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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(7) ~ 水霊ヒスイの挑戦! 対決!あやか 対 せき !! の章
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水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(12) ~ 水銀

 この日も稽古は続いていた。

 空は少し曇っていて、今にも雨が降り出しそうな天気であった。

 風もすこし吹いている。

 「今日は雨が降るだろう。外での稽古は日の高いうちに切り上げる」

 「分かりました。ヒ、ヒスイさん」

 「……ん、ああ、そうだな」

 どこか不満そうな流 ヒスイである。というのもやはり自分のことを『ヒスイ』と呼んでくれないのが気にかかるのであったが、

 (まだ出会ったばかりのことではないか……仕方のないことだ)

 と自分なりに妥協して、なんとか『ヒスイさん』で落ち着いている。

 二人は水霊の城へと戻ってきた。

 戻ってきたら戻ってきたなりに行える稽古はある。

 「ここにある書物を読むのだ」

 流 ヒスイは書庫へ案内すると、そこで本を読むことを進めてくるのだ。

 (うへぇ、本かぁ……勉強って言うのはどうも苦手でなぁ)

 稽古は好きなのだが『勉強』となると苦手意識を持っている佐渡せきである。

 これは生来の性質らしい。八霊山で倒れる前からそうであった覚えを持っている。

 「でもこれは……」

 それでも面白そうな本はあるようだった。

 (なんだろう?これは)

 何やら白い蟷螂のような生物の描かれた本が目に付いた。

 その本を風切あやかが見たものならどんなに驚いたことだろうか……まさしく、聖白の森に棲んでいるあの、

 『白刃の魔物』

 であった。

 思わず興味を持った佐渡せきが、その本を開いてみると、

 「水霊様が死霊退治に遣わせた者 水銀」とある。

 更にページをめくってみると、

 「八霊山が奈落王により侵略された時、八霊山は死霊であふれかえっていた」

 そうである。その死霊を残らず片付けていったのが、その水銀という蟷螂だったそうだ。その後、水銀は八霊山の死霊を倒し終えると、何処かへ消えていってしまったのだという。それを水霊さまは、

 「奴は役目をやり遂げた。後は自由にさせるのだ」

 ということで、今も尚、何処かで生きているということになっているらしい。

 ……もっとも、それが八霊山の聖白の森を住処にして暮らしていようとは、水霊さまは知っていたかどうかは分からない。

 ともかく、そういった歴史のある生物で、もとはこの水の精の領域に住み暮らしていたという。

 「おや、それは水銀か……懐かしい」

 横から佐渡せきの本を覗き込んでいた流 ヒスイが懐かしそうに笑っていた。

 「そいつは元々、とても臆病な生き物で、あの時もここから出ようとしなかった。それを皆で引きずり出した……ああ、そうだ。水銀を外へ出すことを反対した者がいた……」

 「…………?」

 急に流 ヒスイが声を落としたのが、佐渡せきは気になった。

 「いや、なんでもない。ただ水銀を気に入っている者が居て、それを戦うために外へ出すことを反対しただけさ。」

 「へぇ、そうなんだ」

 ぱらぱらと興味本位で佐渡せきはページをめくって見た。もしかしたら、流 ヒスイの話す、

 (その水銀を外へ出すことを反対した人……)

 が載っているのかもしれない。別段、その人物に興味はない佐渡せきなのだが、先ほどの流 ヒスイの表情がどうにも気になるのだった。

 「そんなに水銀のことが気になるのか?」

 「えっ、ああ、知らないことだからさ。どうにも夢中になっちゃって」

 「……そうか。いや、すまない。そんな君の事を見ていると昔のことを思い出してしまった。すまない、少し外の空気に当たってくる……」

 そう言うと、流 ヒスイは部屋を出て行ってしまった。

 外ではもう雨が降っているらしい。雨が城を打つ音がこの部屋の中でも十分に聞いて取れた。

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