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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(6) ~ 外入り新人!佐渡せきの悩み の章
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カゼキリ風来帖(6) ~ 外入り新人!佐渡せきの悩み の章(10)

 「それにしてもどうして?」

 来てくれたのだろうか。不思議な気持ちであったが、

 「今はそれどころじゃないだろう」

 「そうですよ。今はあいつらをやっつけないといけません」

 風切あやかと高山はるかは、前面に居る佐渡せきの更に前、4体の浪霊とその中心に居る人影へと目を向けている。

 「はるかさま。あの真ん中の奴は……」

 「ええ。あのときの奴ですね」

 あの時?……詳しいことは分からないが、風切あやかと高山はるかにはあの頭巾に装束をつけた謎の人影の

 『正体』

 に心当たりがあるようだった。

 「あの柿留しょうが天道夕矢に襲われていたときに、私たちをけん制していた者……間違いありませんね」

 あの戦いのとき、実際に高山はるかはこの人物を追跡している。

 逃げる人影をどこまでも追跡していた。けれども、

 「!?……どこへ行った?」

 途中で姿や気配が完全に消えてしまったのである。

 それは森や茂みを抜けて川縁へ出たときのことであった。

 (近くに隠れたのか……?)

 警戒してあたりを見てみるも、もうそこには誰もいない。

 「殺気も気配も」

 その人影の全てが夜の闇に溶け込んだように消えてなくなっていたのだった。



 「あのときの借りは返さねばなりません。あやか、周りの浪霊をたのみます」

 「了解っ!!」

 すぐに高山はるかが疾風のようにはしり、きらめく刃を抜き打ちざまに

 「そうりゃっ!!」

 と打ち付けた。同時に風切あやかも動いている。

 高山はるかが勢いのままに押していった人影から、引き離された形になっている4体の浪霊のうちの片側1体を、

 「もらったぁ!!」

 これまた抜き打ちの一閃で打ち倒した。そして、そのかえす刀で近くに居るもう1体をも倒そうとしたが、これは後ろへ飛び退くことで避けられてしまっている。

 (すっ、すごい……)

 これが本当の戦いなのだ……と佐渡せきは驚かざるを得なかった。

 自分が考えていたものとはまったく違う。あの夜、勢いと力に任せて戦っていた自分が、

 「まるで恥ずかしい」

 ような戦いぶりなのだ。

 高山はるかは奥のほうで人影とすさまじい戦いを繰り広げている。

 その手前で風切あやかが残る3体の浪霊を相手に、刀を構えて向かい合っている。



 「早いところ、こいつらを倒して、はるかさまの援護をしなければ……」

 その気持ちをもって望んでいるものだが、最初の1体とは異なり、この3体は、

 (なかなか隙を見せない)

 油断のない……というべきだろうか。最初の1体はうまく先手を取ったため討ち取ることができた。

 しかし、今度の3体はそうはいかない。 

 しっかりと警戒し構えをとっているものだから、これを切り崩すのには、

 「骨が折れる」

 のだ。

 しかも相手は3人組である。今まで、数々の浪霊を相手にしてきた風切あやかでも、

 「3体以上は……」 

 難しいといわざるを得ない。

 浪霊もただ不浄の魂が形になった魔物ではない。人や動物のもつ、

 「悪意や憎しみ」

 をもとに大きな力や技を備えている。

 目の前に居る浪霊はどれほどかはまだ分からないが、

 「恐らく、訓練をつんだ護山家と渡り合えるほどの実力を持っているな……」

 と風切あやかは見ている。



 それは構えと威圧感より感じられるものだ。

 下手に立ち向かえば、こちらが不利になる。そういうものを感じている。

 (しかし、いつまでもこうしている場合ではない!)

 そう意気込むと、

 「やあっ!!」

 と気合を込めた掛け声とともに、大きく踏み込んで斬りにかかった。

 その刀が浪霊の1体の黒刀とぶつかりあい、火花を散らせると、ばっと、双方は飛び退き、

 「それっ!!」

 すかさずその傍にいる1体に迫るや、横なぎに刀を振って、浪霊を倒した。

 残るは2体である。その片方が刀を振るったままの風切あやかに、

 「…………!!」

 必殺の一撃を振り下ろしたものだが、これを風切あやかは寸でのところで体を捻りかわしている。

 この一撃は本当に絶妙なところで、

 「浪霊の位置や攻撃は分かっていたけれども、避けるのはとっさのことだった」

 とあとで風切あやかは語っていた。

 こういった攻撃は分かっていても、すぐに体が動いてくれるとは限らない。

 それだけ風切あやかの神経と感覚が、この戦闘のときばかりは、

 「研ぎ澄まされていた……」

 ということだろう。



 必殺の一撃をかわされた浪霊は、その反撃で風切あやかに倒されている。

 残るのは1体になった。

 ここまでくればこれを倒すのも、

 「難しいことではない!」

 風切あやかは思っていた。しかし、

 「くっ……」

 突然に脚に痛みが走った。

 見てみると、脚が割られ、そこから血が噴出している。

 (さっきの奴のか)

 避けなければ致命傷であった一撃はうまくかわした。だが、

 「完全に……」

 とはいかなかったのだ。

 くそっ、と風切あやかが悔しさをあらわし、なんとか間合いをとり、体勢を立て直そうとするところへ、

 「…………」 

 浪霊が風切あやかの体へ蹴りを入れてきた。

 「ぐうう、くああっ……」



 これにはさすがの風切あやかもかなりこたえたようだ。

 呼吸が乱れ、顔には汗がにじんでいる。 

 もともと脚の傷はかなり痛みを発していた。そこを思いっきり蹴られたのだから、たまったものではない。

 (く、これ以上は無理か……)

 なかば風切あやかは覚悟を決めてきている。

 「あやかっ!!」

 と離れたところで高山はるかが叫んだものだが、高山はるかが相手にしている人影はとても彼女を放してはくれない。

 無理に離れれば、その隙を突いて向いた背中へ攻撃を入れてくるだろう。

 そうなれば風切あやかを援護するどころではない。

 「くそっ!」

 わるあがきに風切あやかが腰の黒刀を投げつけた。

 なんとか上半身を持ち上げて投げた黒刀である。とても狙いも力も入ったものではない。

 「…………」

 ぶつかりそうにはなったものの、動かずにして浪霊はそれを避けた。

 「ちっ、ここまでか」



 浪霊が歩み寄り、風切あやかへ黒刀を突きたてようとした。そのときだった、

 「くそっ、わたしだって!!」

 風切あやかと浪霊、その間へ、

 『佐渡せき』

 が割って入ったのだ!

 とても刀を抜くような余裕はない。そのままの勢いで、体当たりを食らわせのだ。

 勢いと力のこもった強い衝撃が浪霊を襲い、そのまま後ろへと仰向けで倒れこんだ。

 「いまだっ!!」

 とばかりに佐渡せきが刀を抜いて、立ち上がろうとしている浪霊を、

 「よくもあやをっ!!!!」

 力いっぱいに刀を振ってなぎ倒した。

 風切あやかが相手にしていた浪霊はこれですべて倒された。

 一つ間をおいた先では、未だ高山はるかと人影が短刀を木立をきらめかせ、

 「何者をも間に入れないような……」

 戦いを繰り広げている。



 「やはりただものではない……」

 高山はるかは相手の短刀を受けていて、思ったものである。

 相手が持っている武器は2本の短刀だった。それをまるで、

 「生きている魚のように」

 手を離れては宙を舞い、泳ぐようにして飛びかっている。

 その奇妙な短刀を駆使した戦法……それは数多くの戦いの場を経てきた高山はるかでも、

 「はじめてみる……」

 ものだった。いや、そもそもこの山で短刀の2刀流を用いるもの自体、そういたものではない。

 高山はるかでも数人を知っているくらいのものだった。

 ……しかし、それでもこのような特殊な短刀、そして戦い方をするものなどは、

 「八霊山にはいなかった」

 のである。ならばあの人影は、

 (八霊山の外から来た者なのでしょうか……?)

 とも考えることができる。

 基本的に山神さまの結界で守られている八霊山には、外からの出入りはできたものではない。

 ただごくまれに結界による催眠効果を乗り越えて入ってくる者がいけども、そういった者は、

 『無条件』

 で護山家が始末している。結界を越えることはそれだけで、山に侵入したことを探知できることになるので、この網を無事にくぐれるものはいないのだ。



 そして、八霊山へ侵入してその目をかいくぐり、生き延びたものはいない……ということになっている。

 (だとしたら、やはり奴は八霊山の……?)

 もとから居る何者か……ということになるのではないか。

 ともかくも考えていてもしょうがない。

 (あいつの頭巾を吹き飛ばし、正体を暴いてやりましょう)

 そのつもりでいる高山はるかである。

 相手が何者かであるかが判明すれば、対応策は練ることができるだろう。そうすることで、たとえ今回、相手を倒すことが出来なくてもこれからにつなげることができるのだ。

 「しかし、この短刀、本当にやっかいですね……」

 泳ぐ短刀はくるくると輪を描きながら回転し、使い手への接近をたくみに防いでいる。

 思いっきり跳ね飛ばしてやろうと、

 「このっ!」

 小太刀を振るってみるも、まるで逃げる魚のように使い手の元へ帰ってゆく。そしてもう一方の短刀が、

 「くっ……」

 高山はるかへ、口を尖らせて獲物を貫く魚のように向かってくるのだ。

 そういった攻撃はもちろん弾いて返している。

 使い手の人影には中々近づくことすらままならない。

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