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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(6) ~ 外入り新人!佐渡せきの悩み の章
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カゼキリ風来帖(6) ~ 外入り新人!佐渡せきの悩み の章(1)

 「護山家、高山班!佐渡せき、よろしくおぬえかい……しましゅ!」

 ろれつの回らない挨拶である。

 これには思わず、彼女の挨拶を聞いていた人々からも笑いの声が出たものだった。

 「わっ、笑うことはないだろっ!!くっ、くそう……」

 悔しい気持ちが我慢できずに飛び出してしまうのがいつもの彼女だった。会場が静まりかえるが、聴衆の顔は明らかに笑いをこらえて、彼女をみていた。

 「大丈夫か?せき」

 「うーん、まぁ、大丈夫ですけど」

 「ま、新人の挨拶なんてのはあんなものですよ……ですが、ああいうのは私もはじめて見ましたが」

 夜の道を進む三人がいる。高山はるか、風切あやか、それに高山班の新しい顔である、

 『佐渡せき』

 の三人だった。三人とも立派な護山家の装束を見につけていて、腰元には大きいものと小さいものの2本の刀が下がっている。

 辺りはもうすっかり太陽が落ちていて暗いものだった。風が葉を揺らし、虫が鳴いている。

 「な、私だって一生懸命なんですよ!だって……その、わ……私は他の人と違って外入りの新人だから――」

 三人の中で、一際きれいな装束と刀を下げて、顔を赤らめた彼女が叫ぶようにいった。



彼女は佐渡せきという。

 あの夏ごろの事件『天の道の章』にて八霊山を去っていった。元高山班のひとり、

 『柿留しょう』

 の代わりとして護山家は高山班に入ってきた新人なのだ。

 しかし、この佐渡せきはただの新人ではない。

 「同じ外入りでも、綾香のときはずいぶんと違いましたよ?あやかは、こう……ずーんと沈んでいて、周囲の方々が心配してしまって、後々まで大変でしたから」

 と高山はるかが語るように、佐渡せきと風切あやかの境遇は、

 『外入り』

 という言葉をもって同じだったのだ。

 『外入り』とは八霊山の外から入ってきた者のことをいい、山神さまの許可を貰ったうえで八霊山に住むことができるのだ。

 風切あやかももとはそういった手続きの元で外入りの護山家として、八霊山に迎え入れられている。

 佐渡せきと風切あやかの共通点はそれだけではない。それに至る経緯もまた似ているのだ。

 佐渡せきはどういうわけか、八霊山で倒れ、死んでいた。

 「道を踏みはずしたのでしょう……」

 とそれを見つけた護山家は話していた。調べてみると、近くには脚を滑らせた跡も、そこを転がったような跡も、ところどころに見て取ることができたのだ。



 もともと八霊山は外との出入りは殆どできたものではない。それというのも山神さまの結界によるものなのだが、それもまた極まれに、

 「何らかの所用……」

 によって結界が弱められる。その間に外から何者かが入ってくることはなくもない。

 外の人間というのは恐ろしくも珍しい。護山家での風切あやかの活躍もあり、

 「外の人間というのは何らかの特別な力を持っているのだろうか……」

 と考える護山家の重役もあり、

 「この人間を使ってみてはどうだろうか?」

 ということになった。

 そこは風切あやかのこともあり、更に柿留しょうが抜けた穴のある『高山班』へ、

 「秘術によりよみがえった佐渡せきは編入されることとなった」

 のであった。

 もちろん、この間に佐渡せきの死ぬ前の時のこと、すなわち、

 「人間であったときの記憶……」

 は消されている。

 「私も同席しましたが、あやかと違って、黒い雲などは出ませんでしたね」

 「もう、その話はやめてくださいよ!昔の私をほじくるのはっ!!」

 風切あやかは、あからさまに嫌そうな顔をしている。今となっても、風切あやかには八霊山に入るより前の記憶は戻ってはいない。ただぼんやりと覚えているとするならば、

 「あの重くて絶望的な気持ちが……」 

 思い出として残っている程度のものだった。それがどういった理由や経緯のものであったかは、覚えていないし分からない。

 もっとも今の風切あやかにとっては、それはどうでもいいことなのであった。



 「今は……私は今が一番なんです。昔のことよりも、今を一番、精一杯だから……」

 「はいはい。そうですね。そのお陰で八霊山は平和ですよ」

 風切あやかと高山はるかは楽しそうに笑っている。そんなふたりを佐渡せきは黙ってみつめている。

 (どうにも話に入っていけないな……)

 そういう気持ちを抱えている佐渡せきなのだ。

 「ん、どうした?せき」

 どこか浮かない表情をしている佐渡せきに、風切あやかが気がついた。

 「はっ……」

 として佐渡せきの顔に作り笑いが浮かんだ。それは焦っているような、

 『無理やり作られた笑顔』

 であって、

 「いっ、いや、なんでもないっす。ただっ、ただですね……楽しそーだなぁって思っただけですって!」

 「ふうん」

 風切あやかは何の気もなく頷いたものだった。

 まだ仕事に日常、一緒になってから日が浅い佐渡せきである。

 色々と自分たちに緊張することや気を遣うこともあるだろう。

 「まぁ、慣れだよ。まだ入ったばかりじゃないか。これから多くの出会いと別れがある。それを見ていけば、せきも楽しくなるよ」

 「そうですかね……」

 「おや、珍しくあやかがやさしいですね。しょうの時は、いつもつんつんしていて、苦手とされていたのに」



 高山はるかがにやにやと笑いながら風切あやかを制している。そのついでにちらりと佐渡せきを見て、

 「あやかも反省しているんですよ。あなたにだけは嫌われたくない……って、ですね」

 「もういちいちはるか様はぁ……」

 二人のやりとりを見ていて、佐渡せきは、

 (やっぱり仲がいいや)

 と改めて思ったものである。果たして、その間に、

 (自分が入ることが出来るのだろうか……)

 考えることはそればかりなのだった。

 そう考えているうちに、途中で高山はるかと別れ、程なくして風切あやかとも別れた。

 「せき、また明日な」

 自分の小屋と風切あやかの小屋は、この分かれ道と逆の方向にある。

 夜道へ消えてゆく風切あやかの背中を見送って、佐渡せきもまた自分の小屋へ向けて歩き出した。

 佐渡せきの小屋はあの柿留しょうが使っていたものである。部屋の中のものは、必要なものを残して一度はさっぱり片付けられた。残っているものといえば

 「机に棚に布団……」

 くらいのものであろうか。

 「はぁ、今日も疲れたなぁ」

 その布団へ佐渡せきは体を横にすると、今日のことを頭に描いていった。



 護山家の挨拶会での自分、そしてその帰りに高山はるかと風切あやかと3人で帰っていったことである。

 思えば失敗ばかりだったかもしれない。挨拶会ではろれつが回らず、思いもしないことを口走ってしまったし、帰りは帰りで、

 「もしかしたらあやかさんたちを心配させちゃったかもな……」

 と不安になっている。

 だが、そう思ったところで何も始まらないのは佐渡せきには分かっていた。

 ……いや、むしろ考える余地はなかったというべきなのかもしれない。

 (あやかさんも言っていた。『これから』だって……)

 そう思ったとき、佐渡せきは眠りについていた。

 外では秋の虫が鈴の音を奏でて鳴いている。

 (秋だなぁ)

 寝ながらにして、佐渡せきはそれを感じていたのだった。

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