還の作戦が組まれたのである。


『当然です。元より私とタツヤ無しでどうにかなるとは思えません』


「まじっスか! ありがとうございます。それじゃあ寄宿舎に戻って準備しておきます」


■青島〉μ『だからそういう上から目線はよくないって』


 あたふたする青島を見て伍行も大体察したのか、それ以上何も言わず退室を促した。

 最近よく面倒を見て貰っているので分かったことだが、伍行は要不要の線引きがはっきりしているものの、必要と判断された者には存外甘く接するようだ。

 そういう意味では、機械であるミユ以上に機械的に人を判別していると言えるだろう。

 青島も以前はかなり冷たい態度を取られていたが、ミユとの中継役として必要と判断されたのか、最近ではよく目をかけて貰うようになった。


『タツヤは私以外の者と話す際、妙にへり下る傾向が見られますね』


 寄宿舎に戻る途中、μ(ミユ)がなんともなしに話しかけてきた。

 電脳幽体(サイバーゴースト)であるμ(ミユ)との会話は他の者には聞きとれない。変人扱いされても叶わないので青島は思念チャットで答える。


■青島〉μ『そりゃーこちとら、先月まで落ちこぼれだったからな。いきなり偉そうな態度を取る訳にもいかないさ』


 もしμ(ミユ)に出会っていなかったらと思うと、青島は今でも背筋を凍らせる。よくて除隊処分、最悪あの日コクーンタワーで死んでいてもおかしくなかったのだから。


『タツヤを落ちこぼれ扱いとは、奪還者(リテイカー)上層部は見る目がないのですね』


 しかしμ(ミユ)は……μ(ミユ)だけは青島を評価してくれる。

 その理由は、誰にも認識出来ない電脳幽体(サイバーゴースト)であるμ(ミユ)を、青島だけが視認する事が出来るからなのかもしれない……でもそれだけでも構わないと青島は思っていた。

 μ(ミユ)と一緒なら……μ(ミユ)と共に戦ってさえいれば自分の居場所は安泰なのだと。

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