水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(13) ~ 『魚水流』と『翡翠刀』
それから本を眺めては見たものの、水銀を外へ出すことを反対した人物のことは書かれてはいなかった。書いてあったとすれば、
「体調から体格、それに性格、生態……」
などなどやはり生物図鑑といった風が強かったのだ。
それでも新しいものを見るのは面白かった佐渡せきだった。
「まだ読んでいたのか。稽古は休みだった訳じゃないぞ」
時間を置いても戻ってきた流 ヒスイが呆れながら話していた。
その後は、流 ヒスイが見繕ってくれた剣術の本をぼちぼちと眺めていた佐渡せきである。
(おや……)
と気になった本があった。
それは2本の特殊な短刀を用いた剣術で、なんでも『魚水流』というらしい。
2本の短刀を振るうだけでなく、その刀を投げみると、なんと手元へ戻ってくるという。
(へぇ、まるで魔法だな)
『魚水流』に用いる短刀は、自分や風切あやかが持っているようなありふれた刀ではなく、まるで宝物であるように綺麗に光り輝いている。
(特別な刀か……とても真似できそうにないや……おや?)
また一つ気になったことがある。
(この短刀、どこかで見たことがあったような……?)
そんな気持ちがするのである。
それが何処だったかは思い出せないが、この特殊な短刀、その煌きは確かに印象的なもので、何処かで見た覚えがあるのだった。
「あの、ヒスイさん」
「どうかしたのか?」
向かいの机で一人別の本を眺めていた流 ヒスイがこちらを向いた。すぐに立ち上がると、まるで呼ばれるのを待っていたかのように、軽やかな足取りで佐渡せきの元まで来たものである。
「あ、あのさ、これなんだけど……」
『魚水流』その特別な輝きを放っている2本の短刀、その絵を見るや、
「む、これは……」
流 ヒスイの顔がなんとも言えない表情を浮かべた。
それは苦々しい表情であったし、どこか寂しげな表情でもあった。
「…………ん?」
短い間ではあるが、流 ヒスイと接してきた佐渡せきでも、こういった流 ヒスイの顔を見るのは、
(一体どうしたんだろう?)
まるで初めてのことなのである。
少し間、険しい顔をしてそれを眺めていた流 ヒスイが、顔を上げると、
「これは魚水流に使う刀で『翡翠刀』というものだ……」
「へえ、ヒスイ……」
そう言われればこの刀の輝きは翡翠の眩い緑色にも見える。
「そう。しかしこれは本当に特別なもので、この八霊山にも2組しか存在しない」
「2組……」
「一つは水霊さまが持っている。そしてもう一つは……」
そう言って、流 ヒスイは僅かに声を詰まらせると、
「いや、なんでもない。もう一組は行方不明……奈落王ととの戦いの時に、誰かが持ち出してしまった」
「そうなのか……」
「それに扱いも難しい。今尚、扱えるものは1人か2人、それを持つ者のみ」
「じゃあ私なんかじゃ無理だろうなぁ。なんだか凄そうだったけど……」
「ああ、魚水流の剣術は素晴らしいよ。見ている方も思わず見入ってしまうくらいだ」
「尚更、私には無理か……ははは」
「……そうでもない。だって、君は……」
「えっ?」
「……いや違う。君には素質がある、ということさ」
「あっ、そうなの。いやぁ、ヒスイに言われると嬉しくなるなぁ」
「…………」
流 ヒスイが小さく笑った。それは佐渡せきが喜んでいるのを見て、自分も嬉しくなったのかもしれない。または、それとは別に何か面白いことがあったのかもしれない。
どちらにしても、この時の佐渡せきはその流 ヒスイの笑顔に気づくことはできなかった。
外ではまだ雨が降りしきっている。




