第三十五話
早く戦闘終わらせるために説明はすっ飛ばしました。どのタイミングで入れればいいのか分からなかったとも言う。
迷宮の壁と天井を赤く濡らした血。
……それは、ベルゼウスのものだった。
「ぬぅっ……!?」
何が起こったんだ。
俺には、ベルゼウスが爪を振るところしか見えなかった。
胴体から血を流したベルゼウスが後ろに飛ぶ。再び愉快そうな顔になるのを、俺は呆然と見つめていた。
「ファファファ!良いぞ!まだ終わりじゃなかったか!」
「え?」
興奮したベルゼウスの視線の先。
そこにいたのは、傷が治りつつある南条さん……ではなく。
「……はぁ。本当は、隠しておきたかったんですけどね」
やれやれ、と肩をすくめる二ノ宮さんだった。
「二ノ宮さん……?」
隠しておきたかった、とはどういう事なのか。
疑問に思ったが、特に考える事もなくその答えは出た。この後に及んで、まだ晒していない力なんて決まりきっている。
「まさか、固有魔法……?」
「まあバレますよね。その通りです」
もう隠すだけ無駄だと思ったのか、あっけらかんと言う。
割り切りが早いというか、何というか。平然としている二ノ宮さんを見て、俺は逆に冷静になってしまった。
教えて欲しかったとは思うが、そもそも聞かなかった俺が悪いし、北川先輩と一緒に行動している事が多かった二ノ宮さんだ、「なるべく誰にも手の内は明かさない」方針を忠実に守っていたんだろう。
それでも、流石に命の危機には隠していられなくなったってことか。
「ファファファ、面白くなってきた!第二ラウンドといこうじゃないか、そこの娘よ!」
「そこの娘なんかじゃありません!私には、二ノ宮鶇っていう名前があるんです……よ!」
いつの間にやら手に持っていた小剣を、ベルゼウスに向かって投げつける。
虫を払うようにしてそれを払い除けたベルゼウスは、笑いながら二ノ宮さんに突撃した。
「ファファファファファ!」
「はぁっ!」
ガキンガキン、と金属がぶつかり合うような音が鳴る。
二ノ宮さんが小剣を、ベルゼウスが爪をぶつけ合っていることは分かったが、俺にはそれを目で追うことが出来なかった。
「……速すぎるだろ」
かろうじて剣閃が見えるくらいだ。
先ほどまでは、ベルゼウスが遊んでいたんだということがよくわかってしまった。
「中々やるな!……では、こういうのはどうだ?【ダークネス・ランス】」
「っ!」
一度距離をとったベルゼウスが魔法を放つ。
浮かび上がった7本の黒い槍が、二ノ宮さんを襲った。
「二ノ宮さん!」
「【ライト・ブレード】!」
小剣をしまい、二本の光の剣を握りしめる二ノ宮さん。
闇を祓うように、襲いくる槍を切り捨てた。
「ほう!」
アッサリと魔法を消されたというのに、ベルゼウスに失望の色はなかった。
いや、それどころか、余計に高揚しているように見えた。
「なんとなく分かってきたぞ」
「何を」
「貴様の固有魔法とやらがだ」
おい冗談だろ。俺みたいに分かりやすい固有魔法ならまだしも、二ノ宮さんの魔法はパッと見てわかるようなものじゃないぞ。
「いくらなんでも、そこの勇者と戦闘力に差がありすぎる。素の戦闘力でここまで対抗はできないだろう」
「それがなんだっていうんです?」
「強化系の魔法だな?」
「なっ!?」
「ファファファ、分かりやすいな」
どうやらベルゼウスの予想通りらしい。まさか言い当てられるとは思わなかったのか、二ノ宮さんは動揺を露わにしていた。
ベルゼウスは分かりやすいとか言っていたが、俺には全く予想出来なかった。こいつ、洞察力も魔王級ってことか。
「さて。タネが割れた以上、もう面白いこともなさそうだし……終わらせるとするか」
ふっ、とベルゼウスが息を吐く。
映像みたいに姿がぶれたかと思うと、二ノ宮さんがその場から消えていた。
「……は?」
俺の後ろから爆発音が響く。振り向くと、二ノ宮さんがぐったりと横たわっていた。
俺の時の、焼き直しみたいで。
俺の時とは違って、何があったのかすら目で追えず。
「次はお前だ」
ゆっくりと、俺の恐怖心を煽るように近づいてくるベルゼウスの姿に、どうすればいいのか分からなくなった。
魔王、本気出す。




