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雨中

作者: 綾取り

 雨が降っている。

 暗澹とした道を静かに歩いていると、雨脚(うきゃく)の変化が傘に響く音に依って耳に伝えられる。黒ばんだ空はせっせと雨を止ませまいとしている様に見える。

 コツ、コツ。

 濡れ切った地瀝青(ちれきせい)を踏む靴音は一定のリズムを刻み続け、時折別の靴音が(わき)を通過する。

 この天候には珍しく、風は弱く、その為に一瞬も歩が休まる事は無い。その足は何処(どこ)に行くかも告げずに、ただ先へ進んでいる。

「……あ」

 不意に喉が声を出す。大きめの傘に隠されて見えないその顔は、図らず南の空の方向へと向けられる。

 ひとつ間を置くと、地が咆哮したかの様な轟々なる雷鳴が、然し優しく耳朶(じだ)を触れた。

「……」

 それを味わう様に聞き終えると、また直ぐにその顔は進行方向へ直り、足は先程までと同じ歩速で前へ進み始めた。断続的に水溜まりへ広がる波紋、無作為に降る雨、気紛(きまぐ)れに暗雲へ爛々を送る稲妻たちは、その歩く様よりも長い型の連続を成しているだけなのかもしれない。

 そんな瑣末な事など考えていないであろうその歩みは、雨の様に止む事を知らず、満足するまで続くのだろう。

 ()り始めた視界は、それでも先を映し出している。

 本格的に大降りへ移り変わった天候は、まるで歩速の一定を阻害する思惑を持っている様だ。

 コツ、コツ。

 それでも未だ変わる事は無い。歩速も、雨脚も。変わったと言うならば、不変を保つ傘の中の顔が少し微笑を含んだぐらいであった。

 雨は騒然に粛然と降り、終わりは倏然(しゅくぜん)に来る。傘を持ったその影も、間も無く雨中に埋もれるかの如く倏忽(しゅっこつ)にして消えた。



「あそこは雨の日に出るんだって。妙齢な西洋の女性みたいな姿らしいんだけど、その正体は雨の神様とかなんとか――」


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