水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(14) ~ 食事への誘い
昼にかけてずっと雨はやまずにいた。
空は灰色に曇り、今日は一日雨が降り続けるのではないかと思えるような天気であったが、
「おや、これは……」
夕方には雨がやんだようった。
佐渡せきが窓から外を見てみると、そこには夕焼けの眩しい光が差し込んでおり、
未だ残った雨雲と合わせて、とても綺麗なものだったようだ。
さて……
今日の殆どをこの部屋で過ごした佐渡せきは、
「流石にずっとこうしているのは疲れたなぁ……」
ため息を吐き、立ち上がると、体を伸ばして言ったものであった。
その言葉通り、体はとても硬くなっていたらしい、節々がゴロゴロと音を立てているのが傍にいる流 ヒスイにも聞こえたものだった。
それに混じって……
「あっ……」
別の音が上がったもので、これには佐渡せきも動きを止めて顔を赤くした。
「動いていなくてもお腹は空くもの……か」
流 ヒスイが呟いた。
「そ、そうだよ!今日はあんまり食べてないから、お腹が空いたんだよ!……笑わなくったっていいじゃないかぁ……」
「はは……笑ってはいない」
「いや、笑ってるって!!」
思わず、流 ヒスイが自分のことを笑っていたので、精一杯に言葉を返した佐渡せきだった。
そしてそれが意外にも今までとは違った会話であったのに佐渡せきは気づいてはいなかったのかもしれない。
というのも佐渡せきは笑われるのが苦手である。それともう一つ、気が付かない間に、何処か流 ヒスイとの距離が縮まっていたところがあるのだ。
(おや……)
流 ヒスイの笑った顔を見て少しは、
(もしかしたら……)
と思う部分も出てきたのだ。
佐渡せきはお腹が空いている。そこで思い立ったことが一つあった。
「あの、ヒスイ」
「なんだ?」
「私さ、お腹が空いてて……」
「そうだな」
「外のところに『せいりゅう』って、おいしい食事処があるんだよ……良かったら一緒にそこへ食べに行かない?」
「………………」
「あっ……やっぱ、ダメかな……?」
流 ヒスイは険しい顔をしている。これには佐渡せきも蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまった。
それと共に、自分が無茶なことを話していることもまた思い起こした。
(そうだ。ヒスイは水霊のトップだったじゃないか……!!)
少しの間、一緒にいることで小さくても親しみを感じていた佐渡せきである。だから、流 ヒスイが自分にはとても手の届かない存在であることを忘れてしまっていたのだった。
それを感じ取った佐渡せきはすぐに、
「ごっ、ごめん!……なさい。私、勘違いしてしまって……ヒスイさんは、私なんかとは違うんですよね……本当に勘違いしてしまって……ごめんなさい!」
頭を下げて力いっぱいに謝っていたものだった。
それを流 ヒスイは目を丸くして眺めていたものだったが、すぐに我に返ると、
「勘違いをしているのは君のほうだ」
「へ……」
「何度も言っている。私は水霊の地位や立場に意味や価値を感じていない……と」
「で、でもさ……」
「でもも何もない。それより、君が食事に誘ってくれて、私は嬉しい。この気持ちはまるで……」
言いかけたところで、流 ヒスイは口を閉じた。何かを言いかけた形ではあるものの、
(いつもそれを口に出さない……)
流 ヒスイなのだった。
これについて、佐渡せきは不自然さを感じ取ってはいる。見たところによれば、
(どこか寂しそうなんだよな)
というのである。
その原因については分からない。ただ誰か特定の人物が、
(ヒスイにとって誰か大切な人……)
が関わっているのではないかと佐渡せきは感じ取っている。
その人物がどういったものかはとても分からない。ただ流 ヒスイは、
「自分が提案した食事について、喜んでいる」
ようだったので、それは佐渡せきにとってもこの上なく嬉しいことだった。
(まだきっとヒスイとの距離を縮めることができれば……)
それについて知るときが来るかもしれない。そして、そのために自分ができることがあれば……。
「さ、お腹がすいているのだろう?早く出よう」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
二人は外へ出て行った。空は夜の闇が広がり、辺りは暗くなっていた。




