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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(37) ~ 燃え行く地底 完

 それを二人はじっとみつめていた。

 「ぐっ、ぐおおおお!!」

 ギラバーンの低いうなり声が大きく響いている。

 その苦しそうな声からすれば、恐らくは深い傷を与えることができたのだろう。

 しかし、それでいて二人は油断せずにギラバーンから目を離さないでいる。

 「…………そうはさせぬ」

 「なに?」

 高山かなたが呟いた。

 目の前に居るギラバーンは、まるで焼け落ちた家屋のように崩れ落ちており、身体を覆っている炎も、

 「小さく……」

 なってきているのだ。しかしそれでいて、

 「こんなことに意味はない。我が滅することは我が消えることを意味してはいない……」

 「なんだと?それはどういうことだ?」

 「我の復活は始まりに過ぎぬ。本当の地獄はこれから……!!!!」

 「なっ……!!」

 そういった瞬間のことだった。高山かなたの前へ強い熱風が迫ってきたのだった。

 「くっ……!!」

 吹き飛ばされそうになりながらも、高山かなたはその場に踏みとどまると、

 「水霊の姫、無事か?」

 流 あさひの姿を探した。彼女は高山かなたの後ろへ膝をついていた。

 「なんとか大丈夫です……けど、これは大変ですわ!この力は……」

 バーン・アウトに近い。と流 あさひは思った。

 いや、完全状態のバーン・アウトまではいかないだろうが、地上を吹き飛ばし、その地へ大きな爪あとを、

 「いつまでもいつまでも……」

 残すほどの威力はあるだろう。

 ちなみに完全状態のバーン・アウトが発動した場合は、地上を吹き飛ばし、その周辺全てを焼き払い、未来永劫、その地域は、

 「火炎地獄となってしまう……どうだい?素敵だろう?」

 というのを流 あさひはクァーシアとウェンシアから聞いている。

 そのバーン・アウトの力をギラバーンは解放しようとしているのだろう。

 もともと完全状態になる前にバーン・アウトは止めた。それにエネルギーの持ち主であるギラバーンへは深い傷を与えている。

 このことから察するに、今回の爆発の威力は、

 「あんまり高くはならないはずです……だけど……」

 流 あさひは顔を伏した。

 彼女ならば多少なりともギラバーンの力を抑えることができるかもしれない。しかし、それは可能性があるだけで、彼女自身は、

 (そんなことはできない……)

 唇をかんでいる。

 自信もなければ、それを行うだけの気持ちもない。

 自分の成すべきことは、姉である流 ヒスイを、

 「八霊山のトップに据える」

 ことなのである。

 だから流 あさひはそれを見届けなければならないし、そうするために、これからも行動をしていかなければならない。

 (だから、私がここで終わってしまうわけには……)

 いかないのだ。それが流 あさひの正直な気持ちにして、一番のところであったのだ。だが、そうした彼女の思いとは別に、この場へ近づいてくる一つの影があった。

 「あさひ……か?」

 「えっ……」

 不意に声がした。流 あさひには聞き覚えのある懐かしい声だった。

 「あなたは……水霊か?」

 高山かなたが問いかけると、その人影は、

 「いかにも、私は流 ヒスイ、邪悪で大きな力を感じて来てみれば……」

 流 ヒスイが息を呑んだ。倒れ落ちたギラバーンは既に動く力を失っているものの、ギラバーンの持つ邪悪な炎はギラバーンの意思をもって大爆発を起こそうとしているのだ。

 流 ヒスイの髪が熱風で流れ、その端正な顔立ちが一つの決意の色を浮かべた。

 「すぐにここから外へ出るんだ。奴の爆発は私の力で食い止める」

 「そんな、待ってください!お姉さま!!」

 叫び声が流 ヒスイの声を遮った。流 あさひである。

 「それだったら私がっ!!そして私がやったことをお姉さまがやったことにして!!」

 「それはダメだ」

 「何故でっ……!?」

 そこまで言い出したところで、流 あさひの声が止まった。見てみれば、彼女の腹に流 ヒスイの拳が食い込んでいる。

 「なんとかしてやりたかったが……時間がない。まだ、お前にはやらなければならないことがある」

 その声を、意識が遠くなりながらも流 あさひはしかと聞いていた。

 (そんなこと……そんなこと……私がやらなくてはいけないことって……!!)

 それがいったい何であるのか今の彼女には分からなかった。

 ただ姉である流 ヒスイが言うことなのだ。

 (間違いじゃない……)

 のである。

 流 ヒスイはギラバーンの爆発を食い止めると話していた。それを流 ヒスイに任せてしまう、

 (また私を見捨てるなんて……)

 その悔しさが胸を締め付けたが、もはや流 あさひに考える力はなかった。

 「君は護山家か?……いや、何者でもいい。彼女と外に居る者を連れて地上へ出るんだ」

 「分かった。貴方はどうするんだ?」

 私が……と流 ヒスイは呟こうとした。だが、目の前で眼を閉じている流 あさひの顔をみていると、

 (私が奴を食い止める)

 と口に出すことは出来なかったのだった。

 言い方の問題ではある。しかし流 あさひをもう一度、

 (一人にするような……)

 発言はしたくはなかったのだ。流 ヒスイの目から、一つ水が流れると、

 「私は後から外へ出る。だから、先へ行くんだ」

 振り絞るような声で発し手を払った。

 「……分かった。水霊の姫のためにも、無茶はしないでくれよ」

 高山かなたは小さくそういうと、流 あさひを抱きかかえて、その場を走り去っていった。

 熱風が頬を通り過ぎていく。大分ギラバーンからエネルギーがもれ出ているのだろう。先ほどよりもその熱さは、格段に高まっている。

 「ギラバーン、永年に渡り、積み重なった邪念、そしてその力……簡単には消えるものではないだろうが……」

 流 ヒスイが両手を前へ構え、そこへ精神を集中させる。

 「お前を地上へ行かせる訳にはいかない。今一度、その力を封じて……!!」

 青い閃光が流 ヒスイからひろがると、ギラバーンが発している炎を、そして熱気を段々と押さえ込んでいった。

 ――だが、その炎は完全には消えはしなかった。

 (……私にできるのはここまでだ。後は地上の山神……山城、お前がケリを付けてくれれば……!!)

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