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虚史   作者: 田中 平八
時代との邂逅
7/13

[万刀流殺戮事件]  虚偽への思想

【1】 序幕

  時代は戦争が時代のないものの治安が決していいとはいえない時代の日本。

 そのころはまだ、忍術やら陰陽術やらの技術がまだ残っていた。

 そんな奇妙な時代において珍妙な事柄が罵玖都に起こっていた。

 まず、気温が一気に下がりそして各地から有力大名や陰陽師や侍。果ては忍者までが集まっている。

 そしてそんな異常事態に呼応するように不揃いな二人組みが今罵玖都に向かおうとしていた。


 二人組みは真夏にふさわしい薄着の浴衣姿の子供と二十歳前の青年だ。しかし、青年とは言ったが色無地を着ているものの顔立ちは女に近いような者だった。

 また、浴衣の子供は体格からすれば扱うのが困難な気がする太刀を背負っているし、もう一人の男の色無地にはここいらでは見かけない家紋が描かれている。

 太刀を担いでいる少年侍は「うう~さぶぃーなんで罵玖都ってとこは八月の下旬だってのにこんな寒いんだ?」と震えながら言い、「ほんとに寒い。罵玖都に近づくほどにどんどん寒くなってくる」一緒に旅をしている者に尋ねている。

 一拍おいて、そのもう一人は「知らん」と冷たくあしらう。

 二人はどうもかみ合っていない。それは会話だけでなく、雰囲気もあっていない。

 少年がやんちゃ坊主のようであるのに対し、一緒に旅しているもう一人はどちらかというと、物静かでありおしとやかな人間という感じである。

 見ただけで貧富の差が着物一つにしても、青年の方が遥かに高い事が分かる。

 彼らは『ある大儀』のために故郷から遠く離れた罵玖都に向かって旅をしているところであった。

 旅をしているといっても彼らは都に入る直前で門から少し離れた木陰で「(せみ)」という仲間が帰ってくるのを待っているところであった。


 

 しかし今回の主人公はまだ彼らではないのだ。



 彼らはある目的のため各地に飛び回り仲間を集める旅をしていたのであった。そのためにこの国でも指折りの大都市である罵玖都に来たのであった。

 しかし、その予定は初っ端から「後れを取る」という形で失敗するのであった。


 そう。彼らは後に知ることになるのだが、罵玖都で仲間にする予定であった、『万刀流(ばんとうりゅう)心剣術』の刀塚(かたなづか)は彼らが来る前夜に党首一人を残して滅ぼされていたのだから……。




【2】 会合


 二人組みが仲間を待っている場所から少し離れた都の中心部、そしてその二人組みが待ちくたびれてからしばらくたった頃。

 「で、今回の非常事態に対応するために対策本部が『嗣乃組』の本家に設置された訳ですが、今回の事件はどんな大物が絡んでいるんでしょうねぇ?」真治は町の大名に今回の事件の応援に送られた仲間の隆一に嗣乃組本家の門前で手続きを受けている最中陽気に尋ねる。

 しかし、隆一は「黙れ」と注意を促すように小声で答えるだけで全く仲間と態度が違う。

 真治が不満そうな顔をしているので「今回の会合は事が事だけに来る者が色んなとこからお偉いさんが来ている」と説明をし始める。

 「あいつらは基本的に他人を馬鹿にすることを生きがいにしている節がある」

 「?別に馬鹿にされるくらいいいじゃないですか。俺なんかしょっちゅう馬鹿にされってっから慣れちまったぜ」

 「ハア」と隆一はため息をつき「あいつらは一度馬鹿にしたやつのことはずっと馬鹿にする。で、今回来るやつらに馬鹿にされると今後の活動に支障が来る」

 「あー。ほんで一緒にいる俺が馬鹿にされたらあんたも馬鹿にされると。ほんでこんな所で騒いで欲しくはないと」と言い「ん?」と真治は首を傾げる。

 「どうした?」隆一が尋ねる。

 「いや、別に」と言い、(「結局自分の保身のことしか考えてないのかい」とは言わんほうが良いな)などと考えながら門をくぐる。

 

 確かに会合には各国大名やら隠殺頭拾参連隊(おんさつがしらじゅうさんれんたい)や星七剣衆(せいななけんしゅう)などのトップの面が並んでいる。と言っても隠殺頭拾参連隊の席に座っているのは只の替え玉なんだろうが。

 隆一たちが席についてからしばらくすると、今回の議長役の奏流丸とかいうふざけた名前の陰陽師が出てきた。

 「8割の出席者が確認されましたので、これより会合は始めます」と議長が言う。だが、全員集まっていないことに対して、文句を他の出席者たちが言う。

 「ヴァン!」とデカイ音が鳴る。隆一達が音のした方向を見ると男が自分の前の机を大破させていた。

 「議長が始めるつったんだ!一々口答えしてんじゃねぇ」机を対はさせた男は有無を言わさない怒鳴り声で言う。そして「そもそもこんな事態は前代未聞だ。今まで通りにやっていていいはずがないだろうが」と続ける。

 他の者達は何も言わない。もともと、廃れている陰陽師が議長をやっていることに対して不満を持っているだけであって、文句を言っていた者達はみな他のものを待とうとなど考えていないのだ。

 なぜならば年に四回だけ集まる会合はいつも大して話すこともなく、会合の召集率は極めて低いのだ。だから8割という、物事を決定する多数決に必要な人数が集まったことだけで奇跡なのだ。

 よって、その集まった者達も殆どが物見遊山で集まってきており、今回の事件に関して言えることなど全くないような者達なのだ。

 「誰ですか?あのぶち切れた人は?」真治は小声で、前回の会合に出席していた隆一に尋ねる。

 「おそらく今回殺された万刀流の党首だろう。聞いた話では、党首が外回りに出ていたときにやられた様で生き残ったのは党首とその取り巻きだけらしいからな」と隆一は推測を立てる。隆一自身万刀流の党首のことはよく知らないのだ。





【3】  議会


 話し合いは始まって暫くするまで、各国大名が他人の発言を否定することで自己満足を満たすと言う間抜けな事をしており、話がいっこうにす進んでいなかった。

 「隆一殿!いつまで黙っておられるつもりか!こんなことができるのは世界広といえども数人にすぎんでしょう」小声で真治は囁く。

 「ん。しかしこの中にも今回の事件に関する知識を持っている者が何人かいるはずだが誰もまともな話をしない」

 「ということは知っていることがあるにはあるが情報元が簡単に言える物ではないから、最初に関連事情を話さない。ということですね」真治は悟ったように言う。「最初に発言しようものなら出所を尋ねられる。しかし、話がある程度進めば話に信憑性さえあれば情報元はあまり重要とされない」と話を締めくくる。

 しかし、隆一は「いや、そういうことではなく」と真治の考えを否定する。

 「おそらく奴等は推測だけで話す輩を否定して自分の意見を出すことで目立つことを考えているんだろう」と蔑む様な目つきで言う。

 「ああ、その方が良い世間体を保てますもんね。それじゃあ」と真治は言い、「もう少し発言は控えたほうが良いですね」と喋ろうとするが、すぐに口を紡ぐ。

 「それでは僕が話すと言うのはどうでしょう。僕は所詮補佐役と言う形ですし、多少的外れな発言をしても大して突付かれないんじゃないですか?」と真治は妙に冴えたことを言う。

 隆一は無言で頷く。


 真治は手短に轟忍軍の話をする。

 大人数が納得するので、真治はやはりあいつが、つまり氷柱(つらら)が今回の当事者ではないかと考え始めていた。

 しかし、当初の予想通り真治達の予測を裏切る情報が続出した。


 それは勿論犯人は氷柱ではないという事実を示唆するものであった。

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