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五話

 千歳が通う学校は、「白坂しろさか中学校」という女子校だった。まだ出来て数年しか経っておらず、校舎も校庭も綺麗だった。

 千歳は男子と付き合うのが苦手だ。嫌いというわけではないが、何となく後ずさりしてしまう。

 そこは両親もきちんと考えてくれたらしい。しかし場所がわかりづらい。駅前なので、朝、会社や学校に行く人で溢れかえっているのだ。ここに来てまだ一ヶ月も経っていない千歳には、迷路のようだった。

 千歳は、田舎を出る時、何度も早苗が言っていた言葉を思い出した。

「大丈夫だよ。心配しなくても、すぐに友達はできるから」

 しかし千歳はそんなわけがないと決め付けていた。田舎の暮らしと都会の暮らしは全く違うのだ。すぐに友達なんか作れるわけがない。絶対に、自分は独りになるはずだ。嫌な予感だけしかしなかった。

 

 その千歳の嫌な予感は見事に的中した。白坂中学校はよくいう「お嬢様学校」だったのだ。周りにいる女の子達は、当たり前のようにアクセサリーを付け、おしゃれな小物を持って、優雅に笑っていた。千歳はそんなものは一つも持っていない。生きてきた世界が違うのはバレバレだ。

 肌の色も白く髪の毛の色も薄茶色だったりと、まるでモデルのようだった。目の色が違う外国人までいて、全員がお化粧をしていた。

 さらに千歳のクラスメイトは、小学校から友達同士だったという生徒がほとんどだった。それぞれ数人のグループが出来ていて、楽しそうにおしゃべりをしている。千歳はもちろん、どこのグループにも入っていない。学校生活が始まってから友達がいないのは千歳だけだった。

 千歳はもともと大人しい性格だったので、自分から声をかけることもできなかった。田舎にいた時も、でしゃばったり、リーダーになったりすることはなかった。誰かが話しかけてくれるまで、黙って教室の角に座っているしかない。

 千歳は完全にういた存在になってしまった。みんなからどんな目で見られているか、毎日怖かった。

 一人で椅子に座りながら、千歳は田舎で暮らしていた時のことを思い出した。学校に行くと、必ず誰かが千歳に話しかけてくれた。そして笑い合う。先生もまるで友達のように気軽に挨拶してくる。

 休み時間になれば、たくさんの友達と好きな話をし、放課後は虫捕りに出かけたりした。雨の日はお裁縫を先生に教わったり、本を読んだりしてのんびりと過ごす。

 みんな、暖かくて優しくて……、まるで家族のようだった。

 しかし都会は全く違う。仲がよくない人とは、一切話をしない。氷の壁で仕切られているのだ。みんなが他人のことを疑い、勝手に相手のことを「悪者」のように思い込み、本当はただ仲良くなりたいだけなのに信用してくれない。頭の中がそういう考えになってしまうのだ。

 これでは誰とも付き合えないではないか。特に、千歳のように引っ込み思案な性格の人だったら、完全に孤立してしまう。独りきりになってしまう。みんな千歳のことなど気にせず、自分だけが楽しければいいと思っているのだ。

 

 やっぱり、都会になんて来なければよかった……。

 

 千歳は何度も思った。確かに都会は便利なものでいっぱいだ。しかし、人間は冷たい。だったら、田舎の方がずっといい。狭苦しいビルの間よりも大自然に囲まれた場所の方が、千歳には合うのだ。

 

 いったい自分はこの世界で生きていけるのか……。


 千歳は憂鬱な日々を過ごした。

 

 

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