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十四話

 「あたし、学校行きたくない」

 だめ元で千歳は母に言ってみた。絶対に聞き入れてくれるわけないとあきらめていた。だが言ってみた。

 母は目を大きくし、首を傾げた。

「どうして学校に行きたくないの?」

 千歳は母の答えが予想していたものではなかったので、少し驚いた。すぐに、そんなことは絶対にだめ。きちんと学校に行きなさいと言われると思っていた。

 千歳はすぐに答えた。心の中の気持ちを言葉にした。

「……勉強が嫌だってことじゃないの……」

 母に何か言われるのではないかと思ったが、母は黙ったまま千歳を見つめているだけだった。

 千歳はもう少し声を大きくした。

「友達が、突然話しかけてくれなくなって……」

 そう言ってため息をついた。「いじめ」という言葉は使わないようにした。母がどう捉えるかわからなかった。

 母もため息をついた。そして目の端を吊り上げた。

「千歳は、友達がいないと学校に行けないの?」

 強い口調だった。しかしこうして責められるようなことには、もう慣れてしまった。

「そういうことじゃない」

 自分でも驚くほど冷静に答えられた。さらに千歳は続けた。

「友達が急に話しかけてくれなくなったの。あたしから話しかけても目も合わせてくれない。透明人間扱いされてるの。どうしていきなりこんなことになったのかわからなくて、悩んでるの」

 そう言ってから千歳は付け加えた。

「だから学校に行っても、全然授業に集中できないの」

 母は話を聞きながら、千歳の体を眺めるようにして見ていた。頭のてっぺんから足のつま先まで、ゆっくりと目を動かす。

 何と答えてくるかわからず、千歳は小さく震えていた。それを母に気付かれないように身を固くしていた。

 突然母が口を開けた。千歳の緊張がさらに増した。

「友達がいなくても勉強できるでしょ。透明人間扱いされるのが何だって言うの?むしろ誰とも付き合わない方が勉強時間が増えていいじゃない」

 千歳はきっと睨んだ。ずっと思っていたことをぶつけることにした。

「お母さんって、本当に子ども思いじゃないよね。自分のことばっかり。自分が恥ずかしい思いをしたくないからってことで無理矢理あたしに勉強しろって言う。何でいつもそうなの?あたしが学校で一人ぼっちで寂しい思いをしててもどうでもいいの?あたしの気持ちとか考えたことある?」

 一気に捲くし立てると、突然母が立ち上がった。そして千歳を見下ろした。

「一人ぼっちで寂しい?あなたもう中学生なのよ。そんな幼稚園児みたいなこと言って馬鹿みたい」

「あたしのこと可哀想だとか思わないんだ」

 すぐに言い返した。そしてきつく睨む。

 母は面倒くさそうにため息をついた。

「昔から言ってるでしょ。あなたのことなんかどうでもいいって。千歳がどんなことを思っているかなんて知ったこっちゃないわ」

 そして話を締めくくろうとする母に、千歳はさらに言葉を投げつけた。

「子どもを可愛がれないなんて母親失格だよ。可哀想だね。立派な母親になれなくて。みんな思ってるよ」

 千歳の言葉に、母は顔を少し赤くした。怒りの炎がふつふつと沸いているようだった。

「母親失格?私が?」

「そうだよ。周りの人たち、みんな、ああ金城百合子さんは子どもが可愛がれないんだ。母親失格だなって思ってるよ。可哀想な人だなって思ってるよ」

「何ですって」

 母の顔が真っ赤になっていく。千歳はくるりと後ろを振り返り、そのまま走って自室に入った。はあはあと息が荒くなっている。

 千歳はベッドの上に横たわった。もう何もかもが嫌になった。力が少しずつ抜けていくようだった。


 


 

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