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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(7) ~ 水霊ヒスイの挑戦! 対決!あやか 対 せき !! の章
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水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(15) ~ 遭遇

 「こうして外へ出るのは久しぶりのことだ」

 2人は外へ出てきた。実のところ、佐渡せきは、

 「流 ヒスイに攫われたことになっている」

 のであって、流 ヒスイと共に外へ出ることは、

 「何らかの問題や騒ぎを引き起こすのではないか……」

 と考えられたものだったが、その点については、流 ヒスイはまるで気にしていない様子で、

 「暁の奴のことなど、考えるまでもない……」

 と話していた。

 何か騒ぎがあったところで、それは山城 暁に責任のあることだいうことなのだろう。

 水霊としての地位や名誉、立場については興味のない……と話す流 ヒスイなのだが、

 「山城の奴だけには遅れる訳にはいかない」

 語気を強めて語っていた。

 山城 暁といえば……

 佐渡せきは稽古をしていた時に出会ったことがあったものだった。

 佐渡せきは山城 暁との付き合いはない。しかし少しの間、流 ヒスイと一緒に過ごしたて思ったのは、

 (ヒスイとは正反対な感じの人だったな……)

 であった。

 およそ明るい性格で、はきはきとしていた覚えがある。それに対して流 ヒスイは、

 「少し冷めていて、気難しい……」

 ところがある。

 そうした2人であるから、噛み合わないのだろう。

 いがみ合っているのも、それとなく納得できる佐渡せきであった。

 さて、そんなことを考えているうちに、2人は『せいりゅう』へやってきた。

 「ここがせいりゅうか……話には聞いている」

 せいりゅうでは多くの水の精が働いている。だがその水の精達は、流 ヒスイを見ても、

 「いらっしゃいませ!!」

 自分や他の護山達と変わらないように接しているではないか。この様子を見て佐渡せきは、

 (やっぱりヒスイの言うように、水霊としての立場は……)

 意味や価値を持たないものなのかもしれない。

 さて……

 2人は空いている席へ着こうした。その時のことだった。

 「………おまえっ!?」

 「あっ……」

 二つの声が交わった。佐渡せきは顔面蒼白でその声の先を見ている。

 「どうしてせきがここに居るんだ!?攫われたんじゃなかったのか?」

 「いっ、いやそれは……」

 別に佐渡せきが悪いわけではない。なのにやはり自分が悪いように思えてしまうのは、目の前に居る風切あやかが怖かったからだろう。

 こうして怒られることには未だに慣れていない佐渡せきなのだ。

 ……と、そうしている場合でもない。

 目の前には風切あやかがいる。それともう一人、白い衣を身にまとった者がいるけれども、こちらについては佐渡せきは見たことがない。

 一方で、風切あやかの方も、沢渡せきと一緒に居る、

 (こいつは……)

 冷たい雰囲気を持つ流 ヒスイを見たことはない。

 ただそれに似た雰囲気や感覚を、

 (以前に感じたことがある……)

 ことまでは覚えている。しかし、それがどこだったかは微妙な雰囲気の違いもあり思い出せなかった。

 「君は……?」

 「かっ、風切あやかさんです!護山家で私の上役に当たりますっ!」

 「なるほど……」

 流 ヒスイが風切あやかを眺めている。そして一つ頷くと、

 「君は、蒼水れいと仲良くしている護山家だった。活躍はよく聞いている」

 笑いかけることもなく、真顔でそう言ったものだった。

 (こいつ、私のことを知っているのか……?それに れいとのことまで……)

 只者ではない……と感じ取った風切あやかは思わず腰元の黒刀へと手をやった。しかし、

 「それでは遅い。やめることだ」

 流 ヒスイが小さく言った。風切あやかの体が止まった。

 (くっ……)

 動けないのではない。動かないのだ。

 まるで狼にでも間近で睨まれているように、

 (動けばこちらがやられる……)

 のである。

 「あやかさん。やめましょう。彼女は食事に来ただけです」

 「食事だと?」

 風切あやかが隣に居る精霊鳥を見た。

 「そうです。彼女は流 ヒスイといって、頭の良い人ですから、それ以上のことはしません」

 「流 ヒスイだと……?」

 この名前には覚えがあった。たしか山城 暁の話に出てきた……

 (まさか……!?)

 それを思い出すと、風切あやかの背中に冷たい汗が流れた。思い出したことが正しいならば、流 ヒスイは風切あやかなどが向かい合ってもとても倒せる相手ではない。

 その流 ヒスイが佐渡せきを伴ってこの『せいりゅう』へとやってきている。

 「これはどういうことだ?」

 「彼女たちは食事に来た……ということです。あやかさん。私達と同じですよ」

 精霊鳥はそう話しているが、

 「…………」

 風切あやかには、にわかには信じがたいことであった。

 流 ヒスイは水霊のトップとも言われる存在である。そんな流 ヒスイが取るに足らないであろう水の精達が働いている『せいりゅう』へ来るとは、風切あやかにはとても考えられないことであったのだ。

 「精霊鳥か……久しぶりだな。相変わらず綺麗な姿をしているようだ……」

 「そちらこそ、お変わりのないようで何よりです」

 「変わりがない……か。そんなことはない。なぜなら……」

 「……そうでしたね。あなた方は『水』でした」

 「そういうことだ」

 妙に流 ヒスイと精霊鳥が昔から知り合っているかのように話している。それを見ても風切あやかは気を抜かずにいた。

 見たところ、流 ヒスイは攻撃の意思を見せてはいない。格好も非常に簡単なもので、流れるような短い衣に、

 (腰に短刀が2本……か)

 くらいのものであった。

 「だから、私は食事に来ただけのことだ。風切あやか」

 「…………!?」

 不意に声を掛けられたので、はっとして風切あやかは流 ヒスイを見た。

 その顔は小さく笑っていた。

 「仕事熱心なのは結構なことだ。君みたいな護山家をもって、山城の奴は幸せだろうな」

 「…………くっ」

 まるで心のうちを見透かされているようで、やはり、

 (とても敵わない……!!)

 風切あやかは歯を噛んだ。その様子を見て、精霊鳥は

 「ま、せっかくですから、一緒に食事をしましょう。あやかさんもヒスイさんのことを知らないでしょうから」

 「…………そうだな」

 流 ヒスイも頷いた。

 「では、向かい側の席を貰おうか。せきはそこでいいな?」

 「あっ、ああ……」

 これはとんでもないことになった……と佐渡せきは小さく震えていたものだった。

 まさかこんなことになろうとは夢にも思っていなかった佐渡せきである。

 ただいつものように『せいりゅう』で大好きな蕎麦を……流 ヒスイとすすることができれば、

 (ヒスイのことを少しは理解できるだろうな……)

 と思っている程度だったのだ。

 それがこうして風切あやかと向き合うことになろうとは……

 風切あやかもまた流 ヒスイのことを理解してはいない。むしろ敵視しているようだった。それもそのはずだろう。風切あやかからすれば、流 ヒスイは自分を『攫った』ということになっているのである。敵だと思うな、という方が難しいだろう。

 そしてわざわざ一緒に食事をすることを持ちかけてきた、あの精霊鳥と呼ばれている人物に気になっている佐渡せきである。

 どうやら流 ヒスイとは親しい様子ではあったが、

 (一体何を考えているんだよぉ……)

 余計なことをしてくれた、と恨めしい気持ちを隠せない。

 だが、更にこの場を重くする出来事が、この後に訪れるということを佐渡せきは知らずにいた。

 「ようっ!お前達がここに居るというのを聞いて来てみたんだ!!」

 勢い良くその場へ入ってきた声がある。その姿は護山家のものではあったが、明らかに綺麗な装飾を身にまとっていて、『せいりゅう』で働く水の精達も、

 「何事だろう……?」

 と囁きあっている。

 (あっ、あれは……!!)

 風切あやかがその声の主を見たとき、きゅっと心臓が詰まる思いがしたものだった。

 それもそうだろう。その声の主は山城 暁……

 「あの流 ヒスイと双璧を成し、そして相反している」

 護山家のトップであったからだった。

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