新しき風 吹き抜ける世界(1)
「最近、妙な二人組みが出ているって?」
そういった話が八霊山に流れている。
「そうなんですよ」
高山はるかは話すと外を見た。
山陰奈落での『バーンアウトの乱』により、八霊山が吹き飛びそうになってから、一月ほどが経っている。
バーンアウトの稼動による異常な気温の上昇も収まり、3月のほんのりとした暖かさが八霊山へ戻ってきている。
「変わらぬ日常が戻ってきた……」
といえばそれになる。しかし、あの事件の前後では、八霊山は大きく変わったものであった。
「その二人組みは地上に出てきた火焔族じゃないんですか?」
「まー、そうかもしれないのですけどね」
風切あやかの話したように、地上には今、地底で住んでいた火焔族が出てきているのだ。
それもこれも、バーンアウトの事件の影響である。バーンアウトの事件、その終末において、
『邪炎王 ギラバーン』
というバーンアウトに集められていた負の念が形を持って外へ出てきたのだった。
そのギラバーン、自身の力を解放し地上を焼き尽くそうとしたところで、次期水霊である流 ヒスイにより、
「辛うじて……」
その力を抑えられたのであった。
その後、山陰奈落の内部にて大爆発が起こり、地上にこそ炎は噴出さなかったものの、大きな地響きが地上へ鳴り響いたのだろうな。
火焔族はギラバーンの爆発を前に地上へと避難した。これは直接その場に居合わせていた高山かなたの報告によるものだった。
元地底の王であったナオキや現地底の指導者であるサキ、その手伝いであるヨミ、それに地底に住んでいた火焔族は全て今は地上で暮らしているのだ。
八霊山の次期山神である山城 暁とも良い関係を築いている。過去にはお互いに憎み争いあった関係であったのだが、
「今は八霊山のために……」
と火焔族を代表してサキが山城 暁へと頭を下げれば、
「いや、バーンアウトから八霊山を救ってくれたのは火焔族の活躍があったからこそだ」
といい、二人が手を握り合ったのだ。
さて……
そういう経緯もあり、今では山道を歩いていれば火焔族を見かけることは珍しいことではない。
だから風切あやかも八霊山に見慣れない二人組がいるならば、火焔族ではないか?と考えることは別におかしいことではないのだ。しかし……
「まぁ、そうかもしれないですが、その二人組は『火焔族』とは雰囲気が違うという話なのですよ」
「雰囲気ですか?」
雰囲気といわれても、実際に見ていないことにはどう雰囲気が違うのか分からない。
一応、火焔族というだけならばがっしりとした体つきをした体力自慢が多いという特徴を持っている。
「んー、どう違うんですか?」
「それはですね……」
高山はるかが話すには、まずは服装が違うらしい。
護山家でも火焔族でも見ることのない着物を着ているのが一人、そしてもう一人に至っては皮(と見られる)鎧を着込んでいるのだそうだ。
「なるほど、鎧の方は目立ちそうですね……」
「着物の方もまず八霊山じゃ見ないものですから、見たら結構分かるそうです」
また別の特徴として、
「八霊山を彷徨っている」
というのがあるそうだ。
護山家や火焔族ならば、昼間はおおよそ各自の役目や目的を持って、八霊山を行動していることが多い。
それなのにその二人組みというのは、特に目的や役目を持った様子もなく山の中を、
「うろついている……」
というのだ。
山を荒らそうというのでもなく、山の者と接触をしようという訳でもない。
八霊山では見かけない服装をしていて、何をしようとしているのか全く分からない二人組み、つまり、
「妙な二人組」
になるのである。
「そういう訳で、少し調査をしてきてくださいな。できれば揉めごとは起こさないようにしてください」
「分かりました。はるかさま」
風切あやかは立ち上がると、護山家の役場をあとにした。
外ではウグイスが声が響いている。
高山はるかの話によれば二人組の特徴は、
一人が背の高い武辺者で大きな赤いリボンで髪を結んでおり、赤黒い皮の鎧を着けているのもこちらだそうな。
そしてもう一人は背の小さい子供のような姿をしていて、手には鉄扇を持っているという。
ちなみにこうした二人組ついて、地底の指導者であったサキは、
「いえ、全く分からないですね……」
と心当たりがないと話していた。
このことはつまり、この二人組が地底から出てきた者達ではないということを示しているのだろう。
(ま、とにかくソイツらを見つければ分かることだな。特徴的に『見れば分かる!』って評判だからな)
風切あやかは足を早めた。
一応、八霊山の見回りも兼ねている。山陰奈落の一件は八霊山に大きな影響を与えたものだった。
その影響が未だ残っていないか、またその影響により、
「災害や異常が起こってはいないか……」
そうした確認に八霊山の護山家達は大忙しなのであった。
(なるほどな。怪しい二人組を見かけるのもそうしたわけか……)
見回りをしていれば、自然、そうした異変(妙な二人組)も目に付くのであろう。
さて……
風切あやかがまずやってきたのは川べりである。
空には太陽が昇っている。丁度良い暖かさと川の流れによる涼しさ、それに川の音である。
(こうした丁度いいときには……おっ、いたいた)
風切あやかが見る先には一人の人影が居て、岩場で横になっている。
「おい、調子はどうだよ?」
横になっている人影へ風切あやかが声をかけると、
「あー、いや……えっ、あやかさん!?いやっ、これは――」
突然のことに身体をじたばたさせるやいなや、
「うわわっ!!」
岩から滑り落ちてしまったものだった。
「いてて……あっ、あやかさん、こんにちは」
「こんにちは、じゃないだろ?昼寝は気持ちよかったのか?せき」
「あはは、お陰さまで……」
佐渡せきが愛想笑いを浮かべている。
「仕事が入ったぞ。一緒にこいよ」
「今度はいったいどんな仕事ですか?」
簡単に佐渡せきへここまでのあらすじを話してみると、佐渡せきは大きく頷いてみせて、
「それくらいなら、いくらでもやれますよ!」
大張り切りの様子であった。よっぽど、
「できるだけ揉めごとを起こさないように……」
といった注意が余程に嬉しいらしい。
腕っ節は悪くないものの、戦うことへの自信と経験は持ち合わせていない佐渡せきである。
だから戦うことのない(であろう)仕事は彼女にとっては嬉しいのだろう。
護山家の役目の上で、そうしたことはあんまり良いことではない――ので風切あやかは胸の内で苦笑をしている。
(これでも一応、立派に戦いをこなしてきているんだけどなぁ……)
実力だけなら並みの護山家よりは戦えると風切あやかは見ている。
「とにかく一緒に来い。見回りだけなら気持ちが楽だろう?」
「むー、そう言われるとスッキリしないけど……分かりました」
腕っ節に自信がなく戦うことに関しては前向きではないものの、それを指摘されることは、どうにも面白くはないらしい。
二人はこの場を後にして歩き出した。そしてその様子を高台から眺めていた影がいることに二人は気づいていなかったのだった。
太陽は空へ昇り、暖かさは増してきている。




