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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(6) ~ 役場へ

 結局、朝食は食べて出てきた。

 「まったく、せきのやつめ……」

 風切あやかからは恨み節がもれた。

 一刻でも早く護山家の役場へ出て行きたい風切あやかであり、彼女自身はもう出発する準備が出来ていたのだが、

 「ま、待ってください!私、まだ寝巻きですよ!!いくら暖かいからってこの格好じゃ出られませんって!!」

 佐渡せきの方が準備ができていなかった。

 格好は寝巻きのままで頭は寝癖で鳥の巣のような形になっている。

 「髪はそのままでもいいだろう!使う鳥をいつでも頭に置いておけるぞ」

 「まだ言ってるんですか。それでも寝巻きのままじゃ……」

 「……分かったから、早く準備をしてくるんだ」

 そうして佐渡せきの出発準備が整うまでに30分は掛かった。

 その間、何もせずにいられなかった風切あやかは、

 「……なんで私がこんなことをしているんだ……」

 ぶつぶつ言いながら炊いてあったご飯を使っておにぎりを作っていたのだった。

 自分と佐渡せきの分を3個ずつ、計6個を不器用ながらも作り上げた。

 さすがに中身は入っていない。時間がなかったのだ。

 そうしているうちにやっとのことで佐渡せきの準備が終わったようだった。

 外では鳥が鳴いている。日が昇り明るくもなってきた。

 「まったくお前というやつは……」

 「あやかさんだって、急過ぎますよ……」

 「護山家というものはそういうものなんだよ。急な出動だってよくあるんだぞ」

 二人が八霊山を駆けていく。雪が解けて道がぬかるんでいるものの、昨日までの雪に閉ざされた八霊山とは違い、

 「道がはっきりと出ている」

 から足を止めることなく先へ進むことができるのだった。

 「はぁはぁ……」

 風切あやかの後ろを走る佐渡せきの頬を汗が流れ落ちた。

 「ホント、空気が違うな。昨日までのじっとりとした汗じゃないものな」

 どうやら雪かきでかいた汗のことを言っているらしい。

 「すぐにダウンしたのに良くいうよ。そんなに言うなら、今日はこれが終わったら、一緒に稽古をして爽やかな汗でもかこうか?」

 「えー、それは雪かきと比べればマシだけど……あやかさんは本気で打つから汗よりも先に血が流れちゃいますってば……」

 「ふん……」

 山道を抜けると、護山家の役場が見えた。

 とんとんと階段を駆け上がり、門を叩くと、

 「おっ、風切あやかだな?」

 門のうちから声が聞こえた。

 「…………!!」

 思わず自分の名前を言われたことに驚いた風切あやかだが、

 「ああそうだ。私は風切あやかだ。山城さまにお会いしたい」

 気持ちが先走りながらも、落ち着いて用件を伝えることが出来た。

 一刻でも早く八霊山の異変のこと、そして昨日見かけた蒼水姉妹の話のことを、

 「山城さまへ伝えたい……」

 と思っている。

 そのためには門番があらかじめ自分の名前を周知していたことなどは、

 「どうでもよいこと……」

 なのである。

 「高山はるか殿が、『あやかもすぐに来ますよ』と言っていたら本当に来たんだよ。それが今さっきのことだったから、私も驚いているんだよ」

 門には窓が付いていて、内側から外の様子が見えるのである。門番はそうして風切あやかの表情、様子を伺っていたようだった。

 そしてすぐに門が開くと、風切あやかと佐渡せきは早足で門の内へと入っていった。

 (なるほど……)

 ここに来るまでもそうであったが、護山家の役場においても、やはり雪はとけてしまっているようであった。

 とはいえ、この護山家の役場においては、山道や佐渡せきの小屋の周囲のように、無造作に雪が積もり、そして雪かきを行っているわけではない。

 役場には常に腕の利く護山家や事務役の護山家が大人数つめており、

 「こうしたときは……」

 一斉に雪かきを行うのである。

 だから、門のうちを歩いている風切あやかには、

 (まるで雪など降ったのが1週間も2週間も前のようだ……)

 と思えるほどに中は異様に綺麗であった。

 もっとも雪は残っていることは残っているが、殆どが門の外や陽の当たるところに集められており、その雪もまた、暖かい空気によって溶けてきているのだった。

 「ひえぇ、役場の中はホント綺麗ですね。この分なら、ここの人達が外で雪を除けた方が捗るんじゃないかなぁ」

 「ここの仕事は忙しいぞ。お前の7日分の仕事を1日でやるくらいだ。剣術も武術も、私なんかよりもよっぽど強い……」

 「やっぱり違うんだなぁ」

 他愛のない会話をしているうちに山城 暁の役宅へと着いた。

 その前では赤川と青山が待っていたように風切あやかと佐渡せきを迎え、

 「丁度良いところでした。今、朝食の用意が出来たところです」

 と話していた。

 「朝食かぁ。なんだかんだで食べてなかったし、おにぎりは中身がなかったから……」

 「おい……」

 風切あやかが佐渡せきを睨みつけた。

 ここに来るまでに歩を緩めながらも、二人はおにぎりをかじっていたものだった。

 前述したとおり、時間がなかったので、このおにぎりには中身が入ってはいない。

 それでも一応、塩は込められているのでそれなりには味がするものだが、

 (でも、やっぱり味気がないなぁ……)

 などと、佐渡せきは心の中で閉口していたものだったのだ。

 そのうえで護山家の役場で朝食が出るのだから、これはとてもおいしいはずだろう。

 二人は赤川と青山の案内のもと、役宅の中、山城 暁の応接間へと入っていった。

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