第二十九話
ギリギリ週一をキープしています。
今回は説明回(みたいな何か)です。
迷宮内では時間を知ることが難しい。
まず時計自体が高価な上、腕時計なんて見たこともないのだから当然だ。
では、どうやって時間を知るのか。
持ち運びできるような時計があるのかもしれない、なんて最初は期待していたんだがそう甘くはなかった。
恐ろしいことに、体内時計のみで時間を判断しているらしい。
現代っ子の俺たちは携帯や時計が身近にあって、いつでも時間を簡単に知れた。そのため、こちらの世界の人々ほど体内時計が正確じゃないのだ。
ならこちらの世界の人を連れて迷宮に潜ればよかったじゃないか、と思うかもしれない。
けれど、北川先輩は結局はそうしなかった。
俺より断然頭のいい先輩が判断したことだ、俺程度では分からないような理由があったのだろう。
気にならないでもないが、追求したところで教えてくれるとも限らない。
俺なりに考えた結果、時間を知ることよりも俺たちの能力を秘匿することの方が大事だと思ったんだろう、ということで納得した。
それはともかく、時間だ。
どうやら七属性の魔法の他に、系統外魔法という属性で分類できない魔法があるらしく、その中に【時魔法】という魔法があるらしい。
極一部の適性者、それと共に潜っている人達はそれによって時間を知ることが出来るのだそうだ。
【時魔法】とは一体なんなのか、詳しいことは分からなかったのだが、それでも時間を知ることが出来るという事と時間を進めることができるらしいことは分かった。
これだけでも分かれば、適性を持っていれば覚えることが出来るかもしれないのだが……残念ながら、俺たち四人は誰一人として適性を持っていなかったようで、覚えることが出来なかった。
この時点で、普通に迷宮に潜る者であれば諦めるはずだ。
それか以前の俺たちのように、その日のうちに戻るようにすればいい。
しかし、今の俺たちは戻れない。
勇真達に起こったことのヒントを得るか、そもそも王宮の人達には害することが出来ないほどの実力をつけるまではここから出るわけには行かないのだ。
ならもう時間なんて分からなくてもいいじゃないか、という意見は却下だ。
なぜならその意見が出る前に、解決法が見つかってしまったのだ。
どうやって解決したのか。
もちろん時計を作ったとか、携帯が使えるとかいう裏技じみた方法じゃない。
もっと手っ取り早く、俺の固有魔法を使ったのだ。
「【クリエイト・ソード】!」
魔法発動のキーワードを叫びながら、頭の中で剣を思い浮かべる。
ごくごく普通のありふれた剣。その鍔の中心に、時計が付いているようなイメージ。
「うおっ!」
固まったイメージを魔法に乗せると、目を開けていられなくなるほどの光が俺の手の中に迸った。
咄嗟に空いた手を翳すが、光は長く続かなかった。たいした時間も経たないうちに治まり、気がつくと手の中に一振りの剣が収まっていた。
「……大体イメージ通りだな」
若干刃が欠けていたりはしているが、もっとも重要な時計の部分はほぼ完璧に再現出来ていた。
しかし、先ほどの戦いに比べるとかなり剣の造形が粗い。
やはり想像力の問題だろうか。
剣を手放した直後だった上、時計みたいな余計なものを足そうとはしなかったからな。
「……東先輩?」
そうして固有魔法についての考察をしていると、二ノ宮さんが話しかけてきた。
「ああ、悪いな待たせて」
「いえ、構いませんが……それで、出来たのでしょうか?」
「もちろんだ。これを見てくれ」
そう言って剣を手渡す。
この魔法で作った剣は、作る時にイメージしておかないと鞘が無いので、今回は刃が剥き出しになっている。
そのため、無造作に投げ渡したり出来ないので気を使うはめになった。
……次は忘れずに鞘を出そう。
「わぁ……」
「凄いね……」
少し興奮気味にそう言う南条さん達。
なんだかんだで可愛い3人に褒められるとそう悪い気はしないな。
……まあ、俺との間に友達以上の関係が構築されることはないだろうけど。
「……先輩?大丈夫ですか?」
一人で勝手に落ち込んでいると、二ノ宮さんが心配げに俺の顔を覗き込んできた。
「うおっ!近い、近いって!だ、大丈夫だから!」
「?……そうですか」
ああ、またどもってしまった。
不思議そうに俺を見てくる二ノ宮さんの目が痛い。
「……そ、それじゃあもういいか?」
数回深呼吸をするとどうにか平常心に戻ったので、未だに時計剣(仮)を弄り回している二人に問いかける。
「あ、うん。ごめんね、ずっと見てて」
「ごめんなさい、東先輩」
「別にいい、気にしないでくれ」
そんなことどうでも良くなるくらいには心を乱されたからな。
心の中で呟くと、南条さんが剣を戻してきた。
それをつかみ一瞬だけ目を閉じると、剣は小さな音を立てて、手のひらに納まるサイズに縮小した。
「おお!?今度は何をしたの、東くん!」
顔に教えてと書かれているんじゃないかというくらい、好奇心旺盛な様子で聞いてくる南条さんだったが、俺が何かを言うよりも前に篠原ちゃんが口を開いた。
「しぃ姉、ダメだよ。そういうことは教えないようにって生徒会長さんとかが言ってたじゃない」
「あ、そういえばそうだったね。忘れてたよ、ごめん東くん」
「いや、いいさ」
なんせ俺も忘れていたから。
そうだよなあ、勇者同士でも余り手の内は晒さないようにって言ってたもんなあ。
完全に忘れてたわ。
「じゃあ、次からは何も聞かないようにするよ!」
「あ、ああ」
なんとも言えない表情で答える俺。
この時点で、すでにどれだけ手の内を晒してしまったのかを考え、憂鬱になってしまうのだった。
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