第二十七話・前
少し長くなったので二話に分割しました。
後半はまた明日か明後日に投稿します。
ゾワッと。
部屋に入ったタイミングで、これまでに経験したことのないほどの悪寒が走った。
いや、似たような感覚を覚えた事は何度かある。そう、魔物が襲いかかって来た時に感じた殺意のようなーーー。
その考えに思い至った瞬間。
「避けろーーー!!!!!」
俺は全力で叫びながら、最も近い位置に立っていた四季と茜を引っ張って、その場から飛び退いた。
そして。
ドゴォォォォォォン!!!!
耳を劈くような爆音が迷宮を揺らした。
「げほっ、げほっ。大丈夫か四季、茜!」
「う、うん、私は大丈夫」
「私も大丈夫だけど……ゆー兄、背中傷だらけじゃない!大丈夫なの!?」
なんとか四季と茜は庇えたが、代わりに背中が血塗れになっているらしい。
「まあ、お前らが傷つかなくて良かったよ」
二人が傷つかないように、わざわざ庇ったのだから。
少し不満そうにしながらも、顔を赤らめて俯く二人。
このまま眺めていたい気分だったが、残念ながらそんな余裕はなさそうだ。
いつでも二人を守れるように構えながら、目を辺りに走らせる。
土煙で視界が悪く、先を見通すことは難しいが、血痕とかは飛び散っていないので恐らく誰も死んではいないだろう。
ギリギリ声が間に合ったいたようで一安心する。
「とりあえず、魔法で回復させるからジッとしてて!」
「ああ、サンキュ」
俺が状況把握に努めている間に、四季は回復魔法の準備をしてくれていたみたいだ。
俺の背中に手をかざした四季は、無詠唱で【ヒーリング】の魔法を発動。ぼんやりとした光が辺りを照らす中、少しずつ俺の傷も治って行く。
【ヒーリング】のみならず、大半の回復魔法はゲームのように瞬時に回復したりする便利な魔法ではない。
どちらかというと、自然回復を早めるような魔法だ。
ゲームのように回復する魔法もないわけではないが、【ヒーリング】などの魔法と比べると桁違いのMPを消費するため、そう簡単には使えないのだ。
そんな事を頭の片隅で考えながら、焦れったい速度で傷が回復するのを待つ。
こうなると、土煙が晴れないこの状況はある意味良かったのかもしれない。
しかしそんな考えが読まれたのか、唐突に強い風が吹いたかと思うと、一瞬で土煙が晴れてしまった。
(クソっ……)
再度辺りを見回す。
ーーー爆発が起こる前、肉塊の上に座っていたはずの西原先輩がいない。
嫌な予感を感じ、四季と茜を押しのけた後全力で横に飛んだ。
何かが突き刺さる様な音が聞こえ振り向くと、先ほどまで俺がいた場所には真っ黒な刀が突き刺さっていた。
体を起こし体勢を立て直そうとするも、今度は上から魔法が降ってきたため咄嗟に負荷魔法で重力場の防壁を張る。
紙一重の差で間に合ったようで、風の刃と火の玉による弾幕は全て重力場で歪んで消え去った。
今度こそ体勢を立て直して武器を構えると、宙に浮いている西原先輩に雷の矢を放った。
雷魔法は速度に秀でている魔法なのでまず外れないだろうと思っていたのだが、余裕を持って躱された。
少なからず驚いた俺は、西原先輩の戦力評価を上方修正する。
騎士団長と同程度の強さだった以前とは違うらしい。
実力を隠していたのかとも思ったが、こいつにそんな器用な真似ができるはずもない。となると。
「……その力、誰かに与えてもらったものだな?」
どうやら正解らしく、西原先輩は顔を歪めた。
見た感じだと、性格にも少し影響が出ているようだ。そうでもないと、北川先輩にも害が有るようなことをこいつがする訳がない。
紛いなりにも勇者の一人である西原先輩に、性格が歪むほどの危険性がある事を分かっていて力を与えた相手。
まず間違いなく、俺の事を目障りに思っている貴族の仕業だろう。
しかし、勇者を使い潰してでも俺を消したいと思うほど、俺を殺して利益を得るやつがいるのか?
そこまで考えたところで、焦れた西原先輩から再び火の矢が飛んできた。
思考を打ち切り、最低限の動きで躱す。
俺だけを狙って降ってくる火の矢を捌きながら、四季や茜達の様子を見る。
俺が庇った二人以外も、致命傷は負っていないようなので一安心する。
「四季と茜はみんなの傷を治してくれ!その間は俺がこいつの相手をする!」
それでも全くの無傷というわけではなかったので、最低限の治療を二人に任せて俺は戦いに集中する。
雨あられと降ってくる火の矢に、時折混ざる不可視の風の刃。
制空権を取られていることは大きく、ほとんど防戦一方のままにダメージが蓄積していく。
一方的な戦いが続くも、流石にこのまま黙ってやられるのは性に合わない。
「グラビティ・バレット!」
固有魔法を使って無理やり状況を打破することにした。
火の矢の雨を食い潰しながら進む重力場の弾。
雷魔法に比べたらそこまで速くないため、西原先輩も簡単に避ける。
俺に先に固有魔法を使わせた事が嬉しくて仕方が無いのか、満面の笑みを浮かべる西原先輩。
その背中から。
西原先輩に向かって、重力場の弾が吸い寄せられるようにしてぶつかった。




