表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(7) ~ 水霊ヒスイの挑戦! 対決!あやか 対 せき !! の章
33/146

カゼキリ風来帖(7) ~ 水霊ヒスイの挑戦! 対決! あやか 対 せき !! の章 (2)

 「くうっ……それっ」

 日は高く上っている。その下で、元気いっぱいの高い声が気合とともに発せられている。

 「それっ!それっ!!」

 と綺麗に輝く汗を流しながら、ただ一人でひたすらに稽古用の特別製の木刀を振るっているのは、

 『護山家の期待の新人』

 などと呼ばれるようになった猿渡せきである。

 あの『外入り新人!佐渡せきの悩み の章』の後、事務役から風切あやかと同じ探索方へと転任した佐渡せきは、日々を八霊山の警備任務と剣術の稽古に明け暮れる毎日となった。

 その中で、

 「一手、手合わせしてみよう」

 と外入りの新人護山家が探索方へ回ったことが話題となって、稽古がてらに腕試しをする者が多くなったのだ。

 これには八霊山の外から入ってきた、

 「外入り……」 

 である佐渡せきは驚いたものだった。以前までなら疎外感を感じていたところが、今となっては人気者であり、

 「仲間として迎えられている」

 というのを肌で感じることができるのだ。喜ぶほかはなかった。

 ――ただ、その試合……いや、他の護山家との剣術稽古は彼女が思っているほど楽しいものではなく、

 「いてえっ、いたいってぇ……」

 稽古の度に、こてんぱんに打ちのめされている。

 「ま、こんなもんだよ。まだまだ始まったばかりだからさ」

 風切あやかは慰めるものだが、本人はとても納得できていない。

 「次こそは打ち勝ってやるんだからっ!!」

 持ち前の負けん気は佐渡せきを次なる稽古、次なる勝負へと駆り立てるのであった。



 さて……

 今日もその例に違わず、佐渡せきは見回りを終えた後で、稽古に勤しんでいた。

 ここ数日は他の護山家との稽古も行ってはいない。したがって、己を鍛えることのみに集中している佐渡せきである。

 その手に持っている特別製の木刀……

 「おや、これは重木刀じゃないか。はは、俺もそれをよく振ったものだったよ」

 不意に声がした。

 「なにっ!?」

 これに驚いた佐渡せきが思わず木刀の切っ先を声のした方へ向けて、構えてみると、

 「…………あれ!?」

 見たことのない人物が居た。まず身なりが見慣れた護山家の装束ではない。それでいて、八霊山に住んでいる水の精達が着ているような着物でもないのだ。

 佐渡せきが目を丸くしてその声の主を眺めている。すると、

 「あっ、邪魔しちゃったかな。俺も剣術が好きで――そうそう、あそこのところを下ってきたら、君が重木刀を振っているのが見えて、思わず来てみたんだ」

 「えっ、あっ、そうなんですか」

 目の前の人物は目を輝かせて佐渡せきを見ている。

 (間近で見てみると……)

 非常に綺麗な顔をしているその人物である。

 まるで雪原のように輝く白い髪は短く、整った顔と合わせて、

 「まるで少年のような……」

 可愛らしさを持っている。

 (けれども着ているものが、まるで私たちと違うし、一体この人は何者なんだろう?)

 ここに来て佐渡せきは改めてそれを思ったが、その人物はそういったことにはまるで気にも留めない様子で、

 「そうだ。せっかくだから、俺とひとつ打ち合ってくれ。最近は、忙しくてまったく稽古もできていないんだ……どうだ、頼む!」

 といって、綺麗な羽織を脱ぎだしたものだから、佐渡せきもこれに水をさす訳にもいかず、

 「あっ、じゃあお願いします」

 頭を下げて向き合ったものだった。

 日は少し落ちて、辺りは夕焼けが広がっている。 



 「ごめん、名前がまだだったね。俺は山城。山城 暁っていうんだ。」

 「私は佐渡せき!剣術は……」

 「まだ始めたばかり、だよね?見れば分かるよ。こう見えても、多くの護山家達に稽古や指導をしてきてるんだ」

 「な、なんだって!?」

 思わず佐渡せきから驚きの声が出た。

 山城 暁の姿はどうみても自分と同い年程度で、別段、大人びて見えるものでもない。しかし、そんな彼女が、

 「護山家達に稽古や指導をしている」

 というのだから、分からないのである。

 (この人は一体何者なんだろう?)

 佐渡せきの疑問は募るばかりであった。もしかしたら、八霊山に害を成す、

 『侵略者』

 であるかもしれない。

 (でも……)

 それにしては自分を襲わないばかりか、『護山家』を知っているし、その上、護山家に剣術の稽古や指導をしていると話している。

 それに佐渡せきの剣術の未熟を見抜いている以上は、すぐに斬り倒すこともできるのである。

 分かっていながらそれをしないということは、

 (とりあえずは大丈夫そうだ……)

 佐渡せきは安心していた。

 ともかくも稽古として木刀を打ち合うからには、負ける訳にはいかない。

 「山城 暁は侵略者であり、もしも負けたら、そのまま自分を殺しにくるんだ……」

 という覚悟を持ってこの稽古に臨まなくてははならないだろう。

 「木刀は、これ、予備のを貸してもらうよ」

 すっと動いて、荷物と一緒に岩本に立て掛けてあった木刀を山城 暁が手に取った。

 稽古で負けが続いているだけに、佐渡せきの稽古は熾烈を極めている。

 木刀を振るい、木や案山子に打ち付けるたびに木刀は、

 「あっという間に……」

 ぼろぼろになり、折れてしまうのである。

 そのため、佐渡せきは常に稽古を行う際には複数本の木刀を携帯しているのだ。

 木刀を掴み、山城 暁が構えを取った。

 それに向き合う形で、佐渡せきも同様に構えを取ったものだが……

 (これは……ダメだ)

 山城 暁の構えにはまるで隙がないのである。どこへ打ち込んでも、すらりと避けられ、

 「てやあっ!」

 と必殺の一撃を打ち込まれてしまう……そんな未来が佐渡せきには見えている。

 「むむ……」

 歯を食いしばって、なんとか気合で負けないように努める佐渡せきへ、

 「ほら、そんなに硬くならなくてもいいよ。大丈夫。打っておいでよ」

 可愛い笑顔でもって山城 暁は応えたものだった。

 そうと言われてはいつまでも様子を見ているわけにもいかない。

 (思い切っていってみよう……!)

 上段に構えた形から、勢いづけて佐渡せきは山城 暁へと飛び込んでいった。

 あっという間に二人の間合いがなくなる。佐渡せきの目前に、山城 暁の凛々しい顔、それに綺麗に輝く白髪が広がり、思わず、足を止めてしまいそうにもなったものだが、

 「それはいけないっ!!」

 意気込んで思いっきり木刀を振り下ろした。



 ガシン、と木刀同士がぶつかり合い、乾いた音が当たりに響き渡った。

 「……うん、なかなかだ」

 振り下ろされた佐渡せきの木刀を支えながら、山城 暁が楽しそうに声を上げている。

 その様子を木刀を通して佐渡せきも眺めていた。反応としてはちょっとばかり、

 (あれっ……?)

 拍子が抜けてしまった部分がある。しかしすぐに気を取り直して木刀を引くと、

 「でやあっ!!」

 今度は横から打ち込んでみた。

 またも同じように木刀がぶつかり合い、なおも楽しそうにしている山城 暁の顔が見えた。

 (ひょっとしたら、この人は私のことを笑っている……?)

 二度の彼女の笑顔を見て、そういった考えが浮かんでくると、佐渡せきの顔がほんのりと赤くなってきた。

 それは恥ずかしさもあるけれども、それよりも、

 「馬鹿にされているのかもしれない……」

 といった気持ちからくる怒りのほうがあるだろう。よって、その次の3回目の打ち込み……それは最初とその次の打ち込みよりもより、

 「強い気持ちの乗った」

 一撃であったのだ。

 これなら……と歯を食いしばりながら力一杯に振り込んだ木刀は、山城 暁へ向けて、力強く打ち込まれる……

 「はずであった!!」

 のだが……

 「それえっ!!!!」

 気合声とともに振られた佐渡せきの木刀は空しくも宙を横切っただけであった。

 それならば打ち込まれるはずであった山城 暁はどうであったのだろうか?

 「なるほど、今のは凄かった!重木刀を振っている成果だよ」

 不意に佐渡せきの後ろから声がして振り返ると、そこには正面で捉えていたはずの山城 暁がいた。

 「えっ、どうして!?」

 あまりのことに驚きを隠せない佐渡せきである。そして気づけば、手に持っていたはずの木刀もなくなっている。

 「あれ、私の木刀はどこにっ!?」

 うっかり落としてしまったのか、それとも勢い余って投げてしまったのか……足元や周囲を見渡してみても、どこにも落ちてはいないのだ。

 「木刀なら、ほら、あれだよ」

 山城 暁が宙を指差した。その先を見てみると、何やら黒いものが飛んでいるのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ