カゼキリ風来帖(6) ~ 外入り新人!佐渡せきの悩み の章(3 )
「なーんては言ってみたけどさ……」
辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。遠くを見れば、もう暗くて何も見えたものではない。
その両脇に並んでいる木々が赤々と燃えるような赤色を見せていて、
「おー、こわこわ。すっかり暗くなるのも早くなったもんだなぁ」
佐渡せきが肩をすくめながら歩いていた。
この道は昼間の間にも何度か通ってはいる。その時はきれいな葉っぱを見て、心を躍らせていたものだったのだが、
暗くなってみてみると、不思議と心寂しくもの悲しい。
「なんなんだろうな。まったくよぅ」
どうにも気分が晴れない。自分で自分にそう問いかけてみるものの、答えは明白で、
「寂しい……」
のであった。
暗い道をひとりでとぼとぼ歩いていると、どうしても、先ほどまで居た
「『せいりゅう』の賑わい」
を思い出してしまうのだった。
店の中に溢れている声、水の精たちの暖かさ、それに同じ外入りの川岸みなも……
それらの元を離れるとどうしても自分がひとりであることを自覚しなければならないのだ。
風が佐渡せきの髪を揺らしている。ここからの道は川沿いとなっている。そのため、このあたりの風は、
「ふう、いい風だなぁ」
丁度いいくらいに涼しいのだ。
ちょろちょろと水の流れる音が心地よく聞こえている。この川沿いは、かつて、『水霊の儀の章』にて川岸みなもと蒼水れいがいた場所である。そこであの『水霊さまの使い』という魚が泳いできた場所であるのだが、無論、そんなことは佐渡せきの知るところではない。
この川沿いを登っていくこと数分……
「おや?」
不意に佐渡せきが足を止めた。
前方のほうから、何やら人の声のようなものを聞いたのだ。
(なんだ……?)
もしかしたら、自然の音かもしれない。川沿いというのは音は反射しあって人の声のようなものを発する……というのを佐渡せきは護山家の講習で聞いたことがあった。
(だがこれは……)
はっきりとした声のようの聞こえる。まるで歌のように音を奏でているというべきだろうか。
そして、この場所を佐渡せきは今までも何度か通ったことがあるのである。
そんな佐渡せきでも、この声は、
「今までに聞いたことがなかったな」
というのである。
そう思うと、胸の中に好奇心が広がってきて、佐渡せきはそろそろと声のする方へ向けて歩き出していた。
一応は忍び歩きをしている。これもまた護山家の講習で習ったもので、更に言うと、腰から下げている刀の振り方も教わっているのだ。
だから、いざともなれば、その刀を振るって戦うこともできる。
もしもこの先にいたのが八霊山に害をなすものであったとしても、
「なんとかできるはず……」
一応の自信を持っている。
その一方で、刀を振るって戦いたい!という気持ちがないでもない。というのも、
(もしここで浪霊の1匹でも倒せば、きっとみんなが私を認めてくれるはず)
という考えがあるのだ。
戦功の一つでも立てれば、きっと周囲は自分を見直してくれるだろう。
そうなれば八霊山での自分の立場をしっかりと確立することができる……
そういったことを佐渡せきは無意識に期待していたものだった。
一歩一歩、少しずつ声のする方へと近づいていく。それにしたがって、声もはっきりしたものになっていき、あっという間に、それは音楽へと変わっていった。
(やっぱ声だな。すると、誰かがいるのか……?)
そう思うと途端に警戒感がとけた。拍子抜けというべきだろうか。ともかく人であるならば脅威としては薄い。手柄を立てるのは難しいことになる。
なおも近づいていくと、今度はその声の主も見えてきた。川に張り出た岩の上、そこに座りながら歌っているようである。
佐渡せきは息をひそめながら、その人影を眺めていた。暗くてよく見えないが、
(武器は持っていないな……装束は護山家のものじゃない)
ということがうかがえた。顔は見えたものではなく、
(さて、どうすっかなぁ)
これには佐渡せきも迷った。相手はただ歌っているだけである。下手に手を出したものならば、自分のほうが悪者になってしまう。結局、
(ま、仕方ないかな。今日のところは放っておいて、明日、あやかさんやはるかさまに話してみよう)
ということになった。そうと決まればもうここに用はない。明日も早いことだし、
「帰って寝よう」
そう思ってかかとを返し、その場を引きあげようとしたときだった。
かっ……と思わずして足元から小さな音がひびいた。
それがちゃぽんと音を立てて水の中へ消えたということは、足に当たったそれは川辺の小石であったのだろう。
昼間のことならば、それは何気のない自然の一部ということで済んだであろう。
しかし、今夜の状況はそうではない。
(やっ……しまった!!)
佐渡せきの息が詰まった。それと同時に、
「誰!?」
歌声が消えて、代わりに高い声が響いてきた。
その声は強い殺気を帯びていて、その鋭い音はまるで刃物のように、
「刺された……!!」
ような痛みを全身に走らせていた。
(あっ、こいつはやばい……)
それを聞いて全身から血の気がひいた。腰もがくりと抜けて、とても動けない。
そんな佐渡せきの姿があらわになり、その声の主と佐渡せきは、距離をおいて互いの姿を見るに至ったのである。




