第13話「けれど、闘う者達」
青島が横転するのと同時に、すかさず付近の軍隊蜂が襲いかかってくる。
起き上がろうにも体はとても重く、μが無理矢理起こすものの、青島にはもう動く気力が沸いてこない。
これでμの望みも果たせただろうと達観し、軍隊蜂の大群を受け入れようとしたその時、青島の周囲を真っ白なフォトンの壁が立ちふさがった。
■伍行〉青島『少しはマシになったと思ったが、やはり半日程度ではそのぼんやりする癖は治らないようだな』
ふと気がつくと、いつの間にか青島の足元に白いオートマタが潜り込んでいた。
疑心暗鬼になってすっかりいる事を忘れていたが、伍行もあのまま軍隊蜂の大群の中生き延びるだけでなく、着実に兵隊の数を減らしていたのだ。
駆け寄ってきた伍行の姿を見て青島は驚愕した。噂には聞いていたが、伍行はクレイドルの奪還者の中で唯一、五色のオートマタを同時に扱える男なのだ。
それぞれは従来のものよりも二回り程小型だが、たった今青島を助ける為に使った楯を持つ白いオートマタ、背中には短時間ながら飛行能力を有する大翼をつけた青いオートマタ、今はここにいない光学迷彩で覆われた黒いオートマタ、右肩に鎮座しているのは大砲を備えた赤いオートマタ、そして最後に左腕にしがみついているのは背部に巨大な第三の腕を持つ緑のオートマタを、五行はまるで鎧のように全身に装備していた。
緑の五號が出力擬似腕で青島を担ぎあげると同時に、赤の四號が大口径フォトンブラストで敵を一掃する。その隙に階段へと青島を放り投げると、伍行またすぐ青の二號のジェットで一時離脱した。
一体一体のスペックはヴァルキリーギアであるμとは比べるまでもなく低いものの、それぞれの特性を活かしたカスタマイズを施し、的確に運用することで伍行もまた他の奪還者とは一線を画した戦闘力を誇っていた。
■伍行》中隊員『予定外ではあるがこれは好機だ。このまま一気にコロニーを潰すぞ!』
投げ飛ばされた青島とすれ違いに、援軍が戦場へとなだれ込む。踏破ゾーンの見回りをしていた者達だけでなく、ゲートからもありったけの奪還者を呼び寄せたのだろう。
衛生兵が近づき青島の容体を診察するも、大した怪我ではなかったようでまたすぐ違う場所へ行ってしまった。入れ替わりに青島の目の前に現れたのは、場違いな青いワンピースをはためかせるμだった。
『タツヤ……』
死なせてくれなかった失望か、望む通り戦ってくれなかった落胆か、μの声は静かで重い。
コツコツと青島にだけ聞こえる足音を立てながら目前まで迫ったμの顔を、青島は見上げる事が出来なかった。
目の前にようやく馴染んできたばかりのμの両足が映る。
出来ることなら、この脚も他の誰かに渡して戦場から逃げ出したかった。もっともそうなったら、青島は逃げ出す為の脚すら失うのだが。
『……申し訳ありません』
しかし意外にも、μの口から出たのは叱責ではなく謝罪だった。
『バイタルが安全域にいる間は、問題ないと思っていましたが軽率だったようです。これでは冷静になれと、指摘されるのも無理はありません。誇り高きヴァルキリーギアにあるまじき失態です』
青島はてっきり、また自分が集中していない所為でと言われると思っていたので、μにこうも殊勝な態度を取られると、逆にどう対応していいか分からず困惑してしまう。
『しかし、無礼を承知で一言だけ言わせて貰います』
厳しくなる口調に今度こそ怒られるのかと、覚悟を決めてμの顔を見た青島は再び予想に裏切られた……ミユは、赤い瞳一杯に涙を浮かべていたのだ。
『お願いですから、命を諦めないで下さい……タツヤが死んでしまっては、私はまた独りになってしまう……』
それが電脳幽体という、機械とそうでないものの狭間に立たされた状態になった所為なのか、元々ヴァルキリーギアにつけられていた機能かは分からない。
しかし兵器であることに誇りをもっている彼女に、こんな言ってしまえば無駄な装置が備わっているとはとても思えない。だとするならこの涙は、彼女が数百年の放浪の末得た感情の結晶なのだろうかと、青島は思った。
青島は自分が酷い邪推をしていたことを恥じた。μはたしかに兵器であり機械なのだろうが、少なくともたかだが二十年しか生きていない自分よりも、遥かに命の重みを知っていた。そんなミユが死ぬ為に戦う筈がないと、青島は確信した。
■青島〉μ『ごめんμ、俺……戦うよ。今度こそ戦うよ』
『タツヤ? あの、しかし無理に戦わずとも貴方の仲間たちが……』
■伍行》中隊員『大物がでたぞ! 苦戦している。待機組も大至急屋上に集まってきてくれ!』
会話に割ってはいる伍行の通信によれば、どうやら奪還者は手こずっているらしい。青島は初めて、自分からμの赤い瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
■青島〉μ『行こうμ(ミユ)! 一緒に戦おう、今度こそ一緒に戦おう!』
『タツヤ……了解です。全自動戦闘支援誘導システム……起動!』
立ち上がる青島に合わせて、μの掛け声が響くと共に再び画面が切り替わり、青島は戦場へと駆け戻っていった。




