水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(20) ~ 悪夢の朝
流 ヒスイと奈落王の戦い、それになら奈落側に水銀が加わって戦っている。
(なるほど……)
やはり奈落王の方はあまり強くはない。大昔に流 ヒスイが戦ったときと代わり映えはしなかった。
水銀に関してもかつて自分が主だった流 ヒスイである。戦闘スタイルから行動パターン、その全てを知り抜いているだけに、
「相手ではない……」
のである。
そのうえ、その奈落王と水銀も共に協力して戦うという訳でもなく、順々に隙を見て手に持っている刃を叩き込んでくるだけなのだ。
ならば流 ヒスイは相手がぶつかってくる時を狙って、反撃を加えれば良いのだった。
右腕を失い、更に武器も持っていないとはいえ、結界内の水分を利用して氷の刃を作ることは流 ヒスイには造作もないことであった。
水を用いた攻撃が奈落王には有効であるというのは、大昔からのことである。しかも、そのことは護山家の教本にも載っているくらいには有名な話だった。
「…………くっ」
また一つ、奈落王へ氷の刀が傷を与えた。1対1ならば、すぐに倒してしまうことは可能だろう。しかし、もう一方の相手、
(水銀め、また邪魔をするか)
ことごとく身を挺して奈落王を庇いにくるのである。
もともと奈落王と水銀には仲間意識はないようだったが、そこは水銀の習性にあるのだろう。
水銀は硬い甲殻に身を覆われていて、刀が当たった程度では、
「まったく傷が付かないし、痛くもない」
のである。
その特徴からして、相手の攻撃には進んで防御に入る習性を持っており、このように仲間意識のない奈落王への攻撃にも進んで盾として入り込んでくるのだ。
(それにしても……)
流 ヒスイには疑問に思うことが一つあった。それは何故、
「奈落王が水銀を連れて出てきたか……?」
ということである。
奈落王の背後に居る水影あさひが念を入れて遣したのかもしれないが、果たしてそれに意味があるのだろうか。
既に述べたとおり、奈落王と流 ヒスイとの相性は勿論、水銀のことに関しても流 ヒスイは熟知しているところが大きい。
だから念を入れて組ませるにしては、あまりにも意味を見出しかねるのだ。
(ならば……)
奈落王か水銀、その片方をいっそのこと倒してしまうのが良いのではないか……
(奈落王の方には、あさひの居場所を話して貰わなければならない)
「久しぶりで悪いが……」
「はぁ!?」
「貴様を……倒す!!」
流 ヒスイの身体が奈落王へ弓から放たれた矢のように動くと、氷の刃が煌き、
「…………っ!!」
鈍い声が響き渡ったものだった。
それと同時に地面に落ちたものが一つあった。それは銀色に輝く大きな鎌である。
「お前……」
流 ヒスイによる急襲を受けたものの奈落王は無傷だった。しかし、その一方で片腕を失う重症を受けたのが水銀であった。
その水銀が痛みに悶える間もなく、流 ヒスイが懐へ入り込み、氷の剣を水銀の胸へと突き込んだ。
「ぐっ……」
しばらくは小さく動いていた水銀も、次第に動かなくなり、全身の力が抜けたように倒れこんだ。
その時には流 ヒスイは水銀から離れて奈落王と向かい合っている。
「久しぶりで悪かったが……あさひに会うためだ。貴様からあさひのことを聞いたら、今度は封印なんて手の込んだことはしない」
無表情で流 ヒスイが言った。その瞳は冷たく、まるで針のように鋭く光り輝いているではないか。
その視線を受けている奈落王は、
「俺もあいつの言いなりになるのは嫌気が差しているんだよ。封印を解いたってだけで恩人面しやがってな……教えて欲しいってんなら、居場所、教えてやってもいいぜ?」
「……?『知らない』んじゃなかったのか?」
「知らないだろう?お前にとっての俺の都合なんて」
「それもそうだ」
「だが……もう時間でな」
「時間?」
そう呟いた直後のことだった。奈落王の殺気が……いや、異様な妖気と言ったほうが良いだろうか。寒気と威圧感が波動となって噴き出しているのだ。
「いよいよ本気になったのか?」
「ああ、そうだ。しかしこれは、あの時とは大分違うぜ?」
奈落王が不敵に笑っている。
確かに大昔、流 ヒスイが奈落王と戦った時とは具合が異なっているようだった。
(あの時も寒気と妖気を感じることはあった……だが……)
ここまで強い威圧感、妖気を感じることはなかったと覚えている。
ならば、これはどういうことだろう?
(あさひが何かを吹き込んだのか?それとも奴の復讐心がそうさせているのか)
そのどちらかだと流 ヒスイは思っている。
しかし、その答えなどはどちらでも良いことだった。
「どんなになろうが、貴様を倒して、あさひの居場所を突き止めてやる!」
流 ヒスイの想いは『そのこと』にだけ、注がれているのであった。
結界の外では、夜が明けて、八霊山に住む者たちが目を覚ました頃であった。




