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二十七話

 朝食が終わり部屋に戻ると、突然明子の目つきが変わった。

「貴広、あの子と、何話してたのよ」

 疑っている口調だ。またか、と貴広は気分が悪くなった。

「別に何でもないよ。この田舎には緑がたくさんあって素晴らしいとか、そういう話だよ」

「何でもない?」

 明子は貴広を睨みつけ、噛み付くように聞いた。

「そんな言葉で、あたしが納得するとでも思ってるの?」

 貴広はうんざりし、目を逸らしていつもの台詞を言った。

「何でお前は、僕のことをいちいち聞いてくるんだ。僕のことを監視して、何が楽しいんだよ」

「恋人なんだから、相手のことを知りたいのは当たり前でしょ」

「でも、明子は異常だよ。どうしてそんなにしつこいんだ」

 明子は目を吊り上げ、声を低くした。

「だって、あんたが絵を描きたいなんて言い出すから」

 貴広は明子を睨んだ。明子も負けじと睨み返す。

「僕が絵を描いちゃだめなのか」

「そんなこと言ってないわ」

「じゃあ、どうして……」

 貴広を遮り、明子は言った。

「絵を描くなんて、時間の無駄だって言ってるの。自然が好きで、大自然の素晴らしさを自分の手で描いてみたいとか、馬鹿じゃないの?」

「時間の無駄じゃない。僕はただ、自然の素晴らしさを……」

 またしても明子は貴広の言葉を遮った。

「じゃあ聞くけど、絵を描いたらどうするの?売るの?個展でも開くとか思ってるの?」

 貴広は少し黙ったが、すぐに答えた。

「売るつもりはない。個展だって開かない」

「じゃあ、絵を描いたって時間の無駄じゃない。だいたい、あんたが絵を描いたって誰も見ないわよ。絵なんか習ったことないんでしょ。絵の才能もないド素人が描いた絵なんか、魅力も何もないわよ」

 答えが見つからず、貴広は悔しい思いでいっぱいになった。

「……別に、誰かに見てもらいたくて描くんじゃない。自然が好きだっていう想いを、絵で表わしたいんだ」

 明子は馬鹿にしたように笑い、話した。

「そんなことしてる暇があったら、さっさとあたしたち、結婚しちゃいましょ」

 貴広は俯いた。いつもこうだ。明子は、貴広との婚約を願っているのだ。なぜこんなにも結婚にこだわるのだろうか。

「絵なんか描かないで、結婚した方がずっといいわよ。ねえ、結婚しましょ」

 貴広はうなり声を出し、低い声を出した。

「結婚はまだ待ってくれよ。結婚は、そんなに簡単にできるものじゃないだろ。それに、大学を卒業してからでもいいじゃないか」

 明子は鋭い目で貴広を見た。

「大学を卒業してから?遅すぎよ。さっさと結婚しちゃいましょ。早く結婚して、あたしのことを護ってよ」

「もちろん、お前のことは護るよ。今だって、彼氏として護ってるじゃないか。まだ卒業までに二年間ある。たった二年間、待てないのか」

 貴広の言葉に、明子は金切り声を出した。

「だめよ。早く結婚してよ。あたしと常に一緒にいてほしいの」

「どうしてそんなに早く結婚がしたいんだよ」

 そう言ってから、貴広はあることに気が付いた。大学生活のことだ。

「もし結婚したら、大学はどうするんだ。辞めるのか」

 貴広の質問に、明子は一瞬口を閉ざした。しかしすぐに声を出した。

「辞めるわよ。とにかく、あたしのことを護って。あたしの側にいて。この田舎から帰ったら、即結婚式を挙げるわよ。わかったわね」

「待ってくれよ。僕のことも考えてくれ」

 貴広は頭を下げたが、明子は目を逸らした。

「彼女を護るのが、彼氏の役目なの。あたしのいうことにどうして賛同してくれないの?恋人同士なんだから、結婚するのは当然でしょ」

 命令口調で言った明子の顔を見つめ、貴広は鋭く睨みつけた。

「何睨んでんのよ」

 馬鹿にするように言った明子に、貴広は力強く言い切った。

「僕は、お前のことを恋人だと思ったことはない。お前のことを好きだと思ったことは、一度もないんだ」

 しかし明子は無視をし、確認するようにもう一度言った。

「この田舎から帰ったら、即結婚だから。わかったわね」

 項垂れた貴広を残し、明子は部屋から出て行った。


 

 


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