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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(8) ~ 高山かなた

 ここまでの章へ至るまでの間に、度々『高山かなた』という人物についての話は出てきたことと思う。

 高山かなたは風切あやかの上役、高山はるかの姉である。

 その高山かなたが八霊山を出ることになったのには訳があった。

 それは彼女が八霊山を出て行くきっかけとなった事件、

 『黒烏けんしの天道うりゅう殺害……』

 による黒烏けんしの八霊山の追放である。

 この事件は、八霊山、山神さまの地位を転覆させ、水霊である流 ヒスイを八霊山の神へ据えようとした、

 「水影あさひ」

 による陰謀だったのだが、その秘密を知った天道うりゅうが自分の師である黒烏けんしへとその一端を話してしまったのが、ことの発端だったのだ。

 勿論、天道家へと侵入しその計画を進めていた水影あさひ(天道あさひ)は天道家を操り、裏切者である天道うりゅうとそれを知ってしまった黒烏けんしを始末しようとしたのだ。しかし、天道うりゅうは自害、その後に黒烏けんしは密かに八霊山を追放という処分が下ってしまったので、水影あさひもそれ以上の手段が取れなくなってしまったのだった。

 ……と、この事件にはこういった背景があるのだが、高山かなたにおいては、その秘密を知らされてはいなかった(天道うりゅうと親交があったという点では、天道家にマークはされていたのだが……)

 そういう事情もあって、高山かなたは八霊山を出て行くにあたり、

 「黒烏先生を探しに行くよ」

 という目的があった……しかし、その一方で周囲へは、

 「外の世界を見て回りたい」

 と語っていた。

 実の妹である高山はるかへも「もっと外の世界を見ておきたい」と話し、本当の目的については触れなかったものだったのだ。

 高山かなたが本当のことを語ったのは、山城 暁と白井しゅうこ先生くらいであろう。

 当時の高山かなたは護山家としては非常に強い実力を持っていて、剣術と武術ならば護山家でも1位2位を争うくらいに強かった。そんな高山かなたを山城 暁はとても頼りにしていたし、一言で表すならば、

 『親友』

 といっても双方が照れるくらいに親交が深かったものだから、高山かなたも本当のところを話したのだろう。ちなみに、

 「皆にもそのように話せば良いじゃないか」

 と山城 暁は言ったものだが、高山かなたは、

 「馬鹿を言うなよ。そんな恥ずかしいことを言えるかって……」

 と話していたそうだ。

 白井しゅうこ先生については、先に心のうちを見破られてしまったらしい。

 もともと高山かなたはその活発さゆえに、怪我を負うことが多かったそうな。

 それ故、接する機会も多く、行動と心理を把握されていたのだろう。

 「しゅうこ先生には敵わないな……」

 と苦笑を浮かべていたのだった。こういった高山かなたの表情を見たのは、今現在では白井しゅうこ先生だけなのである。

 そうして周囲へは、『外の世界を見て回りたい』という目的を伝え、高山かなたは八霊山を発って言ったのであった。

 その高山かなたが八霊山へ帰ってきたのが、どうやら昨日のことらしい。

 「久しぶり、暁はいるか?」

 そういって門を叩いてきたから、門番はひどく警戒したそうだが、

 「その声は……」

 偶然通りかかった赤川が高山かなたのことを知っており、

 「天竜剣……でしたっけ?」

 「違う、風龍剣」

 門が開いた。

 なるほど、開いた門の外から姿を見せたのは、どこか見たことのあるような背の高い凜とした少女だった。

 (あぁ、そういえば)

 その姿に見覚えがある赤川だったが、それ以上に、

 (高山はるかさんに似ている)

 のだった。そこはさすがに姉妹というべきだろう。目の辺りは性格が出ており、微妙に違っている。高山かなたは活発な性格らしく、目ははっきりと大きく見開かれているのに対して、高山はるかの方はゆったりと丸みを帯びているのだ。

 似ているといえば髪の性質で、お互いに流れるような黒い髪を持っている。

 もっとも、高山かなたの方は、長く伸ばした髪を後ろで結っているものだから、二人の大きな違いに髪の長さが挙げられる。

 さて……

 高山かなたが山城 暁の部屋へとやってきた。ここまで数秒のことであり、門を通って、一直線に、そして早足でこの部屋へやってきた高山かなたである。

 「……む、この気配は……?」

 高山かなたは部屋の前へ来ただけだが、それだけで部屋の中にいる山城 暁は、

 「ただならない気配」

 を感じていたものだった。そしてそれは部屋の前に立っている高山かなたも同じであった。

 互いが互いに特別な雰囲気を持っているのだから、そういった人物が近くにいるならば、嫌でも気配や空気を感じ取ってしまうのである。

 それが剣術や武術に通じた者ならば、

 「尚のこと、特別な気合を出しているんだ」

 と大昔、剣術の稽古の際に高山かなたは風切あやかに教えたことがある。

 そのことを風切あやかは、現在においても覚えているが……

 「…………」

 もしもこの場において、風切あやかがいたとしても、それを感じることが出来るかどうかは微妙なところであった。

 山城 暁や高山かなたのような熟練した使い手の発する空気を感じるには、

 「それ相応の……」

 実力が必要なのだ。

 「よぉ久しぶり、元気にしていたか?上手くやっていたか?」

 「かなたの方はどうだったんだ?また旅先で火種ばかりを撒いていたんじゃないか」

 高山かなたが部屋へ入るなり、そうした会話が始まったのである。

 もともと二人は幼い頃からの仲間であり、二人の挨拶はといえば、おおよそそういったことから始まっていた。

 「……と、昔ならこうして話せていたのだが、今では私は護山家の長官だよ。人目はないとはいえ、話すときは……」

 凜として、高山かなたと向き直る、山城 暁だったが、

 「そうかそうか!じゃあ、肩とか叩いてみようか!」

 高山かなたの方はあくまで昔のまま、無邪気に振る舞い、山城 暁の肩をたたき始めたではないか。

 この部屋の戸は閉じられていて、外からは二人の様子を伺うことは出来ない。

 外から分かることといえば、内側からする声を聴くことだけであろう。そして、聞こえるのは高山かなたの笑い声だけなのである。

 「ま、冗談はこれくらいにしておいて、本題に入るよ」

 「……そういえば、どうしてかなたは戻ってきたんだ?忘れ物でもあったのか」

 「ここを出て何年経ってると思うんだよ?ただ、近くを通りかかったから寄っただけだよ。すぐに離れるつもりだったけど、蒼水れいの奴から面白い話を聞いて、ついついお前の顔を見たくなった……それだけだ」

 「ふむ、随分と理由はあるんだな。その蒼水れい……水の精だったか、彼女から聞いた面白い話とは?」

 高山かなたが山城 暁へ話した、

 『面白い話』

 とは、大まかに『奈落王、捕縛のこと』であった。

 大まかに……というのは蒼水れいから聞いた話であったため、その奈落王の捕縛に至った経緯、そして、それに関係していると思われる、『水影あさひ』という謎の人物については高山かなたは知らなかったからである。

 その部分を話を聞いた山城 暁が付け加えた。

 「なるほど、そういうことか!!」

 なにか得心があったようで、高山かなたは大きく頷くと、

 「じゃあ、ちょっと出かけてくるよ」

 すっと立ち上がり、そのまま部屋を出ようとするので、

 「出かけるって、一体何処へいくんだ?」

 「山陰奈落だよ。奈落王が水影あさひと絡んでいたなら、水陰あさひは山陰奈落を根城にしている可能性が高い」

 「……根拠は?」

 「いくら水の精が神出鬼没でも必ず寝床はあるんだよ。この八霊山は広いようで狭い……寝床に出来る場所は限られてる。そこへ護山家が見回ってれば必ず見つかるはずなんだよ。それがいつまでも見つからないということは……」

 「まさか……」

 「護山家の手の届とかないところ、つまり山陰奈落が怪しいだろ?あそこは元々奈落王の根城だったところだ。奈落王と水影あさひが関係しているなら、その可能性はあるだろう」

 「なるほど……って、もっともらしいことを話しているが、かなた、本当のところは山陰奈落へ行ってみたいだけじゃないのか?」

 「イーブン。せっかく戻ったんだ。故郷に未だ見ていない場所を残しておくなんて勿体無い。そういうことだよ。土産話、持って帰るぜ」

 高山かなたは山城 暁へ背を向けたまま、手を振ると、部屋を出て行ってしまったのだった。

 「ふっ、アイツも変わらないな」

 山城 暁が小さく笑った。変わらない……とは言ったものの、八霊山を離れて旅をしていた高山かなたは、

 「八霊山を出て行ったときとは……」

 まったく違っているのである。

 それは体つきや性格ではない。旅を重ねる中で多くの人々と出会い、そして多くの修羅場をくぐってきたのだろう。

 力強さと頼もしさ、その存在感を山城 暁は会話中にひしひしと感じていたものだったのだ。

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