水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(18) ~ 襲撃
辺りは既に闇に包まれている。
暗い川原を照らしているのは、空に浮かんでいる黄色い月だけであった。
虫の鳴き声も、今夜ばかりは響いていない。その中を人の足音だけが、ザッザッと動いている。
(まったく不気味な夜だなぁ……)
空を流れる黒い雲を眺めながら、佐渡せきが息を吐いた。
こういった夜は決まって何かが飛び出してくるように感じられて、恐怖を感じるものだったが今夜ばかりは、
(ヒスイが居るから、何が出てきても大丈夫だよね)
と落ち着いてはいる。
その流 ヒスイは佐渡せきと並ぶようにして歩いている。
月の光を受けて僅かに見える流 ヒスイの顔は、
(まるで静かに輝く水面のように……)
綺麗でいて、そして凛々しいもので、佐渡せきは思わず見惚れてしまうものだった。
「…………」
そんな佐渡せきに気づいているのかは分からないが、流 ヒスイは一言も喋らず、ひたすらに歩を進めていた。
ただ何かを考えているようではあった。
もしかしたら先ほどのことを考えているのかもしれない、と佐渡せきは思っている。
先ほどのこと……
それは山城 暁との確執のこと、それに風切あやかとのことだろうか。
「あのさぁ、ヒスイ」
「…………あっ」
「えっ?」
「いや、すまない。考えごとをしていたのだ」
「考えごと?」
内心、佐渡せきはやった!と思った。上手いこと、流 ヒスイから話を引き出すことができそうであったからだ。
「何を考えていたんですか?」
「…………いや、なんでもないよ」
僅かに困ったように目を伏せると、流 ヒスイはそれ以上は話さなかった。
そう、と佐渡せきは空を見上げて、またも息を吐いた。
息が白くなって、空に上っては消えていく。思えば、もう年の瀬に近づいているのだ。
今年が終わりへ向かうへ連れて、辺りはどんどん寒くなっている。
息が白くなるのも当然のことだろう。
(そうか。今年も終わりが近いんだなぁ)
この時になって、しみじみそれを思い出した佐渡せきであった。
自分が八霊山へやってきて数ヶ月くらいは経っただろうか。新入りということで緊張をして役目に当たっていた毎日はあっという間のことだったのだ。
「ヒスイはさ。今まで八霊山でさ……そのー、どういうことがあったの?」
「…………?」
「あっ、いや。そろそろ年が暮れるからさ、昔のこととか思い出しちゃったんだよ」
「そうか……昔のことか」
何かを思い起こすように空を見上げる流 ヒスイである。
空の上には黄色いつきが浮かんでおり、僅かに流れる雲がそれを遮っている。
風が少し吹いた。流 ヒスイの青い髪が僅かに揺れた。
「昔のこと……か」
そう呟いた瞬間のこと……
「…………!!」
急に佐渡せきの身体が跳ねた。
何が起こったか、すぐには察知することはできない。出来たことといえば、地面に……川原の石に全身をぶつけた痛みだけであった。
「いったぁ……なんなん……」
なんなんだ。と佐渡せきが言おうとしたところで、佐渡せきは目を疑った。
月が辺りを照らすこの場所に、一つ宙を舞う影があったのだった。
それはなんだろう?辺りは暗いために良くは見えないが、
「腕か……!?」
長く細い腕のようなものがくるくると宙を舞い、そして落ちたのだ。
それが誰のものであったか、
(自分以外でこの場に腕を持つものは一緒に居たのは……)
流 ヒスイしかいなかった。
一瞬のことで何が起こったかは分からない。急に高鳴る胸を押さえつつ、佐渡せきは立ち上がり、
「ヒッ、ヒスイ!!」
叫んで辺りを見渡したものの、流 ヒスイの姿は見えなかった。
残されたのは落ちている腕だけである。それが纏っている布を見るに、
(やっぱりこれは……)
まさしく流 ヒスイが着ていた衣のものであったのだった。




