水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章(11) ~ どうやって倒すか?
「意外と大きいものだな……」
聖白の森の一番奥、その森が纏っている聖なる気が一番集中している場所に、その魔物は居たものだった。
『白刃の魔物』
と精霊鳥は話していた。
なるほど、確かにその魔物は両腕に白く輝く刃を付けた蟷螂である。
その白刃の魔物が祭壇のような場所を陣取って動かない。まるで、
「精神統一でもしているのか?」
と思えるように僅かにも動かない。
「まさしく感覚を研ぎ澄ましています。場所が場所ですから、敵意を持って飛び掛ったら命はないでしょう」
「……あれじゃ難しいどころか不可能だ……」
「でも倒さなければなりません。幸い、あの魔物には弱点があります」
「弱点?」
「はい。あの鎌の節目のところ、威力がある分だけ、外からの攻撃に非常に弱いのです」
「ふむ……」
そうしてちらりと祭壇でうずくまっている白刃の魔物を風切あやかは見やった。
確かに立派な鎌が白く光り輝いている。あんなものでまともに斬られたものならば、
(命はないだろうな)
間違いのないことだろう。
さて、問題なのはその弱点である。精霊鳥の話すところによれば、
「あの鎌を振り上げたときに出来る、節目が非常に脆いのです……あなたの黒刀であっても切断することは十分に可能なはずです」
というのである。それにしても……
「どうしてそんなことを知っているんだ?」
ふと疑問に思っていた風切あやかが聞くと、
「私は八霊山に大昔から棲んでいるのですよ……『精霊鳥』こそは世代交代を重ねていきますが、その記憶は次の世代へと引き継がれてゆくのです」
「そうなのか……ん、ということは……」
「はい?なんでしょうか?」
「……いや、なんでもない。この話はあとにしよう」
風切あやかは正面へと視線を戻した。そこには先ほどと変わらず、少しも動かない白刃の魔物が居る。
しかしそれでいてまるで隙がないのだ。こちらが様子を伺っていることも、もしかしたら、
(気がついているのかもしれないな……)
と思えるほどにその存在感は圧倒的であった。
「今日のところはいったん引いて、策を練ったほうが良いな……」
風切あやかはそう考えた。闇雲に戦いを挑む必要はない。
「そうですね。あの白刃の魔物は一週間に一度の食事に出る意外はああして、あの場に居ますから。無理に今、倒しに出ることはありません」
そう話すと、一先ず2人はこの場を離れていった。
「…………」
祭壇に残った白刃の魔物は、それを察知したのか、小さく息を吐いていた。
そのことに風切あやかと精霊鳥はとても気づくことは出来なかった。
ぽつぽつと雨が降り出したのはこの時であった。




