↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
斬機走甲/´スラッシュダッシュ  作者: 石川湊
二章/邂逅´共闘
PR
16/42

第16話「女王と兵士」

  足に絡みつく蜂蜜を振り払いながら巣の奥へ向かう青島だが、巣の中をしばらく進んでいる内に妙なことに気がつく。


■青島〉μ『敵がいない……とっくに新しい兵隊が産まれてもいい頃なのに』


『確かに妙ですね。計算では最低でも、三匹は産まれている筈です……あるいは既に待ち構えている恐れも……タツヤ、気をつけて下さい』


 もし新しい幼虫が全て巣の中を自由に潜れる新型なのだとしたら、これほど恐ろしいことはない。今青島がいるのは、上下左右全てが敵の領域である巣の内部。時間をかけては幼虫を次々産みだされる事は分かっていても、迂闊に飛び出すなど出来よう筈もない。

 やや時間はかかってしまったが慎重に進んでいった先に、青島はようやく新女王の蛹を発見した。ドクンドクンと激しく脈打つ蛹は、今にも新女王が誕生すそうである。


■青島〉μ『これで終わりだな』


 青島はゆっくりと確実に蛹へ剣を突き刺す。先程同様、ドロリと大量の体液を流しながら、ピクピクと蛹の中の女王蜂は息絶えていった。


■青島》中隊員『こちら伍行分隊、青島っス。新女王と思われる蛹を破壊しました』


■伍行》中隊員『こちら伍行。よくやった青島、即刻帰……おい、ちょっと待て』


 ようやく終わったと思った矢先、伍行の通信が急に途切れる。

 青島はμ(ミユ)と顔を見合わせ、何事かと通信を待っていると、


■黒沼》中隊員『こちら狙撃班! 敵の空戦型が襲来! 救援求む!』


■伍行》中隊員『こちら突撃班! 陸戦型も活動を再開している、救援は困難だ!』


■伍行〉青島『青島、そっちで何があった!? 女王が死んで、動きが止まっていた軍隊蜂どもがまた動きだしたぞ!?』


「そんな馬鹿な!」


 外部からの驚くべき通信に、青島は思わず蛹の中身を再度串刺しにする。今度こそ留めを刺さんとばかりに何度も翼刃(セイバー)を突き刺すが、状況は何も変わらないようである。


「μ(ミユ)、どうすればいい?!」


『これは……』


 通信を使い忘れる程動揺している青島に目もくれず、μ(ミユ)は今やグチャグチャになった蛹の中身を検分していた。


『この蜂は、女王蜂ではありません。どうしてただの蜂が蛹の中に……?』


 その時、巣を突き破り来た道を塞ぐように軍隊蜂の大軍が現れた。まるでここから生かしては帰さないと言わんばかりだ。


■青島〉μ『足止めって訳か……』


『予測より数が多い……一体これは……』


■青島〉μ『とにかく戻ろう!』


 なにかまだひっかかるように考えこむμ(ミユ)を尻眼に、青島はひとまず誘導システム(ブリュンヒルデ)の示す通り軍隊蜂の壁に斬り込んでいった。


『おかしい、どうして奇襲を捨ててあえて巣から出てきたのか……』


 あらかた雑魚を片づけ旧女王蜂がいた区画へ戻ってきたものの、μ(ミユ)は未だ何か考えこんでいるようだ。逆に青島は片っ端から雑魚を蹴散らしていったおかげか、先程よりは気持ちが落ち着いてきていた。

 このままμ(ミユ)を放って戦っていいものか青島が悩んでいると、ふと足元に軍隊蜂の残骸が落ちていることに気がついた。


■青島〉μ『あれ、こんなのさっきもあったっけか?』


 死体の欠片なら道中にいくらでも転がっているが、足元に散らばっている欠片はどうも違うような気がした。部分的にしか残ってないので全容は定かではないが、今まで見てきた蜂のどれとも違って見える。

 しかし目の前に横たわる巨大な女王蜂以外の死体となると、今通ってきた通路に転がる物のみだ。だとするなら、残りのパーツは一体どこにあるのだろうか。


『これは、脱皮の後のような……女王蜂は死んでいるから、幼虫が新しく産まれる筈はないの……しまっ――』


 μ(ミユ)の声に青島が振り向こうとしたまさにその瞬間、青島の目の前で女王蜂の腹が破裂した。肉片に紛れ突撃してくる軍隊蜂に、青島もμ(ミユ)ですら思考は全く対応出来ないまま……青島は反射的に翼刃(セイバー)を振り上げていた。


「…………」


『…………こんな所に隠れていたなんて。そうまでしても生き延びる事が、あなたの使命だったのですね』


 襲撃からわずか一瞬で頭を斬り飛ばされた軍隊蜂のさらに奥に、女王蜂をそのまま小さくしたような蜂がうずくまっていた。今度こそ新女王とみて間違いないだろう。

 兵隊蜂を蛹で覆い、奇襲用に新しく作った兵隊蜂を全て時間稼ぎにつかってまで、この若き女王蜂は母親の体内で成長し続けていたのだ。


『この成長ぶりから、恐らく旧女王が生きている間に既に世代交代の準備を始めていたのでしょう。道理で即座に指揮系統が変わった訳です』


 呆けている青島の体をμ(ミユ)が動かし、無抵抗の女王蜂を一太刀のもと葬り去った。全ての女王蜂が死んだ所為か、コロニー全体から活力が目に見えて失われていく。恐らく他にも潜んでいた軍隊蜂が、皆死に絶えたのだろう。


「…………え、倒したの?」


 遅れること数十秒、ようやく青島の思考が追いついた。途端に腰が砕けるように、その場にヘナヘナと崩れ落ちる。


■伍行〉青島『こちら伍行だ。また軍隊蜂どもの動きが止まったんだが、今度こそやったのか?』


 渦中にいながら全く事態を飲み込めていない青島が恐る恐るμ(ミユ)の顔を窺うと、μ(ミユ)は自信満々に笑い頷き返した。


■青島〉伍行『こちら青島! 今度こそ女王蜂を撃破しました! これで軍隊蜂は全滅です!』


 伍行が全奪還者(リテイカー)に通信を送り、巣の外から再び歓声が響き渡る。

 コロニーの中では青島はμ(ミユ)と二人っきりで……傍目からみれば一人で勝利の余韻を味わうのであった。




 戦歴一〇一三年、九月二十一日。

 この日、新宿遺跡西地区・旧コクーンタワーの奪還が達成された。

 その立役者たる新兵、青島竜也は数時間後、膨大な報告書を書かされる上に、黒沼を始めとする先輩隊員からこってり怒られることになるとは今はまだ知らず、初めての勝利の達成感と、かけがえのない戦友と出会えた喜びに、ただ浸っているのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。