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十話

 学年が上がり千歳たちは二年生になった。それぞれクラスが違ってしまったが、四人の絆は繋がっていた。お弁当も今まで通り四人で食べ、学校帰りも同じく四人で帰った。一年生の時と全く同じだ。千歳は安心して学校生活を送れた。

 何もかもがうまくいっていた。自分が田舎育ちだということをだんだん感じなくなっていた。千歳にとって梨紗たちは女神だった。

「今日帰りカラオケ寄っていこうよ!」

 梨紗たちと出会えなかったら、こんな言葉を自分から言うことは絶対にできなかった。


 そうして楽しい日々を過ごしていた千歳の前に、突然不思議な子が現れた。千歳の後を、まるでストーカーのように追いかけてくるのだ。男子ではなかったので安心はしていたが、何日も続くと嫌な気分になった。

「千歳、最近元気ないね」

 香央理に言われ、千歳は気分を悪くさせていることを話した。

「なにそれ。ストーカー?」

 全員驚いたように目を丸くした。そして千歳を励ますように声をかけた。

「そんなこと気にしなくていいよ」

「もしそいつの正体がわかったら、私たちが倒してやるから」

「千歳のことを苦しめるなんて許せない」

 三人の言葉に、千歳は感激した。こんなことを言ってくれるのは、この三人だけだ。

「みんな、ありがとう」

 そう言って千歳は微笑んだ。


 梨紗たちに話をしてから、その少女は千歳が一人きりでいる時にだけ現れるようになった。どうやら千歳が三人に言ったことに気付いたようだ。いったい何のために千歳を追うのか。毎日不安で仕方がなかった。まだ追われていることは三人には話さなかった。迷惑をかけたくなかったからだ。これがいつまで続くのかと思うと気が重くなった。


 しかし長く続くと思っていた不安はすぐに消えた。ストーカー少女が目の前に姿を表わしたのだ。

 授業が終わり千歳が教室を出ると、後ろから肩を叩かれた。千歳は梨紗だと思い振り返った。だがそこにいたのは梨紗ではなかった。

 顔も名前も知らない女子が千歳を見つめていた。ショートヘアーで背も小さく、暗い印象の子だった。

 千歳の顔を見ると、その子は口を開いた。

「……金城さんですよね……?」

 かなり緊張しているようだった。気が弱いのがすぐにわかった。

 千歳は答えなかった。正体不明の人間と会話をすることはできなかった。

 女子は深呼吸をするように息を吐き、もう一度言った。

「金城さんは、青木梨紗と友達なんですよね?」

 同じように何も言わず黙っていると、女子は辺りをきょろきょろと見回し、誰も聞いていないということを確かめてから、低い声で言った。

「青木梨紗と、早く別れてください」

「は?」

 千歳は首を傾げた。どういう意味だろうか。

「どうしてそんなことを言うの?」

 千歳が言うと、女子は怯えるような目をした。

「青木梨紗は、いじめ女王です。最低最悪の、いじめ女なんです」

 千歳は驚き、目を見開いた。

「梨紗がいじめ女王?」

 そう言うと、女子は深く頷いた。

「私の名前は入江いりえみなみです。梨紗と香央理と円の、幼稚園からの幼なじみです」

 みなみは真剣な目で千歳を見つめた。

「小学三年生までは、ずっと仲良し四人組だったんです。勉強をするのも一緒。遊ぶのも一緒。私にとって、最高の幼なじみでした」

 千歳は自分も同じ立場だと思った。何をするのも四人一緒だ。みなみが最高というのもわかる。

「だけど四年生になってから、いきなり無視されるようになって……。どうして無視をするのって聞いたら、あんたみたいな馬鹿な奴は私たちにはいらないって言われて。嫌がらせされたり、自分がやってしまったことを私になすりつけたり、私のプライベートなこと、例えば0点のテストとか黒板に貼ってみんなにばらすとか、そういうことをされたんです」

 みなみの言っていることが千歳には理解できなかった。梨紗たちがそんなことをするなんて考えられなかった。

「だから……、金城さんも同じことをさせられるんじゃないかって心配で……」

 千歳はいらいらしていた。この女は何を言っているのか。

「あんた、誰かと間違えてるんじゃないの?」

 みなみは驚いて目を大きくした。こんなことを言われるとは思っていなかったようだ。

「馬鹿じゃないの?梨紗たちがいじめなんてするわけないじゃない。言ってることの意味がわかんないんだけど」

 みなみは固まったままだ。千歳はさらに続けて言った。

「梨紗はね、都会についていけなくてずっと一人きりだったあたしを救ってくれた女神なの。いじめなんて絶対にしないよ。神に誓ったっていい」

「それなんです」

 ずっと黙っていたみなみが突然口を開いた。

「そこが、梨紗たちのいじめの特徴なんです。友達がいなくて寂しい子に優しいことを言ってだんだん近付いて、いきなり裏切るんです。誰だって寂しい時に声をかけてほしいでしょう。そういう子を狙って近寄るんです」

 千歳の怒りが増した。無意識に声が大きくなった。

「じゃあ、梨紗たちがあんたをいじめたっていう証拠を見せてよ」

 みなみは動揺した。どうすればいいのかわからないという顔だ。

 千歳は腰に手をやり、胸を張った。

「勝手に妄想して、自分は悲劇のヒロインだって思われたいだけなんでしょ。梨紗たちのことを悪くいうあんたの方が性格が悪いじゃない」

「ち……違う……」

 掠れるような声でみなみは言った。体が小刻みに震えている。

「本当なんです。信じてください。梨紗たちの餌食になる前に、逃げてください。そうしないとひどい目に遭う……」

 言いかけて、みなみは突然目を大きくした。震えていた体も硬直した。

 千歳はみなみが見つめている方に目をやった。遠くで、無表情の梨紗がみなみを見つめていた。

「……わ……わかった……」

 冷や汗を流し、みなみは震える声を出した。

「金城さんが梨紗と付き合いたいならそうすればいいです。でも、梨紗がいじめ女王だってことは本当のことですから」

 そう言って大急ぎで逃げた。

 千歳はみなみが走って行った方を見つめ、今聞いたことを思い出した。

 梨紗はいじめ女王。

 一人きりの友達がいない子に、優しいことを言い、だんだん近付いていじめる。

 

 梨紗たちの餌食になる前に逃げて……。


「馬鹿みたい」

 千歳が独り言を言うのと同時に、梨紗が声をかけてきた。

「ねえ、今、二人で何の話をしてたの?」

 そしていつものように柔らかく笑う。

 どう考えても梨紗がいじめ女王だなんて思えない。

「何かくだらないこと聞かされてたの。すごい気分悪い」

 千歳の言葉を聞き、梨紗は何も言わず、ただ笑っていただけだった。



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