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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖 ~ 八霊名水の章
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カゼキリ風来帖(4)残されしものの章 後編

 あれから1週間ほどが経った。あれ以来、高山かなたと思しき黒い影による被害はぴたりと止まっている。

 濃い灰色の雲も今はもう、東の方へと流れていってしまい、春の明るい空が八霊山の上に広がっているのだ。

 それはさておき……

 柿留しょうが楽しそうに話していた食事処『せいりゅう』の蕎麦は確かにおいしかった。


 水の精自慢の八霊名水を使った汁は、しっかりと蕎麦にのっており、

 すっきりとした喉越しと共に、透きとおるような後味を出していた。

 それに食後に出てきた川岸みなもの握ったおにぎりは、特に高山はるかにとって印象に残っている。

 もしも風切あやかがそれを口にしたならば、驚くと共に、

 「お前にも取り得があったんだな」

 そう言って川岸みなもを見直したことだろう。



 「とってもおいしいですね。このおにぎりは」

 その時、高山はるかは笑顔を浮かべながらそう川岸みなもへ語ったものだが、

 (あれは一体何だったのだろう……?)

 胸の内では先ほどでの戦いに感じていた違和感を探っていた。

 高く……あの刀を構える姿は間違いなく高山かなたの風竜剣だった。しかし、

 「あの黒い影が高山かなたであるはずがない……」

 と、高山はるかは思っている。

 高山はるかの知る彼女……高山かなたならば、何も言わず、他人を自信の刀で斬りつけるような真似は絶対にしないはずなのだ。

 これについては彼女の弟子に当たる風切あやかも、きっと同じことを言うだろう。



 そんな高山かなたは5年ほど前に八霊山を出てしまっている。

 「剣術の腕を磨くため……他の地域を見て回るため……」

 とのことである。

 その高山かなたが八霊山を出て以来、手紙などの便りは一切来ていない。

 であるから、今の高山かなたが、

 「何処で何をしているのか……」

 全く知るところではないのだ。

 時というものは回れば回るほど、人と言うものを変えてしまう……つまり、

 (旅先で悪に染まり、殺人剣を引っさげて八霊山に戻ってきたのではないか……)

 そういった考えも捨てることが出来ないのである。


 高山はるかの思考の森は暗く薄暗いものとなっている。

 右へ左へ……さまよい続けては日が昇る。

 そして、一週間が経ち、今日へと至っているのだ。ここに至り、

 (あの高山かなたを見つけ出し、話を聞かなければ始まらない……)

 高山はるかはそう思い切った。



 だからこそ、高山はるかはあの直後に愛刀中の愛刀「瞬天華」を磨ぎに出していた。

 この愛刀「瞬天華」は高山はるかが護山家特務役のまとめ役に就任した時に山神さまから伝令役を通して送られたもので、この刀を使い、高山はるかは数々の戦果を上げてきたものだった。

 山神さまから刀を送られるというのはそうそうあることではない。

 八霊山の歴史の中でも、それは10に満たないと高山はるかは記憶している。

 それだけにこの「瞬天華」は、

 「ここぞ……」

 という時にしか高山はるかは使わない。

 この刀には八霊山の山神さまの「威信」と「名誉」が込められているからと言ってもよい。


 「高山はるかさま、お預かりしていた小太刀をお持ちいたしました」


 戸を叩く声が聞こえ、高山はるかは思案を止めて立ち上がった。

 ここは高山はるかの小屋である。

 今日は磨ぎに出していた「瞬天華」が帰ってくるという報せを柿留しょうから聞いていたもので、ずっと自分の小屋でそれを待っていたのだった。


 「はい。ただいま」


 戸を開くと、そこには磨師の山の精が居た。

 「こちらがお預かりしていた瞬天華になります。ご確認をお願いします」

 「分かりました」

 高山はるかは丁寧に両手で差し出された瞬天華を受け取ると、その場で刀を抜き、刀身を見た。

 太陽が雲に隠れた。部屋が少し薄暗くなる。

 その中でも瞬天華の刀身は白銀色の光を宿し、そして輝いている。

 「まさしく……私の瞬天華です」

 「はい。ありがとうございます」

 認めると、磨師の山の精から思わず安堵の息がこぼれ出た。

 預かるものが預かるものだけに、この役には多大な心労が伴うものだ。

 もしも預かっているうちに盗難や紛失……破損などがあろうものならば、その責任は全て自分達が負わなければならない。

 勿論、それが山神さまから贈られた宝刀ならば、

 「それには命を賭さなければならない」

 であるから、その安堵の息にはとても重いものが込められているに違いはない。


 それを見て、高山はるかは優しく微笑みを浮かべると、

 「本当にご苦労様でした。これでおいしいものでも食べてください」

 懐紙に包んだ小判を差し出し、すっと磨師の山の精の手へと両手で手渡した。

 「え……あ……ありがとうございます」

 磨師の山の精は少し驚いた様子で目を丸くすると、すぐに頭を下げて、小判を衣の懐へと仕舞いこんだ。

 「それでは、また宜しくお願いしますね」

 「はい。それでは……」

 宝刀の重圧から開放されたせいか、磨師の山の精は声を高らかに挨拶をすると、軽い足取りで帰って行った。


 帰っていった後で、高山はるかはもう一度、瞬天華を抜いた。

 太陽が顔を出した。部屋の中に暖かい空気が舞い込んでくる。

 先程と同じように……瞬天華の刃は一文字に伸び、その刀身には眩く鋭いほどの光を宿している。


 そういえば……


 高山はるかは、もう一振り、こうした輝きを持つ刀があったことを思い出した。その刀の名は、

 「白風……」

 という。

 この大刀「白風」は持つものの力量によって、振った刀が白銀に瞬き、まるで、

 「刀から白い風が巻き起こっているようだ……」

 と言われる名答である。

 この名刀は高山はるかの瞬天華と同じく、山神さまから贈られた宝刀の一つであり、その贈られた相手は、なんと、あの高山かなたであった。

 高山かなたは諸国をまわる為に八霊山を出るとき、旅の無事を祈って山神さまに白風を贈られたのである。

 この頃の高山かなたは自身の風竜剣を駆使して、多大な戦果を上げてきたものだった。

 旅立ちの際に白風が贈られたのも、この戦果によるところが大きいのだ。

 「白風……この瞬天華を見ていると、やはり、あの人のことが思い浮かぶ」

 高山はるかの目に、あの頃の高山かなたが映った。

 八霊山を出る前の……風切あやかに剣術の修行をつけている解きのあの光景であった。


 「かなたさまの風竜剣は重過ぎます。私との稽古の打ち合いに使わなくても良いではないですか」

 風切あやかは腰を落として、目の前に佇む高山かなたを見上げている。

 その様子を高山かなたはじっと見つめ、そしてにっと笑みを浮かべると、

 「稽古の打ち合い剣術じゃ、まず相手にも自分にも勝てないぞ?もし私が本気であやかと剣を交えることになったらどうするのか……それが分からない訳じゃないだろう?」

 刀は真剣。それを鞘に収めぬまま、高山かなたは風切あやかと向き合っていた。


 「あっ……」

 春の終わりを感じさせる風が不意に部屋へ舞い込んできた。

 それを感じて、高山はるかは思わず我に帰った。その瞬間のことだった。

 電光のごとく振り下ろされる刀。刀を大きく天へ構える風竜剣。

 あの黒い高山かなたの姿が高山はるかの頭の中をぐるぐると駆け巡り、やがて一つの答えとなった。



 八霊山の裏側に天真館という建物がある。

 風切あやかの小屋よりも縦にも横にも遥かに広いその建物は、今はもう殆ど廃墟と化している。

 草花は生え、天井は所々が抜け落ちては、そこから太陽の光が注ぎ込む。軒下には鳥が巣を作り、縁側には動物が雨宿りをした・・・あるいは住処としていたような跡さえも残っている。

 つまり、今の天真館は殆ど自然に還ったといっても良い。

 この天真館は元々道場であった。

 幼き日の高山はるかと高山かなたは、この道場の主たる黒烏けんしの下で、日々剣術の修行に明け暮れていたものだった。

 この頃の天真館は黒烏けんしが、毎朝、床を拭き清めたり草をむしったりして、毎日、整理整頓の手が行き届いており、とても道場としての気品や風情に溢れていたものだった。

 そこへ高山はるかに高山かなた、それに数名の護山家が来れば、天真館に気合が満ちる。

 ひっきりなしに竹刀を打つ音が響き渡り、流れる汗が四方八方へと飛び散る……。


 そんな日々が長く続いたある日のことだった。


 ある事件がもとで、黒烏けんしが八霊山から去ることとなったのだ。

 黒烏けんしは仲間の護山家を一人、自身の刀で切り殺してしまったという。

 ことの経緯については高山はるかも詳しくは知らない。何でも、

 「黒烏けんしのことを良く思っていない者が、決闘を仕掛けてきた……」

 らしいのだ。

 真偽は定かではないが、その殺意が相手から仕向けられたもの……決闘であったから、山神さまは黒烏けんしへ八霊山の追放を言い渡したのだ。

 これが通常の仲間殺しがあったなら、黒烏けんしは処刑となっていたことだろう。

 こうして黒烏けんしが天真館からいなくなり、道場に通っていた護山家達も次第に来なくなった。

 高山はるかがまとめ役に就き、高山かなたが旅に出たことで、天真館には誰もいなくなったのだ。


 その天真館に一つ、思い出が残されている。

 「これが私達が天真館で過ごした日々……その証だよ」

 高山かなたはそう呟くと、天真館の道場、その奥に自分の愛刀を突き立てた。

 これは高山かなたが八霊山を出る前日の事であり、その突き立てられた刀は名前を『風彩』という。

 諸方へ旅立つにあたり、山神さまから名刀『白風』を贈られた高山かなたは、

 「はるかやあやかに預けておくのも悪くはないけど……私はこうしたい」

 そういって、高山はるかを連れ立ち、天真館に愛刀『風彩』を残したのだ。

 高山かなたの弟子であった風切あやかは、この場には呼ばれてはいない。

 というのも、

 「あやかがこれを知ったら、何が何でも風彩を自分のものにしようとするからさ」

 高山かなたは笑っていた。

 それだけ、風切あやかは剣術の師として……身近な者として、高山かなたのことを尊敬していたのだ。

 もし、その場に風切あやかがいたものなら、

 「私が、風彩を……!」

 そう言って聞かなかっただろう。


 さて……


 そんな思い入れのある天真館へ、高山はるかはやってきた。

 天真館を囲っている石造りの塀は、吹き付ける風を受け、ボロボロになっていて、大きく崩れている箇所が随所に見受けられる。門は形もなくなっている。

 下を見てみれば、門を形作っていた木片や石材が無造作に転がっているが、手入れのされていない天真館だけに、高く伸びた雑草がそれを覆い隠している。

 日は高く昇っている。

 雑草の青がよく目に映える。


 すたすたと、高山はるかは天真館の中へと脚を進めていった。

 黒ずんだ石の井戸、色のあせた柱、そして縁側……。

 そのいずれにも人の居る、またはすんでいる気配を全く感じさせない、つまり、

 「天真館は全くの無人……」

 ということが言えるのだ。

 しかし、それでいて高山はるかは周囲を警戒しながら先へと進んだ。

 顔は正面を向け、あくまで周りを気にしている様子を見せてはいない。

 「…………」

 屋敷の影や廊下の曲がり角、それに置くの間など……突如として何者かが飛び出し、不意打ちを食らわせるのにもってこいの場所が、この天真館には数多く存在しているのだ。

 別に周囲には特別に何かの気配を感じるわけではない。しかし、この天真館を包んでいる静寂には何か、

 「ただならぬもの……」

 を感じてならない高山はるかなのである。

 この空気を感じつつ、周囲を警戒して高山はるかはある場所へと到着したのだった。



 「あの場所……」

 あれは天真館の大広間である。

 天真館の中心に位置するこの大広間は、一面を固くしっかりとした木材の敷かれた稽古場だった。

 今はもう、長い年月を経たせいでその床は黒ずんでおり、広間の周りに立っている柱もパリパリとした乾いた表面を露呈している。

 一歩また一歩と高山はるかは前へと進んだ。

 年月が経ち黒ずんでいる床は、それでも踏み抜けることはない。

 詳しくは知らないが、この床を作っている木材は八霊山の外から持ってきた特別な木材であったとか・・・そういう話を高山はるかは黒烏けんしから聞いたことがある。

 高山はるかの足が止まった。

 周りからは何の物音も聞こえない。外から流れ込んでいる鳥の鳴き声も、不思議と今は止まっている。

 「……やはり、そうですか」

 高山はるかは呟いた。きっ、と鷹のように目を光らせて見た先には、

 (何もない……)のだ。

 この大広間には違和感はない。傍から見れば、この大広間は、

 「自然そのもの」

 と言っても良いほどに何かが潜んでいる訳でも、柱が倒れている訳でもない。

 少し感慨にふけってみれば、ここで何人もの人影が、熱心に竹刀を振り回す様子が、

 「それとなく……」

 思い浮かべることができる。そのような様子なのだ。

 だがこの光景の中に、高山はるかは不自然さを見出していた。

 それはこの大広間で長い時を過ごし……その上で、あの時に居合わせていたからに他ならない。

 このどちらかでも欠けていたならば、高山はるかのいう、

 「違和感……」

 にはたどり着くことは出来ないだろう。


 その違和感とは……


 「…………」

 再び一歩二歩と高山はるかは歩を進めた。

 そして大広間の一番奥、一段高くなっている部分で足を止めた。

 その足元には何もなかった。あるはずの「風彩」がである。

 それをしかと見定めた時だった、

 「やはり来ましたか」

 突如として後ろに気配が現れた。間を空けずに高山はるかは振り返った。

 そこには高山かなた……いや、風彩がいた。

 「あなたは高山かなたであって、そうではない……私があなたに『あの人』を感じていたのはその刀のせいだった」

 「…………」

 返事はない。その代わりに、既に鞘から抜かれた風彩は上へと構えられた。

 黒い大きな影である。

 その影の中に、風彩だけが異様な光を放ち、輝いている。

 「何があったかは分からない……けれど、山を乱すならば……!!」

 高山はるかは小太刀「瞬天華」へと手をかけ、前へと構えた。





 かちゃり……と風彩が床へ落ち、黒い影が消えた。

 「…………ふぅ」

 勝負はあっという間のことだった。

 稲妻のように、疾く、そして力強く振り下ろされた一撃を、高山はるかは正面から小さく受け止め、するりと受け流してしまった。

 「…………っ!!」

 前のめりに流れた黒い影は、そのまま体勢を立て直す間もなく、後ろから瞬天華による一閃を受けたのだ。


 「…………」

 高山はるかは床に落ちている風彩を見た後で、自分の右手を見た。

 右手にも左手にも、傷の一つも付いてはいない……しかし、受け流したとはいえ、風彩による風竜剣の一撃による衝撃は今もその手に残り、びりびりとした痺れが手を小刻みに震わせている。

 外からこの勝負を見ていたならば、高山はるかが風彩の一撃を受け流したことには、さほどの労は掛かっていないように見えただろう。それはまさに、

 「水が川を流れるように」

 と例えられるほどに見事なものであった。

 しかし、実際のところはそうではない。

 風彩の振り下ろしの一撃は、そのまま岩をも砕くほどの破壊力を秘めていたのである。

 これは本物ではないにしろ、本当の高山かなたに通じるほどの凄まじい力によるものだ。

 それを受け止め、流すことが出来たのも、高山はるかとその名刀「瞬天華」あってこそのものだといってもよい。

 もしも、これが他の刀であったなら、受ける間もなく、高山はるか共々粉砕されていたことであろう。

 高山はるか自身も、

 「影であったとはいえ、さすがはあの人でした……」

 と後に語っていた。



 さて……


 あの風彩を打ち倒してから数日ほどして、高山はるかは風切あやかの小屋を訪れていた。

 この日も空はすっきりと晴れ渡っている。暖かな空気、そして降り注ぐ明るい太陽の光を受けて、木々に生い茂っている葉っぱが青々と光っている。

 「どうして私に話してくれなかったのですか!?」

 高山はるかの話を聞いて、風切あやかはまずこれだった。

 それはもう目を大きくし、更に布団から身を乗り出して、まるで必死の形相である。

 (まぁ、予想はしていましたが……)

 高山はるかは一つ溜息を吐くと、風切あやかの目を見やり、

 「あやか、私は言いました。あなたが怪我を負っていなければ、あなたに任せていたと」

 「う……」

 じっと真剣な眼差しで高山はるかが言ったものだから、まるで蛇に睨まれた蛙のように、風切あやかは言葉を詰まらせ固まってしまった。


 「そ、それで、かなたさまの影は一体なんだったのですか?浪霊……だったんですか?」

 「それはですね。これの仕業だったようなのですよ」

 高山はるかはすっと、一振りの大刀を前へ出した。

 布のように一文字に伸びている青い鞘に収められたその大刀は、

 「風彩……」

 であった。

 あれから山神さまの元へ持ち込まれた風彩は然るべき調査を経た後で、高山はるかの元へ戻ってきたのだった。

 その際に、鞘を見繕い、その上に手入れもされた風彩は、唾にも鞘にも、僅かな埃や錆すらもついてはいない。


 「これはかなたさまの……」

 さすがに、風切あやかは風彩に見覚えがあったようだ。その様子を見ると、高山はるかは少しだけ口元に笑みを浮かべ、

 「はい。あの人が使っていた風彩です。今はもう、普通の刀ですが」

 そう言うと、すっと目を閉じた。頭の中に、山神さまの使いとの面会の様子が思い浮かんだ。

 山神さまの使いは言っていた。

 「山神さまは仰りました。今回の事件は、この刀があなたの姉であり、この刀の所有者であった高山はるかの姿を借りて起こしていた……と」

 そして、こうも言っていた。

 「こうなってしまった原因は、自分を残して、何処かへ旅立ってしまった彼女への寂しさと恨めしさ……そういった負の思念がこの刀に募っていたことにもあります」

 「なるほど……そうでしたか」

 それを聞いて、高山はるかは手渡された風彩をじっと見つめていた。



 「そ、そうなのですか……」

 簡単にこのことを風切あやかへ伝えてやると、高山はるかは風彩を手に取った。

 ずしりと風彩の重みがその手に伝わってくる。

 その風彩を見て、風切あやかを見ると、高山はるかは風彩を前へと出した。

 「だから、この刀はあやかに持っていて貰おうと私は思うのです。あの人の一番の弟子であったあなたなら、この刀も喜んでくれると私は思うのですよ」

 「えっ……良いのですか?」

 「はい。山神さまも許可してくださいました。あなたの怪我が治ったら、使いこなせるように修行をさせるようにも仰っていましたよ」

 「……はいっ!望むところです!!」

 風切あやかの声が弾んでいる。表情もびしっとしていて何処か柔らかさが滲んでいる。

 それを見ると、高山はるかの頬も思わず緩むのだった。


 それにしても……


 その一方で高山はるかは一つ気になっていることがあったのだ。

 それはもう一つ山神さまの使いとの面会に出ていた話のこと……

 「……つまり、風彩の事件は何者かが起こしていたというのですか?」

 山神さまが言うには、風彩の負の念を具現化し、高山かなたの姿を与えた、

 「何者かが居る……」

 というのである。

 春先の精霊鳥を狙った浪霊のこともそうらしい……風切あやかのあったことが本当ならば、浪霊そのものが短期間に強力な力を付けることも普通ではあり得ない。

 だから、山神さまは最後に、

 「何かが起ころうとしている……気をつける必要がある」

 と低い声で言ったそうだ。



 高山はるかは窓を見た。窓の外には青い澄み渡った空が広がっているのが見える。

 (高山かなた……あなたは一体、何処で何をしているのやら)

 この同じ青い空を、本物の高山かなたも、きっと何処かで見ていることだろう。

 青い空はどこまでもつながっている。

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