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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(7) ~ 水霊ヒスイの挑戦! 対決!あやか 対 せき !! の章
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カゼキリ風来帖(7) ~ 水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章 (8)

 「お前は外入りの者だったな。確か山で倒れていたと聞いたが……」

 澄み渡るような青空が広がっている。その下の護山家の稽古場で山城 暁がふと風切あやかに問いかけたものだった。

 「そうであったと、はるかさまからは聞いています」

 「ふむ……」

 今は稽古も一息ついて、近くの切り株へ腰をかけている二人であった。

 今行っている稽古は簡単に言えば薪割りである。斧を振りかぶっては薪を叩き割っていくというとても単純なものなのだ。

 山城 暁が話すには、

 「稽古に入る前に基礎を磨いておかなくてはいけない……!!」

 ということらしく、休憩を挟みながらも延々と薪を叩き割っていった。

 その稽古の合間において、ふとその話が出た。

 「ここに来る以前のことは、何か覚えていないのか?たとえば、自分が何処の何者であった……などは?」

 それを聞かれて、風切あやかは昔を思い浮かべてみた。

 思い起こせば、気が付いた頃には八霊山で護山家として働いていたものだった。

 高山はるかに拾われ、その姉である高山かなたに鍛えられ、そして数々の役目を果たしてきた。

 「昔の私ですか……」

 そういえば覚えのないことであった。いや、むしろ

 「思い出せない……」

 というべきなのかもしれない。

 今、山城 暁に問われる以前から、風切あやかは自分の過去について考えてみたことは多々あったものだった。

 しかし、思い出そうとしても、

 「……くっ、頭痛がっ……!!」

 それとなく頭痛が始まり、思い出すことができないのであった。

 そういうこともあり、風切あやかは昔を思い出すことをあんまりしないのである。

 もっとも今更、昔のことを思い出しても、

 「しょうがないことだな」

 と思っている。

 今の風切あやかにとって重要なのは護山家として、八霊山の平和を、

 「護ること……」

 なのである。

 それこそに意味を感じるし喜びを感じる。そうしたことの前に、以前の自分の何が必要であろうか?

 そうだ。まるで必要がない。

 「今の私にとって、以前のことは全く重要ではありません。山城さま」

 「…………」

 そう話す風切あやかを山城 暁が鋭い目で眺めている。

 まるでワシが相手を睨むような視線であった。思わず、風切あやかは身を震わせた。

 「それは嘘だな」

 「……はっ?」

 山城 暁の視線に風切あやかは思わず息を飲んだ。

 一体どうしたことだろう?その言葉を受けてから、まるで体が動かなくなったのだ。

 心なしか、背中に冷たいものを感じている。

 「それは嘘だと言っている。お前は過去を思い出したくないだけだ」

 「……それは、どうしてでしょうか?」

 「私は護山家のことはあらゆることを把握している。それが勤めだからな……お前のことも、見えているのだ」

 「見えている……のですか」

 「ああ、そうだ。しかし私はお前ではない。何があったかは知るところではないが……」

 山城 暁の鋭い目が、風切あやかを捉えている。

 「お前の過去はお前にとって、大きな意味を持っているのだ。お前の奮う剣をからも見える。自分を守り、そして周囲を守ろうとする意思がな」

 「自分を守り、周囲を守ろうとする意思……」

 「ああ、そしてそれはお前の過去から来ているものだ。思い出したくのない、忌まわしい過去だ」

 「…………」

 「己を見つめ、その過去を見つめなおしたとき、お前の剣は一層の強さと輝きを持つ」

 「でも……」

 風切あやかが小さく声をあげた。顔は下を向き、顔を悔しそうに歪めている。

 自分の過去を思い出すこと、見つめなおすこと、そういったことは今まで考えてみたことはないこともない。

 しかし、それに意味を見出すことはまるでなかったのだ。思い出したところで、こみ上げてくるのは理由の分からない憎悪と嫌悪感だけであった。

 そうしたときに思い出すことといえば、

 「あやかから黒いものが立ち上っていきましたよ」

 という話である。

 これは高山はるかの言葉で、彼女が八霊山で倒れていた風切あやかを自分の部下とするために蘇生させた際に、風切あやかの体から立ち上った黒い憎悪の念のことを指している。

 同じくこれについて高山はるかが話すには、

 「あの煙はあなたの憎悪の念でしょうね。八霊山へ来る前のあなたは何か嫌なことでもあったのではないでしょうか。あの煙はそういうものですよ」

 とのことだった。

 なにはともあれ、八霊山で護山家として働く風切あやかにとって、自分が八霊山へ来る前の記憶などというのは、

 「全く意味のないこと」

 なのである。

 だから、考えることは殆どなかったのだ。

 それがここにきて過去を振り返る必要性を迫られた。

 (それが今の私には必要なことなのだろうか……)

 このことである。

 「私には過去を思い出すことができないんです。一体どうすれば良いのでしょうか……」

 「そこは運命だよ。神が君に与えた試練、そのときが来たということだ」

 「運命ですか?」

 「この八霊山には、自分を、過去を見つめなおす、神聖な場所がある」

 「そんな場所が……」

 「ああ。その場所は私達、山神の関係者……それと一部のものしか知らないし入れない。もっとも、この場所で修行を行うもの自体、近年は出てきてはいない」

 山城 暁が指を差して、

 「それを知っているし入るための権限を持った私と、それを必要としている風切あやか。これら二つは神が与えた運命だと私は思うんだよ」

 「な、なるほど……」

 なんだか熱を帯びた声で語りかける山城 暁に風切あやかは気押されている。

 その一方で、山城 暁の話には納得できる部分もあった。自分が新たな力を手にするために、

 (この事件が……)

 起こるべくして起こったのではないかと……。

 昨今、八霊山では不可解な事件が続いていたものだった。

 あの精霊鳥の浪霊による襲撃事件、天道家による陰謀、そして今尚解決していない、謎の人物、『水影あさひ』の暗躍である。

 近い将来、八霊山には何か恐ろしい出来事が、

 「起こるのではないか!?」

 といった話は護山家の中に留まっては居ないのだ。

 誰もが、何か不穏な空気を感じている。そうしたところなのである。

 「私に、私に、その過去を見つめる場所を使わせては頂けませんでしょうか、山城さま」

 目に激しい決意の光を湛え、風切あやかが頭を下げた。それを見て、山城 暁は小さく笑うと、

 「もちろんだ。それが神の意思ならば、私はそれに従うだけ……だよ!」

 山城 暁が手を伸ばした。

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