山陰奈落の変 の章(17) ~ 炎焔堂
程なく進むと、大きく開けた空間へ出た。
空間……というよりは一つの街というべきだろうか。
石で作られた建物が立ち並び、そこは多くの人影で賑わっているのだ。
「この八霊山にこんなところがあったとは……」
思わず風切あやかが息を呑んだものだった。
風切あやかが八霊山へ来てから、既に多くの時間を過ごしている。
八霊山のことは庭のように知っているし、そこに住んでいる生物も見知っている風切あやかなのである。
そんな風切あやかでも、まさか八霊山の内側に、このような世界が広がっているとは、
「夢にも……」
思わなかっただろう。
いや風切あやかだけではない、地上に住む誰もが、そんなことを考えもしなかっただろう。
さて……
中央の大通りを進み、ひときわ大きな建物の前へと一同はやってきた。
「へぇ……これはまるでお城だなぁ」
と佐渡せきが声を上げた。
佐渡せきは、前章の『水霊ヒスイの挑戦!』において、水霊の城を訪れている。
その水霊の城とはまた違った趣を持っているのが、このアイトスの城なのである。
「ひええ、でっかいねぇ」
まさしく大きい。
門の入り口は大きな柱が4本立っており、まるで何かの神殿を思わせるような造りをしている。
そこから左右へと建物が続いていて、
「一体何に使っているんだろう……」
数え切れないほどの窓が付いているのだった。
こうした建物と部屋の数については、地上の護山家の役場ではとても考えられないものであった。
「アイトスは大分変わっちまったが、この地獄院だけはそのままなんだな」
「ええ、今は『炎焔堂』と名前は変わりました。そして、一度は取り壊しも考えられていたんですよ」
「マジかよ……コレ建てるのかなり苦労したんだぞ?あんときは地底の死霊を総動員したし、手元の資材や金銀も、半分以上を使い込んだ大事業……壊すなんてとんでもねぇよ」
「……ですね。そういう事情とサキさまの要望もあって建物自体は残されたんですよ」
「うん?建物自体?」
「はい。建物は残りましたが、ナオキさまの彫像や悪魔像の類は全て取り壊されました。前時代の象徴は消しておきたい……と決められましたので」
「…………そうか」
ナオキが苦笑を浮かべた。
そうしているうちに建物の中へ入った。
屋内は広くがらんとした空間が広がっている。
天井が非常に高く、それでいて部屋には机や椅子が置いてあるだけで、殺風景なものであった。
建物の中を彩っているものといえば、通路に沿って敷かれた、
「赤い絨毯」
くらいのものであった。
「意外と中は寂しいんだな」
外は多くの人影で賑わっていたが、この建物の中には数えるほどの気配しか感じない。
「ええ、普通の炎焔族……ああ、あなた達にとっては死霊といいましたっけ?多くの年月を経て『死霊』は『炎焔族』へと変わったのですが……はい、その辺りは後ほど、サキさまがご説明くださるでしょう。まずは着いてきてください」
黒いローブの人物は淡々と告げると、建物の中を進んでいった。




