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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(35) ~ 動き出すもの

「大きな力が一つ消えた?」

 「そうだな。これはあやか達が、あの邪炎霊を倒したってところか」

 通路を二つの足音が、たんたんと進んでいく。

 ヒット津は黒い髪をした長身の女性、もう一人は水色に流れる髪を肩まで流している可憐な少女である。

 先ほどまでは、至る所に感じていた邪炎獣の気配も、この時から、

 「ぱったりと……」

 感じなくなっている。

 「使い手が倒れたお陰で、その使い魔も力を失ったのでしょう」

 と流 あさひは説明した。ちなみに、長身の女性へは自分のことを『流 ヒスイ』と伝えている。また長身の女性も自分のことを『高山はるか』と話しており、互いが互いに姉妹の名前を騙っているという、本当に、

 「奇妙な状況」

 になってしまっているが、本稿においては互いを呼んでいる場合以外は『本名』で通すことにする。

 「じゃあ、こっちもバーンなんとかを止めれば一件落着だな。よーし、あやか達だけにはイイ格好をさせないからな!!」

 高山かなたは一人張り切っている。一方で流 あさひはというと、

 「そうですね。早く解決して、地上へ戻りたいですわ」

 と小さく話していた。これは半分が建前で半分が本音である。

 彼女の目的は一つに姉である流 ヒスイの救出があり、もう一つに地底の脱出がある。

 もちろん、どちらにしても、バーンアウトは止めておかなければならない。その大前提を達成するための邪魔者である、

 「あの灼熱バカコンビ」

 たるクァーシアとウェンシアが倒れたのだから、流 あさひの目的は半分は達成したといってよいだろう。そして、出来れば目の前にいる難敵である『高山かなた』も始末しておきたいが、

 (これは私には難しい……)

 と思い極めているのだった。

 そもそも力の差がありすぎる。そのうえで隙もない。

 僅かでも殺気を見せれば、すぐにでも感知されてしまうだろう。だから、倒すことは既に諦めて、他の目的の達成へと、流 あさひは切り替えているのだった。

 さて、そうしているうちに二人はバーンアウトの中心施設へ着いたようであった。

 中はあっさりと空間が広がっており、その奥には大きな光る板が取り付けられており、なにやらごちゃごちゃと光を放っている。そしてその光の下には、様々な色のついた突起物がある。

 「これをどうしたらよいのかしら……?」

 流 あさひには、これらのことが全く分からない。こうした、

 『未知なるもの』

 のことなど、彼女は今まで全く知ってはいなかったのだ。

 地上にいたときは、水の精を使役していた。姉の流 ヒスイが八霊山の実権を握るための方策を、

 「次から次へ……」

 考えることに終始して、とてもそれ以外のことなどについては、

 「考える必要もなかった」

 のだった。

 「こんなことも分からないのか?水霊の姫」

 目の前の物体に流 あさひが唖然としていると、不意に後ろから高山かなたがぐいっと身を乗り出した。

 「なるほど、な。これくらいなら、私にもいじることができる」

 「高山はるか様には、これのことをお分かりになるのですか?」

 目の前の物体を操作している高山かなたを流 あさひは目を丸くしながら眺めていた。

 「ああ、旅をしている時に、こういうキカイを使う種族、その街へ、出会ったことがあってさ。その時も、こうしたキカイをいいじっては事件を解決したことがあるんだよ」

 「へ……へぇ、そうなのですか……」

 やはり油断ならない相手、いや、自分ではとても太刀打ち出来る、

 「相手ではない」

 と流 あさひは改めて思ったものであった。そして、

 (自分の知らないこと、知らないもの)

 が外の世界には溢れている……ということを思い知った瞬間でもあったのだ。

 「ふむ、これで止まるな。それ」

 と最後の操作を終えると、ガラスのカバーに覆われていたレバーが現われた。

 恐らくは、これを引けばバーンアウトは止まるのだろう。

 他のボタンやスイッチと異なり、このレバーは目立つ上に一際大きなものだった。

 「こいつがバーンアウトへエネルギーを流しているレバーだ。こいつを下げれば、エネルギーの流れは止まり、バーンアウトは止まるだろう」

 高山かなたはそう説明すると、レバーへ手をかけた。そして、そのままレバーを下げた瞬間のことであった。

 「我が復活を妨げるもの、貴様等、何者だ?」

 どこからか低い声が響いてきた。

 「なんだ!?クァーシアとウェンシアが戻ってきたのか?」

 「いえ、あの二人はこんな声ではありませんし、様子も全く違います」

 「じゃあ、あいつらのほかに何者かがいるのか?」

 高山かなたと流 あさひはそれぞれ刀を構えた。

 相手の姿は見えないものの、どこから聞こえる声とともに、強烈な殺気や威圧感が発せられるのを全身で感じられる。

 「貴様等は地底の者ではないな?あの二人の邪炎霊を倒したのは貴様等か?」

 太く低い声が問いかけている。

 「そいつらをやったのは別動隊、私達の仲間のやったことだな。私達はバーンアウトを止めに来たんだよ」

 「バーンアウト、それは我の仮の名。我が名は邪炎王ギラバーン、貴様等如きに止めることはできぬ」

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