第12話「戦う理由、戦えない訳」
必死にこの場から離れようとする青島だが、パワードスーツは再びギシギシと軋むばかりで、一歩も動こうとはしない。
『時間をかければかける程こちらが不利になります。手間をかけさせないで下さい、不安だというのならその男も連れていきましょう』
パワードスーツが青い光に包みこまれ、完全に青島のコントロールから外れる。事態が呑み込めない伍行を担ぎあげると、有無を言わさず来た道と逆方向に疾走し、上階を目指し青島の体は勝手に走りだしてしまう。
■伍行〉青島『青島!? お前何をする!』
■青島〉伍行『すいません! すいません!』
あまりのスピードと反動に、二人とも通信に切り替える。幸か不幸か道中に軍隊蜂はいなく、二人はあっという間に旧コクーンタワーの最上部へと辿りついてしまった。
『やはり兵を一カ所に集めていましたか』
青島の視界は、軍隊蜂の大群で埋め尽くされていた。
体液と植物を塗り固めて形成される巨大でグロテスクな軍隊蜂のコロニーは、天井を突き破り見えるだけでも最低三つはそびえ立っているようだ。
壁も床も、空さえ軍隊蜂の兵隊がびっしりと待ち構えていたので、この日遠くから旧コクーンタワー上層部を見たものは、真っ黒な雲がこびりついているのではと誤解しただろう。ブンブンと羽音が絶え間なく響き渡り、自分の足音すら全く聞こえてこない。
■伍行〉青島『もし生き残れたら……絶対殺してやる』
■青島〉伍行『すいません! ほんとすいません!』
降ろされた伍行は悪態をつきながらなにやらヘッドギアを操作する。
■伍行〉青島『すぐに下の階にいる見回りの連中が応援にくる。そいつらが来たら、今度こそ逃げることだけを考えろ』
『その必要はありません。今のタツヤならこの程度の敵は殲滅出来ます』
■青島〉伍行『りょ、了解!』
■青島〉μ『まだそんなこと言ってるのかよ! これだけの数相手に出来る訳ないだろ!』
両脇にいる伍行とμに別々の通信を送るも、μは聞く耳を持たないようだ。μが見えていない伍行は若干不審がったが、すぐに軍隊蜂へと注意を向けた。
『敵が動き出します。全自動戦闘支援誘導システム、起動!』
μがガイドツールを起動するのと同時に、軍隊蜂が一斉に突撃してきた。青島と伍行はパッと散開し、近づいてくる敵を片端から撃ち落としていく。
ここまで連れてこられてしまった以上しょうがない、とにもかくにも生き残る事を考えなくてはと、青島もひとまずμの指示通り行動する。
やはり機動力において、今の青島は他の奪還者を大きく逸脱していた。従来のパワードスーツでもどうにかなる程度の相手では、青島は全く捕捉出来ずすれ違いざまに斬られ、踏まれ、蹴り飛ばされ、近づこうとする前に既にはるか遠くに逃げられては撃ち抜かれるといった始末である。しかし、
■青島〉μ『あっぶねぇ……今のギリギリだったじゃねーか!』
『問題ありません。計算通りです』
μが示すコースは時に敵の攻撃をスレスレで回避するものがあり、一歩間違えれば命を落としかねないような状況が少なからず発生した。
おまけに青島がコースから外れそうになった時や立ち止まろうとすれば、容赦なくモーターを強制稼働させ片時も休ませない始末だ。スタミナ配分はされているのだろうが、メンタルへの配慮が微塵もないのだ。
前方から陸戦型と空戦型、二匹の軍隊蜂が襲ってくる。
どうやらμは自分で動かずとも常に青島の近くを漂えるようで、青島が下からの顎と、上からの針を紙一重でかわす際も、μは独り悠然と青島の視界に映っているだけで、世界から完全に切り離された存在として、戦場のど真ん中でただ浮いているだけだった。
最初は自分だけ危険もなく指示だけすればいいのだから楽なものだと思ったが、やがて青島は違う疑惑をμに抱き始める……もしかしてμは心の底では、今度こそ戦って死ぬことを望んでいるのではないだろうか?
ヴァルキリーギアの誇りとやらで、自壊することはしたくないものの、最早充分に戦うこともままならない。
そもそもμを作ったのは西暦の古代人だ。既に勝敗が決した戦争で、一度は滅んでしまった者達の為に、戦い続ける意味などあるのだろうかと、μが思ったとしても不思議ではない。
先程青島は、μは数百年を独りで過ごしたにも関わらず平然なのは機械故だと思ったが、AIだって長年稼働し続けていればいつか摩耗する。
それが明確な存在意義を与えられたにも関わらず、果たすことが出来ない状況にあったら、いくら超高性能なヴァルキリーギアといえど、狂っていないとどうしていえるだろうか。
μの望みが電脳幽体となり時代に取り残されてしまった自分の消去だとしたら、このままμの指示通り戦っていいものなのだろうか?
『タツヤ!』
青島が迷ったその一瞬が、致命的なミスを呼びこんだ。
軍隊蜂の巨大な顎は回避したものの、そのすぐ後ろに待ち構える針を避け損ねたのだ。
咄嗟にμが腕を動かしてくれたので防ぐことは出来たものの、手に持つライフルは砕け散り、青島もきりもみ回転しながら地面に叩きつけられてしまった。




