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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(32) ~ 一方その頃 バーンアウト正面

 一方その頃のことである。

 バーンアウト正面での戦闘は、

 「ふぅ、あらかた方がついたわね」

 と戦場に立っている最後の一人が呟いているように、

 「…………」

 もはや足音の一つも立たないくらいに静まり返っていたものだった。

 戦場に残っている少女は流 あさひであった。

 火焔族と邪炎族がぶつかりあっていたこの場所で、彼女は敵味方の区別なく、戦闘を行っているものを倒してきた……もっとも、火焔族の息は止めてはいない。

 邪炎獣に至っては倒すと力を失い消滅してしまうようだった。この点については、自分達、水の精が生成し操る使い魔と同様であった。ちなみに流 あさひの作れる使い魔は、

 『水棲竜』

 という水辺での行動を得意とする蛇のような生物である。水辺での行動を得意としているが、長いヒレを利用して宙を浮くこともできるし、地上を音もなく這って移動することも出来る。

 こうした『水棲竜』の能力を使い、流 あさひは姿を隠しながら地上の様子を知ることが出来たのだった。

 さて……

 「どうしたものかしらね。邪炎獣を倒しても何も起こらないところをみると、バカコンビは主力の連中の相手に夢中みたいだけど……」

 とすれば流 あさひとしては都合の良いことであった。今のうちに、流 ヒスイを奪回し――あとは、バーンアウトを止めてしまえば良いのである。

 「…………でもなぁ」

 だがそれではとてもつまらない。

 何しろ自分の功績にはならないのだ。このまま事態を進めたとして、火焔族……もといアイトスからすれば、いつのまにかバーンアウトが止まっていたに過ぎないのである。

 これではとても(裏で解決したとはいえ)流 あさひとしては面白くないのだった。

 「だとしたら、どうするべきかな」

 流 あさひは考えている。自身が倒した火焔族を積み上げて、その上に腰をかけているのだ。

 色々と構想を考えていると、不意に、

 「おっ、そこに居るのは水霊の姫じゃないか?」

 「…………!!!!」

 自分を呼ぶ声がしたので、まるで寝込みを襲われた猫のように、ぱっとその場を飛び退き、2本の翡翠刀を構えたのだった。

 長年、姿を隠していた自分を、

 『水霊の姫』

 などと呼ぶ輩は八霊山ではもう居ないはずである。

 流 ヒスイは自分のことを『あさひ』と呼ぶし、敵対している(と流 あさひは思っている)山城 暁は『流 ヒスイの妹』程度にしか思っていないのだ。

 「お前は何者だ?何故、私のことを知っている?」

 「おや、的中か?半ば適当に言ってみただけだったが……」

 「へっ、ええっ!?」

 思わぬ返答に一瞬、流 あさひが驚いた瞬間であった。

 「コレコレ、これ翡翠刀だろ?私も見たのは初めてだけどさー、ずっと触ってみたかったんだよ――話に聞けば、翡翠刀を持っているのは水霊の姫だけだって話だからさ」

 いつの間にか、その人物との距離はなくなっている。

 間近で自分の持つ『翡翠刀』を眺めているのだった。

 (む……こいつは確か……)

 『翡翠刀』を間近で見ているからには、その顔は流 あさひのすぐ近くにある。

 流れるような髪を後ろで縛り、『翡翠刀』に見入っているその表情はまるで子供のようであった。

 「……あの、貴方はどちら様、でしょうか?」

 流 あさひは恐る恐る聞いてみた。別段、現状では恐れるような相手ではない。ただ『こと』と『次第』によっては、

 (どうにか……)

 しないといけない。

 「ん?ああ、ごめんごめん。ついつい見たことのない刀を見ると夢中になっちまってさ……私は 高山はるか というんだよ」

 (……くっ……ふっ)

 流 あさひは思わず笑い出しそうになるのを、なんとか微笑程度に抑えてみせた。

 「む、何かおかしいことでもあったかな」

 「いえ、なんでもありませんよ。それよりも……」

 どうしてこの人物がこんなところに居るのか。そのことが流 あさひは気になったものだった。ついでに、

 「申し送れましたね。私の方は『流 ヒスイ』というのですよ。貴方の仰るとおり、水霊の姫……です」

 と名乗っておいた。相手がその手なら、こちらも、

 『その手』

 という訳である。

 「ほう、お前が暁の好敵手か。ふーん、意外に……」

 「意外に?」

 「――小さいんだなぁ」

 「……よく言われますわ」

 確かに流 あさひの体格は決して大きくはない。というよりはむしろ小さい方であった。小さいからこそ、天道家でのあの時の流 あさひ……もとい天道 あさひと名乗っていた頃は末っ子だったのだ。

 今、目の前にいる高山はるか、いや

 (本名は高山かなた……でしょ?)

 流 あさひよりも頭ひとつ分くらい体格に優れている。

 ギリっと小さく歯軋りをすると、流 あさひは、

 「それよりも貴方様はどうしてここに?あ、私は水霊さまの使いで、地下の異変を見に来ているんです」

 顔を上げて尋ねてみた。一応、両手の翡翠刀は手放さずに、いつでも不意の戦闘に備えられるようにはしている。

 「なるほどな。私の方は……」

 高山はるかと名乗る女性は、うーん、と手を口もとに当てて一つ息を置くと、

 「強いやつを求めて来たんだよ」

 キッと流 あさひの目を見て答えたものだった。

 (…………こいつ)

 流 あさひも睨み返そうと思ったものだったが、

 「ふっ……」

 とその考えは顔に出す前に胸の中へと飲み込んだ。

 高山はるかはそう答えていても、戦闘態勢はとってはいない。刀は腰に帯びたまま、すぐにでも抜くような姿勢も見せてはいないのだ。そんな相手に戦意を見せてはいけない。

 (ここでは私の方がやられる方か……)

 それを流 あさひは悟っていた。少なくとも、この状況では高山はるかの方が実力に勝っている。

 「そうですか。それでは高山……はるか様は、この後どのようにするのでしょうか?」

 「そうだな。ここはもう夢のあとみたいだからなぁ……とりあえず中に入って、バーンなんとかを止めるか」

 「では私もお供しましょう。私も、山のためにバーンアウトを止めなければならないので……」

 「ふむ。水霊の姫とデートも悪くないか。どうぞ、姫君、宜しくお願いします」

 そう言うと、高山はるかは流 あさひの手を取り、バーンアウトの中へと歩を進めていった。

 流 あさひは慌てて『翡翠刀』をサヤへ収めると、高山はるかの隣へ続いていったのだった。

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