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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(8) ~ 山陰奈落の変 の章
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山陰奈落の変 の章(5) ~ 使い鳥

 結局その日は少し小屋の前の雪かきを進めただけで1日が終わってしまった。

 護山家の使役する伝書鳩の話によれば、

 「護山家全体で雪かきに追われている」

 らしい。例年、この時期は雪かきに追われて見回りの任務は中々進まない。

 なので伝書鳩を通して、状況を報告していく……というのが、重要になってくるのだ。

 「へぇ、鳥なんかで連絡を行うんですね」

 「鳥なんか……って言っても、せき、こいつらはお前よりは沢山働いているし、戦闘能力も……」

 そう言いかけたところで伝書鳩が佐渡せきへ飛びかかった。

 「ちょっ、ちょっと痛い!爪が……爪がっ!!あとくちばしも!!尖がってるんだから突かないでよ」

 「ほらほら、分かっただろう。やめてやれ」

 風切あやかがそう言うと、鳥は大人しくなり、机の上へと足をかけた。

 佐渡せきがはぁはぁ……と息を吐いている。この伝書鳩は割と大きいもので、人間の頭程度の大きさはあるだろう。

 その一方で見た目だけは多少可愛らしいので、佐渡せきのような何も知らない者には只の鳥にしか見えない。

 それでいて鋭い爪を隠し持っているのだから侮れない。

 「こいつが報告書だ。これを脚についた筒へと入れてだな」

 手早く報告書を伝書鳩へと持たせると、風切あやかが口で笛を吹くと、その高い音と共に、

 「飛んでっちゃった……」

 のだった。

 「まったく可愛くない奴だなぁ!大人しそうな顔しやがって!!見てくださいよ、爪やくちばしの跡がこんなに!!」

 鳥が居なくなったのを見て、佐渡せきが憤慨している。

 そんな様子に風切あやかが大きく息を吐いて、

 「せきが使う鳥はくちばしや爪がないヤツじゃないとダメだな……はるかさまにはそう伝えておく」

 と呟いたものだった。

 そうして夜が明けた。

 先に目覚めたのは風切あやかである。

 風切あやかと佐渡せきが一緒に暮らし始めてもう10日以上は経ったものだが、佐渡せきが風切あやかよりも先に起きたことは、

 「一度として……」

 なかったのだった。

 もともと佐渡せきは朝がダメなようだった。

 真面目な風切あやかの朝は、いつでも早いのだが、佐渡せきは起こしてやらねばいつまでも寝ている。

 秋口までは自力でもそこそこ起きられたと佐渡せきは話していた。しかし、冬になり寒くなったことで、

 「朝が寒くて辛いんですよ」

 ということらしい。

 なるほど、そういうことはあるだろう。

 「寒くなると熊も冬眠するからな……」

 「そんな感じですよ。そんな感じ」

 「……せきに使う鳥には、朝に起こしてくれるヤツじゃないとダメだな……これもはるかさまに伝えておこう」

 と後日、風切あやかが話していたのだった。

 さて……

 冬の朝は暗い。

 未だ夜のように思えるような闇が空へ広がっていて、遠くの方で小さく太陽の明かりが空を滲ませているのが見える。

 「おや?」

 風切あやかはいくつかの違和感を感じたものだった。

 一つは妙な空気の暖かさである。まるで南風でも吹いているかのような、生暖かい風が吹いていて、昨日感じていたような寒さを、

 「この時ばかりは……」

 感じないのだった。

 そしてそれだけではない。

 「これは……どうしたんだ?」

 雪が半分程度、とけてなくなっているのである。

 この暖かい空気によるものだろうか。しかし、たった一晩でこうも気温が上がり、雪がとけてしまいなんてことがあるのだろうか。

 少なくとも、今まで風切あやかが八霊山で護山家として働いてきた中では、

 「こんなことはなかった……!!」

 のである。それだけではない。

 「あやかさん、おはようございます……今日も早いですね」

 「ああ、おはよう……って、なんだと!?」

 珍しく佐渡せきが自分から起きてきたではないか。

 ……いや、『珍しい』というかそんなことは1度としてなかったのだから、これは初めてのことである。

 「せき、どうして今日はこんなに早く起きれたんだ?」

 「いやぁ、そんなこと言われても……昨日、食べたおいしいお蕎麦のお陰かな?……いや違うな、なんか妙に暖かいからですかね」

 「暖かいか……」

 確かに、風切あやかもそれを違和感として感じてはいるし、雪が半分以上とけてしまっているという現象がある以上は、

 「妙に暖かい……」

 というのは間違いのない現実なのであろう。

 ……それならば、何故こうしたことが起こっているのか……。

 (そういえば……)

 このとき風切あやかが思い出したのは昨日の『せいりゅう』のことだった。

 「奈落王」「山城」「会いに行く」

 という断片的な言葉を発した会話である。

 話していたのは蒼水れいの姉妹なのだが『奈落王』に『山城』、しかもそれに『会いに行く』となれば、

 (ただごとではない……)

 のだった。

 いや、このときの風切あやかは少し敏感である。

 ただの水の精である蒼水れいが次代の山神……もとい護山家のトップに会いに行くといって、会いにいけるものでは、

 「とてもない」

 のである。

 その姉さんという人物がどれほどの人物かも分からないが、ともかく、水の精程度が会いたいといって会える人物ではないのである。

 そのことは風切あやかも十分に分かっている。けれども、

 「この異常な状況……」

 がまさかそういったことに結びついているのではないかと、真面目過ぎるだけに思ってしまうのだった。

 「せき、すぐに準備をするんだ。山城さまのところへ、護山家の役場へ行くぞ!」

 「ええっ!!ちょっと待ってくださいよ!あやかさん、まだ朝飯も食べてないってば!?」

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