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カゼキリ風来帖  作者: ソネダ
カゼキリ風来帖(9) ~ 最終章 新しき風 吹き抜ける世界
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新しき風 吹き抜ける世界(4) ~ 返された刀

「ふぅ、こっちへ連れ込んでやったら、割とあっさり倒せたもんだな」

 風切あやかが呟きながらその場をあとにしていた。

 その傍らでは水の流れる音が小さく響いている。

 残った邪炎獣と蜂との戦い……それはこの川辺へ戦場を移したことにより、あっさりと終えることができたのだった。

 その昔、連携攻撃を得意とした流れ狼に対して、風切あやかの師である高山かなたのとった作戦とは、

 「森の中へ誘い込む」

 ことであった。

 流れ狼は他の山から入ってきた動物である。従って、八霊山中に関して土地勘は持ち合わせておらず、開けた土地での連携攻撃は得意としていたものの、森の中のようなある程度行動が制限される場所では、得意の連携も発揮できなかったのだ。

 その逆に高山かなたは八霊山をまるで自分の庭のように見知っている。

 木の位置や岩の場所、光の差す場所など、昔から居るだけに細かいことまで知りつくしているのだった。

 (それなら私にだって……!!)

 高山かなたの作戦を思い出して、風切あやかは邪炎獣を川辺へと誘い込んで叩く作戦を思いついたのであった。

 「こんなことだったら、最初からこっちに持ってくれば良かったか……?」

 小さく呟いたが、あの時はあの時で数が減らせる保証がなかったし、相手の出方を見る上では、戦場は広い方が良かったのである。

 「とりあえず……」

 護山家の役場へ戻ろう、と風切あやかは思った。

 二人組に関しての情報と邪炎獣に関しての報告をしなければならないのだ。

 (そういや、せきの奴はどうしたかな?)

 囮……もとい相手の気を逸らすために、駆け抜けていったせきは、あの後で何処へ行ったのだろうか。

 恐らくは護山家の役場だろう。駆け抜けていった先は護山家の役場がある方向だ。いくら佐渡せきでも真っ先にそちらへ向かい、応援を呼んでいることだろう。

 (ん?せき……か)

 佐渡せきのことを考えているうえで風切あやかはひとつ思い出したことがあった。

 「あいつ、刀を落としていってたな」

 このことである。

 (それなら拾っていってやらないとな)

 一応は囮として使ってしまったのだ。それくらいのことはしてやらないと佐渡せきに悪いだろうと風切あやかは思ったのだった。ついでにおいしい飯でも食べさせてやろう、とも考えた。

 場所はおなじみの『せいりゅう』がよい。今の時期は八霊山では様々な食材が採れる。

 たけのこにつくしにふきのとう、魚ならヤマメがおいしい。

 「全てを味わうなら、毎日『せいりゅう』へ通わなくてはいけませんね」

 と高山はるかは語っているほどに、種類も多ければ、何度でも味わいたい料理が揃っている。

 さて……

 風切あやかが佐渡せきが落とした刀を拾いに広場へ戻ろうとしたときのことだった。

 「お姉さん、コレ、お探しでしょ?」

 不意に前から声がした。

 はっとして声のする方を見てみると、木陰から一人の人影がぬっと出てきた。

 「…………」

 見たところ、子供のような人物である。

 黒い着物に赤い袖なし羽織を着て、髪は黒のおかっぱである。

 (子供……みたいだな。子供!?)

 『子供』という言葉に覚えのある風切あやかである。そうだ、八霊山を彷徨っている謎の二人組の一人が、

 「子供のような……」

 人物であったはずだ。

 「お姉さん、コレ、探してるんでしょ?」

 なおも子供は声を掛けてきている。

 これを落とした上で探していることまで知っているとなると、風切あやかと邪炎獣が戦っていたことまで、

 「知っている……」

 ということになる。それを知ってのうえで声をかけてきているならばただごとではない。風切あやかが子供を見据えて思案に耽っていると、

 「まどろっこしーことはやめようぜ?めっちゃ強張ってるぜ、コイツの顔」

 もう一つの声が出てきたものだった。

 その声の持ち主は木陰から現われると、子供の横へ立ち、刀を取り上げると、

 「ほら、コイツ。お前に返してやるっていってんだよ」

 何の遠慮もなく風切あやかの前へ立つと佐渡せきの刀を差し出してきたのだ。

 風切あやかの目の前にその人物が立っている。背丈は高く、体つきはしっかりとしていて、身体に纏っている鎧がより一層、ぞの人物を力強く見せている。何よりも目を引くのは髪を止めている赤いリボンである。まるで炎のように頭の上で風になびいていて揺れている。

 「ああ、ありがとう……」

 警戒しながらも風切あやかは刀を受け取った。サヤは佐渡せきが持ったままなので刀身そのままむき出しになっている。

 状況によっては、刀を渡す際に風切あやかを襲撃したり、または風切あやかがその人物を襲撃することもできるだろう。

 しかし、そうしたことをせず、更に風切あやかの襲撃を、

 「気にしていない……」

 素振りで堂々と刀を差し出してきたものだから、風切あやかも毒気を抜かれてしまい、呆然と立ち尽くしてしまった。

 このことは余程、その人物に自信があるのか、それとも単なる無遠慮であったのか。

 そこのところは風切あやかには分からなかったが、こうしたところから襲撃するような卑怯な真似をする風切あやかではない。

 「ところで、この辺りじゃ見ない顔だけど……」

 とりあえずは相手のことを知らねばならない。恐らくは件の二人組であろうが、せっかくその方から接触を持ってきたのだ。この機会は見逃すべきではないだろう。

 「あー、そうだな。地底出身……」

 堂々とした体躯の人物が頭をかきながら返事をするやいなや、

 「いや……いやいや、違う。そんなことよりもさ、お前のさー、戦いぶり!見てたんだよー!」

 いきなり興奮の体を見せるや、風切あやかの手をとり、ぶんぶんと振ってきた。

 「えっ、あっ、ああー!?」

 「いやー、あの邪炎獣、よーくやっつけてくれたってことだよ!あんたの戦いぶりをみてさー、カンドーしちゃってさー!!」

 「そ、そりゃどうも……」

 やはりこの二人組みは風切あやかと邪炎獣の戦いを見ていたようだ。しかもそれを喜んでいる様子を見せている。

 (こいつらはあの邪炎獣とは一体どういう関係なんだ……?)

 風切あやかも困惑を隠せない。

 「だから、今度は俺とも勝負してくんないかなー!?腕試しってヤツだよ」

 「…………!!!!」

 その言葉に風切あやかはさすがの反応を見せたものだったが、もう一人、子供の方が間に入るや否や、

 「リィザちゃん、地上でのいざこざは邪炎帝サマから禁止されてるでしょ?暴力、喧嘩、破壊、爆発、全部ダメダメだって」

 「んっ?ああ、そうなんだけどさー、でもせっかくの地上だぜ?しかもこんな強いヤツを見て、戦うな!って方がダメダメだろ?」

 「ダメダメだって、ダメダメ。そんなんじゃ、邪炎帝サマに嫌われて火紗に主導権を握られちゃうでしょ?それはダメだ」

 「あー、それはダメだな」

 「そういうコト」

 鎧を着て頭にリボンを着けた人物はリィザというらしい。リィザは風切あやかと向き合うと、

 「とーっても残念だが、そういう事情があって腕試しができないんだ……だがしかし!俺達の役目が終わったときには、絶対!手合わせしてくれよな!約束、約束だぜ!!」

 「あっ……ああ、そうなのか」

 風切あやかは閉口してリィザの様子を眺めていた。しかし、その一方で、風切あやかには聞きたいことが山ほどにある。

 「そ、そのあなた達は、一体何者でどういった目的で八霊山を彷徨っているんですか?」

 まずこのことを聞いておかなければならない。

 彼女達の話しぶりからすれば『邪炎帝』や『邪炎獣』は彼女達と関係を持っているようである。それが八霊山へ及ぼす影響……どういったものであるのかを、

 「是非とも……」

 彼女達から聞いておかなければならないのだ。

 「俺たちはなぁ……火紗のやつをやっつけて邪炎帝さまを自由にしてやりたいんだよ」

 リィザは真剣な眼差しでそう答えた。

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