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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(15) ~ 灼炎兵器 バーンアウト

 「私の邪炎獣がやらえてしまったわ。ウェンシア」

 「ということは、またお客さんが来ていたんだね……僕が相手をしていれば……」

 「いいのよウェンシア、これであおいこ……私とあなた、同じですわ」

 「そう……だった!それこそ僕達が望むものだったね。もしかしたら君は……」

 まるで演劇の俳優ような邪炎霊、ウェンシアとクァーシアである。そんな二人を離れたところで眺めている者が一人いた。

 (なーにが、もしかしら君は……なのでしょう。あの灼熱バカカップルは……)

 呆れながらにそれを眺めているのは、水霊である流 ヒスイの妹の流 あさひ、またの名を、

 「水影 あさひ」

 であった。

 水影あさひが山陰奈落、もとい地底世界へやってきたのは、あの山城 暁とナオキが戦い、両者重傷を負ったあとのことだった。

 「奈落王が倒されました。ボロ……いえ、彼女の持っていた『暗黒石』をあなた方に渡しましょう。その代わり、私達を匿い、そして地上侵攻のお手伝いをして頂きたいのです」

 などと、水影あさひは丁寧にこの灼熱バカカップルに協力を願い出たものである。

 もちろん、クァーシアとウェンシアを利用する腹積もりだった。地底世界に住んでいる死霊は水の精、その術に非常に弱いのだった。

 クァーシアとウェンシア、二人の邪炎霊ですらその例外ではない。

 「なるほど、確かにこれは本物の暗黒石のようだ。クァーシア」

 「ええ、これがあれば地底世界も地上世界も私達だけのもの……」

 水影あさひから暗黒石を取り上げると、二人してうっとりとした顔で暗黒石に映る二人の顔を眺めていたものだった。

 それを見て、さすがの水影あさひも寒気を感じたものだったが、暗黒石を二人の邪炎霊に渡してしまった時点でもう遅かった……。

 「この石の力で『バーンアウト』を奪取できれば……ふふ、地底も地上も全て私達だけのものになる」

 「バーンアウト?なんでしょうか、それは……?」

 「君達、地上の者達は知らないだろうね。バーンアウトは地底世界へ幽閉された死霊達が、地上への復讐のために作り上げた兵器さ」

 「兵器?」

 「そうそう、地底の灼熱爆熱を地上へと大放出して、地上世界を焼き尽くすの」

 「……!!」

 「作ったのは良いけど、あれから大分年月が経ってね……死霊は過渡期を経て地上への復讐心を捨ててしまったんだ。地底都市アイトスを築き上げ、自らを火焔族として、そこで平穏に暮らすことを選んだんだよ」

 「へぇ、そうなの」

 水影あさひは内心、不味い……と思ったものだったが、やはり時既に遅かったのだった。

 クァーシアとウェンシアは暗黒石の力で強化された自身の能力をふんだんに使って、すぐにバーンアウトを奪取、占領してしまったものであった。しかも、そのままバーンアウトを起動させてしまっており、このまま行くと、1週間ほどでバーンアウトが完全に起動、地底と地上世界を焼き尽くしてしまうそうなのだ。

 今、クァーシアとウェンシア、それに流 ヒスイに水影あさひがいるのは、そのバーンアウトのある施設である。

 流 ヒスイはナオキとの戦いにより意識不明の重傷を負ってしまい、未だ意識は戻っていない。姉である流 ヒスイを必死なほどに慕っている流 あさひ……もとい水影 あさひが二人の邪炎霊を監視しながら、看病しているといった具合なのだ。

 (ともかくも、あの灼熱バカカップルを始末しなければ……)

 ならないのである。

 バーンアウトを完全に発動させてしまったら、姉である流 ヒスイを八霊山の頂点に据えるどころの話ではなくなってしまう。

 (あいつらと戦って、消滅させてやることは……)

 水影あさひが思う以上に難しい。

 もともとの力だけなら、クァーシアとウェンシア、二人の邪炎霊を倒すことは訳のないことである。しかし、

 『暗黒石』

 を持ち、二人の力が増幅された状態では、

 「水の力をもってしても、炎の力を完全に押さえることはできない」

 のである。

 それだけでなく、クァーシアとウェンシアのどちらかが逆上し、バーンアウトに手を加えることさえもあり得る。

 そうなってしまえば、何が起こるか分からないし、事実、

 「君が僕達に手を出せば……」

 「私が貴方を許さない」

 「僕もまた許さない」

 と静かに脅しをかけてきているし、それ以降はバーンアウトのそばを陣取って動かないのである。

 少し前にウェンシアが侵入者を倒すと出て行ったことはあったけれども、その間は、

 『暗黒邪炎獣』

 という黒い暗黒の炎を纏った龍とも獅子ともつかない強面の邪炎獣が2匹、クァーシアの前から離れず、やはり水影あさひとしても手が出せなかったのだった。

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