新しき風 吹き抜ける世界(3) ~ 襲撃、邪炎獣 再び
思えばあの山陰奈落の事件においては、数多くの謎を残したままとなっている。
ひとつはギラバーンの自爆とその結末、ひとつは流 ヒスイの消息、ついでにもうひとつはクァーシアとウェンシアの消息である。
いずれも地底の爆発により、全てが分からなくなってしまったことである。
あれから、流 ヒスイの捜索のため、護山家や火焔族が地底へ赴いているのだが、いかんせん爆発による崩落箇所が多く、探索は進んでいない。
「ひとまず、はるか様に報告するか」
『邪炎帝』と『地上の侵攻』
得られた情報は少ないが、いずれも八霊山の危機に直結する可能性のある大問題である。
風切あやかと佐渡せきは火焔族の集落を後にして、護山家の役場へ向けて歩き出した。
実にその時である……
「せき、分かってるか?」
「まー、それなりにですけど」
周囲から殺気が溢れ出ているのである。
茂みの中、木の陰、木の上、実にあらゆる箇所から、
「…………!!!」
声も息もたてず、ただ攻撃の意思を発している何かがいるのだった。
「相手は4つ、恐らく例の二人組じゃなさそうだ……ついでに浪霊でもない」
例の二人組みならば、殺気は二人だろう。浪霊に至っては、地上を移動するため、木の上から殺気を発することはまずない。ついでに言うならば、
「コイツらの殺気、以前に感じたものと同じだな……!!」
なのであった。
それを感じたのは遠い昔のことではない、つい最近のことであった。
「グルルル……」
低いうなり声をあげて姿を表したのは、
「こっ、こいつは邪炎獣じゃないですか・・・!!」
佐渡せきは高い声をあげて驚いたものであったが、風切あやかはそれを見越していただけに、まったく動じてはいなかった。
空が夕焼けに染まっている。
その空に燃え立つような炎を纏った邪炎獣が4体、風切あやかと佐渡せきを取り囲むようにして地へと降り立ったのだった。
それだけではない。
「ブルルルル……」
「ん?」
まるで耳元にハエが飛んでいるような鈍い音が辺りに響いているのだった。
見てみると邪炎獣の周りに火の玉が飛んでいる。
……いや、火の玉ではない。よく見るとそれは虫である。
(まるで蜂のようだな……)
敵は四足歩行の獣型の邪炎獣が4体と蜂の姿をしたものが6匹だ。
「せき、ここは……」
風切あやかは佐渡せきへ耳打ちをした。佐渡せきが頷くのを確認すると、
「それっ行くぞ!」
取り囲んでいる邪炎獣の1体を思いっきり蹴飛ばすと、その横を通り抜けて走り出したのだった。
「グオオ!!」
もちろん邪炎獣も見過ごすつもりはないようだ。駆け抜ける風切あやかの後ろから、ザッザと邪炎獣が大地を走る音が高く響いている。
駆け抜けた先には広場がある。
邪炎獣は身体に炎を纏っており、そのままの状態で木の生い茂る山道で戦うには、
(とても面倒だ……)
という事情がある。うっかり邪炎獣の炎が気や草に燃え移れば大変なことになってしまうのだ。
風切あやかの狙い通り、3体の邪炎獣と6匹の蜂はすべてこの広場へとやってきた。
先ほど包囲を切り抜けるために風切あやかと佐渡せきで蹴り飛ばした邪炎獣はこの3体に追いつくことができず、今もこの場へ向けて移動していたものだったが……。
「それっ!!」
どこからか現われた人影により、一撃で倒されてしまったものである。
その人影というのが、倒された邪炎獣のかわりに広場へと現われると、
「えーいっ!!」
大きな気合声と共に大刀を大きく振り下げ、邪炎獣を1体斬って落としたものだった。
「!?」
3体の邪炎獣が驚きにより、思わず振り返ったところで、
「たあっ!!」
今度は風切あやかが目の前の邪炎獣を1体斬り倒し、そのうちに更に佐渡せきが斬り下げた刀を斬り上げ、もう1体の邪炎獣を倒している。
これで残る邪炎獣は1体、他に蜂の邪炎獣が6匹である。
「…………!!」
残った邪炎獣が風切あやかと佐渡せきを睨んでいる。
風切あやかと佐渡せきもまた邪炎獣と向かい合ったままとなった。
(こいつは難しいな……)
風切あやかは歯をかんだ。残った邪炎獣は1体である。そのまま斬りかかれば勝算は高いだろう。しかし問題なのは……
「あの周りの蜂の奴だぞ、せき」
「……ですね。ああも1匹に纏まっていると手が出しづらいですね」
言うとおり、邪炎獣1体に対して左右に3匹ずつ蜂が飛んでいるのだ。斬りかかれば当然邪魔をしにかかるだろう。
例えるなら1匹で腕が1本あるといってもいいだろう。風切あやかと佐渡せきの腕を合わせれば4本なのに対して、相手は6本、更に邪炎獣が1体いるというのである。
「今度はせきが囮になってみるか?その間に私が片っ端から蜂を落としてやるし、出来たら邪炎獣も倒してやるが……」
「えぇ……!!」
佐渡せきが苦い顔をした。さすがに囮に使われるのは気持ちが良くないのだろう。しかし、風切あやかとしては、この場を切り抜けるもっとも手っ取り早い方法が、
「それ……」
なのである。
「無理に戦わなくてもいいんだよ。突っ込んだら、そのまま駆け抜けてもいい」
「あ、それならいいかも」
「ただし、突っ込むにしても1匹くらいは刀をぶつけろよ?」
刀を振ることで少しでも隙が出来れば風切あやかとしては追撃がしやすいし、もしもその一撃で敵が倒せれば、それは大きな成果となるのだ。
佐渡せきは大きく頷くと、邪炎獣へ向けて駆け込んでいった。そして、
「てやあっ!!」
大きく振った一撃は運良く蜂1匹を真っ二つにすることに成功した。
おおっ!!とその手応えに佐渡せき本人も感嘆の声をあげつつも、はっと状況を思い出しては、その場を駆け抜けていった。からん、と思わず手から落ちた、刀がその場へ残っている。
(よし、よくやった!!)
風切あやかは小さく笑うと、邪炎獣本体へ斬りかかった。
残るは邪炎獣が1匹に蜂が5匹である。
「…………!!!!」
真っ先に斬りかかった風切あやかの一撃を後ろへ飛び下がる形で邪炎獣が回避すると、その周囲に飛んでいた蜂が羽音を立てて、風切あやかへと向かってきた。
「ちっ、こいつめ!!」
とっさに風切あやかは身体を投げ出し、蜂から離れると、刀を持っていない方の手で砂を掴んで、
「そらっ!!」
先ほどまで自分が居た方へと向けて投げつけた。これで少しは蜂も動きを止めたらしい、羽音が近づいていないことを感じ取って、すぐに立ち上がると、
動きを止めている蜂を縦に斬り払った。更にその近くへ飛んでいる蜂を空いている手で殴りつけ、地に落ちたところを踏み潰し、残りは3匹となった。
残りの3匹は体勢を立て直すために邪炎獣のもとへと戻っている。
(まったく面倒な奴だよ、コイツは……)
蜂を斬り落としたのも拳を当てたのも、半分以上は運による部分が大きかったのである。
それだけでなく、初っ端での佐渡せきとの奇襲により邪炎獣の数を大きく減らせていたのは、今の戦いにおいて、非常な助けとなっているのだ。
もしも最初の奇襲に失敗していたなら、
(本当、ヤバかっただろうな……)
なのである。
さて……
問題はここからになる。
度重なる奇襲により、邪炎獣は完全に警戒をしてしまったようだ。先ほどのように蜂を襲い掛からせるという戦術をとらず、
「蜂を自分の周囲に展開させる」
戦法に出たようだった。
(あれでは手の出しようがないな。どうするか……)
近づけば本体を取り巻いてる蜂が攻撃をしてくるだろう。離れていれば、本体と取り巻きが同時に攻撃をしかけてくる。
「まるで隙がない……」
のである。
この事態を打開する方法、それを風切あやかは考えていたものだったが、
(相手1体に空中を自由自在に動き回るサポート役が3匹)
こうしたことは今までに1度たりてなかったのだった。
あったとすれば……
(昔、かなた様が流れ狼の群れと戦っていたときがあったっけか――あのときは……)
1匹の頭目を3匹の子分が、時に守りつつ、時に攻撃に回ったりなど、真に息のあった連携の元に高山かなたを苦労させていたものだったが……。
(あの時、かなたさまが取った作戦は――)




