2.二組目の客
小さな生き物がざくざくと雪をかき分けて近付く気配。真っ直ぐと近付いてくるのを感じて目を開けてみれば、先日出会ったシェルと同じぐらいの年頃の二人組がガチガチと歯を鳴らしながら立っていた。
「……何か私か、この場所に用でもあったか?」
長い事誰も来ていなかったのに、続いて客が来るとは予想外だ。早く用件を言いたそうにしていたから訊いてみたが、どう見たって面倒な展開しか予測できない。
「せ、精霊の力の借り方を教えろ!」
「こらバル! あ、えっと、教えてくださいお願いします!」
しっかりと防寒着を着込んでいる所為で顔などは殆ど分からないが、しっかりしていそうな一人が初めに喋ったバルと呼ばれた少年の頭を押さえて下げさせる。大方、この間シェルに紹介してやったシルフとスノウを見てここに辿り着いたのだろう。
「誰かに何か聞いてきたか?」
「えっと、聞いたと言うか、調べたと言うか……」
しっかりしている方の少年が言うには、二人は麓の町から少し離れた村に住んでいた少年で、その村は人に仇なす性質の悪い化け物に困っていた。この少年も化け物に襲われそうになったところ、精霊を沢山引き連れた少年が化け物を退治し、その姿にいたく感動したらしい。
「もう駄目だと思ったのに、シェルさん、後で名前を聞いたんですが、は一撃であの狼の化け物を倒してくれたんです。いつも村に化け物が出た時は、怯えながら偶然にも強い人が通りがかってくれるのを待つしかないので、是非自分で戦えたらいいのにとずっと思っていたんです」
熱く語る少年は本当にシェルをカッコいいと思い、自分もそうなりたいと思うあまり、話を聞いた友人と共に勢いでシェルについて調べられるだけ調べたようだ。てっきり、シェルがうっかりここの事を話してしまったのだろうと思っていたが、実際はそんな事は全くなく、長くもない旅路を簡単な聞き込みだけで探り当てられただけらしい。
確かに、精霊の力を借りられれば、普通の人間よりはずっと強くなれる。シェルは召喚された存在ゆえの力なのだが、二人を含めた村人達は完全に精霊の力だと思っているようだ。
ちらりと横目で精霊の様子を窺えば、あまり良いとは言えない顔が見えた。精霊達は単純で、好意には好意を、悪意には悪意を返す性質だが、それは物扱いをすれば同様に物扱いで返ってくると言う事だ。彼らには姿を見せないまま、最低限凍えないように風と雪を弱めてはくれているから、物として彼らが壊れない程度の事はしてくれているようだが、その程度の関係で長く付き合い続けるのは無理だろう。
それにしても、シェルは思いの外うまくやっているようだ。精霊達はただ心の支えになるようついて行かせただけだったが、上手い事能力のカモフラージュになっているらしい。よほど遠い所に呼び出されたのか、追手の話もまだなく、この調子で人助けでもしていけば、何かあっても誰かが味方になってくれるだろう。
「さっさ寒いい!」
そうこうしているうちにバルが限界になったようだ。そういえばもう一人の方の名前を聞いてないな。一人位ならともかく、人数が増えてくると少々ややこしい。まあ、別に二人組のままでもいいか。
「今すぐ下りれば凍え死にはしないと思うぞ」
結局、私や彼らがどう思おうと、精霊の力は貸せないのだから、長居するだけ無駄だろう。
「そう、ですね……」
熱く語っていた方は気落ちした様子で、騒いでいた方も多少悔しそうな様子で麓に向き直る。しかし、少しずつ遠ざかる背中を見て私は声をかけた。
「そうだ。お前達に一つ伝えておこう」
「え?」
一人は気付きもせず、寒さから逃げるようにずんずん歩いて行く。もう一方の、ゆるりと振り返る声色は既に気持ちを切り替えようとした雰囲気があった。
「お前達がいずれ友達になれそうな人になれたなら、その時は力を貸す事もやぶさかではない、らしいぞ」
彼らの背後で悪戯が見つかったような表情を浮かべる雪の精と目が合う。まだ何か言いたそうな気配を感じたが、気付かなかったふりをして再び目を閉じた。