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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(7) ~ 水霊ヒスイの挑戦! 対決!あやか 対 せき !! の章
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水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(17) ~ 対決談話

 「二人とも、まったく仲が良いのですから……」

 「何を言っているんだ?私は山城のことなど……」

 結局、食事中は互いに一つの会話も出てこなかった。

 流 ヒスイは山城 暁に、

 「話すことなど、何一つない」

 と言わんばかりに無視を決め込んでいたし、山城 暁はといえば、

 「こうしたことも中々楽しいものだなぁ」

 一人楽しみに浸りつつ、流 ヒスイとの対話を試みていたものだった。

 そうした中で精霊鳥はなんとか二人の仲を取り持とうと、

 「ヒスイ様も昔と変わりませんね……」

 と何気なく声をかけていたものだったが、

 「……君なら分かるだろう?私は水だよ。変わらない、ということはない」

 と要領を得ることは出来なかった。

 ただ二人の間で盛り上がった話が一つあった。それは……

 「山城、分かっているだろうな?」

 流 ヒスイが山城 暁を睨みつけながら言った。

 「…………勝負の話だろ?」

 唾を一つ飲み込みながら、山城 暁が笑って答えた。

 口は笑っているが目は笑ってはいない。その二つの目は針のように冷たく輝く流 ヒスイの眼を捉えている。

 「そうだ。せきは強いぞ?お前が用意した護山家なんて、簡単に倒すことができる」

 「…………」

 不敵に笑う流 ヒスイである。その流 ヒスイが話す佐渡せきは、

 (確かに私は少しは強くなったけど……)

 しかし、誰が出ても簡単にとはいかないだろう。特に、目の前にいる自分の上司に当たる、

 『風切あやか』

 などはとても怖くて立ち会うことすら難しい。

 (おや……?)

 そう思って、ふと風切あやかを見た。相変わらず怖い雰囲気を発しているが、この時ばかりは、

 (なんだか様子がおかしいな)

 いつも以上の怒気が噴出しているように見えるのだ。

 佐渡せきの額を一筋の汗が流れ落ちた。口元が小さく開けられて、何か言葉を出そうとしている自分がいる。

 「お言葉だけどヒスイ、私が選んだ護山家はこの風切あやかだ!君も知っているだろうが、彼女は今までに数多くの相手と戦い抜いてきた護山家屈指の実力者だ!」

 「…………げえっ!!!!」

 思わず声が出たのは佐渡せきだった。ひょっとしたら……とは思ってはいたけれども、まさか風切あやかが山城 暁の選んだ自分の対戦相手だとは思ってもみなかったのだ。

 そもそも護山家には数多くの実力者がいる。所属して日の浅い佐渡せきでも、風切あやか以上の使い手(だと思っている)人物は数多く見てきたものだった。

 風切あやかの上司たる高山はるかだってその一人である。

 ……しかし、なんといっても戦うのは佐渡せきなのだ。

 こういった実力者たちを相手にして、とても勝利できるかというと、

 (そんなこと、出来る訳がないよ……)

 と思っているのだ。

 それでいて、自分を鍛えているのは次代山神の山城 暁に対する次代水霊、流 ヒスイである。

 山城 暁をライバル視している流 ヒスイは、自ら、負けを喫するような勝負を持ちかけるものだろうか……。

 流 ヒスイの真意は分からない。だが、彼女は真剣になって佐渡せきを鍛えているのは確かであった。

 さて……それはともかく、佐渡せきと風切あやかの対決である。

 「ふん。風切あやかのことなら私もよく知っているよ。それならば、尚のこと、私のせきが勝つだろう」

 自分の相手が風切あやかだと知って動揺してしまっている佐渡せきとは対照的に、流 ヒスイは落ち着いている。

 (……それはどういうことだ?)

 その様子を風切あやかは気を緩めずに眺めていた。

 流 ヒスイは自分のことをよく知っていて、それが故に自分が鍛えた佐渡せきは勝つだろうと話した……。

 食事前の会話で流 ヒスイが風切あやかのことを知っているという会話は聞いている。ならばそれは、

 (どの程度のところまで……)

 を知っているということなのだろうか。

 深く知っているのならば、

 (やはり流 ヒスイ……水霊はあの水影あさひと繋がっているのではないか……)

 と考えられないこともない。

 「ははは、大きく出たな。しかし、この風切あやか、いつまでもお前が知っている風切あやかとは限らないぞ」

 「…………」

 流 ヒスイが八霊名水へ口を付けた。相変わらず、山城 暁とは会話をしようとは思っていないらしい。

 そのことを山城 暁もまた分かっているのだが、それでいて会話を求めようとしているのだ。

 精霊鳥が話すには、

 「お二人は昔からこのようななんですよ」

 なのだそうだ。

 コツン、と湯飲みを置く音が一つ鳴り響いた。

 一つ息を吐き、流 ヒスイが山城 暁を睨むと、

 「もう行こう」

 ぐい、と佐渡せきの腕を掴んで立ち上がった。

 「えっ、ああっ……ちょっと待ってよ!!」

 思いがけないことだったので、高い声を上げて驚いている佐渡せきである。流 ヒスイの腕に込められた力も強く、ひしひしとその痛みを感じている。

 (やっぱりヒスイは、山城さまのことが嫌いなんだなぁ……)

 心の内で苦笑をしている。だが、腕が痛みが強く、顔はとても笑えたものではない。

 「いっ、いてて……」

 「おい!こら、待てっ!!」

 思わずして大きな声が出た風切あやかであった。それは流 ヒスイの様子に苛立ちを感じていたものだが、それ以上に、

 (せきの奴……!!)

 佐渡せきへの怒りが大きいものであった。

 その大きな声に驚き『せいりゅう』が静まり返っている。

 構わずに風切あやかが、

 「さっきから話を聞いていれば勝手なことを……!!今度といわず、この場で勝負を付けても良いんだぞ!!」

 「…………」

 無表情に風切あやかを見つめている流 ヒスイである。

 何を思ったかは分からない。僅かに風切あやかの眼を見た後で、

 「……昔、山城も同じことを言っていた。その勝負の結果は……」

 小さく笑うと、そのまま外へ出て行ってしまった。それを追って、急いで外へ出てみると、

 「くっ、もういない……!!」

 のである。

 仕方なく中へ戻り、席へ着くと、

 「あの後、私は負けてしまったよ。感情に流されると、とても戦えたものじゃない」

 山城 暁が笑いながら話していた。

 流 ヒスイが座っていた席には、緑色に輝く綺麗な石が置かれていた。

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