水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(25) ~ 速攻、それぞれの思惑
「ふっ、安心だと?お前などはさっさと倒してやる。倒して……」
山城 暁は僅かに正面の奈落王から目を逸らし、その後ろで倒れている流 ヒスイを見やった。
その瞳は炎のように強く輝き、闘志に満ち溢れている。
(そうか、コイツは……)
その目を見て奈落王は小さく笑った。その闘志と似たものを今の彼女は強く抱いていたものだった。
「あの女だ……」
もっとも奈落王がその闘志……もとい憎悪を向けている相手は今は変わってしまっている。
先ほどまでは、目の前で対峙している山城 暁と、
「その相手……」
は同じだった。
山城 暁が山神であり、流 ヒスイが水霊である。二人は昔から、互いに競い合ってきたことはここまでに何度も述べてきた。
それと同じように、奈落王と流 ヒスイもまた、
「昔の因縁」
に結び付けられていたものだった。
奈落王にとって、その相手は今し方倒すことができた。
そして次の因縁の相手は、あの女……
「流 あさひ」
へと向いているのである。
それはあの時、流 ヒスイに倒されたときに流 あさひの取った態度が気に食わないことがある。またそれ以上に、
「今回のことに俺を利用した!!」
そのことが何よりも屈辱的なのであった。
流 あさひによる封印解除により奈落王は自由を得た。そしてそれだけでなく、仇敵だった流 ヒスイをも倒すことができた。だが……
(あの女は何がしたいんだ……?)
どうにも分からない。
奈落王が覚えている限りでも、流 あさひは姉である流 ヒスイを尊敬し愛していた。そんな流 あさひが誰よりも愛する流 ヒスイを、よりによって奈落王になど倒させるなどという屈辱的なことを、一体どうして起こしたのだろうか?
(チッ、今になって思えば、ヒスイのやつなんか倒すんじゃなかったぜ……)
そんなような気がしてならなくなってきた奈落王である。
もしも流 ヒスイを倒すようなことをしなければ、流 あさひの思惑を崩せたような気がするのである。
何より、今に至る状況が全て流 あさひの思惑通り……つまり思う壺になっているのではないかと思うと、どうにも背後に冷たいものを感じるのだ。
それとなく後悔はしているが、それでも、
「流 ヒスイを倒すな!」
というのは無理な話だった。
流 あさひの考えや狙いについて、少しでも考えていたとしても『流 ヒスイを倒さない』という選択肢はなかっただろう。
それくらいに奈落王は流 ヒスイが嫌いだった。ついでに言うと、流 あさひも同じくらいに嫌いだった。
そんなことよりも……
(今の相手は山城だ)
先ほどは流 ヒスイへ向けられていた瞳が、今は奈落王へと向けられている。
流 あさひの思惑を突き止め、それを崩すためには、まずはこの場を切り抜けなければならないだろう。そのためには、
「さっさとお前を倒してやるぜ!!そこのスカシ野郎みたいにな!!」
「…………」
思い切って啖呵をきった奈落王だったが、思いのほかに山城 暁の反応は小さかった。
「チッ、ノリが悪くなったなお前も……」
「それはお互い様だろう?私もお前も『さっさとお前を倒したい』と言った」
そこまで言うと、山城 暁は大和刀を構えた。
「ああ、そうだったな。違いねえや。それだったら……」
お互いにやることは一つであろう。それを今、二人は悟っている。




