[万刀流殺戮事件] 矛先
久々のアップ。じぶんのなかでは[万刀流殺戮事件]編は少し長すぎる節があるので今回の話は出来るだけ話を進ませる事を意識して作りました。
どうぞご覧ください。
【1】 内通者の存在
嗣乃組所属陰陽師の子供の・・・休兵衛の話を聞くと、どうやら忍者らしき人間が村の中に入ってきたらしい。
はっきり言って、「だからなんなんだ」という感じだ。
確かに忍者なんてものはめったに目にするものではないし、はしゃぐのは判るしかし、今回の事件と直接の関係はないであろう。
それに、一瞬聞こえた『セミ』という言葉だが、タダ単にセミの柄の入った浴衣を着ていただけだった。
それらの事を聞いた上で真治は再び、捜査を続ける。
今日は諸臥 朧という陰陽師が捜査に協力してくれるという事で、内心真治は安心していた。
彼との捜査が自分自身の破滅への導きになるとは知る由もなく…。
【2】 疑惑
先日の『万刀流殺戮事件』から嗣乃組陰陽師の捜査を隆一に任された真治は嫌々ながらも、何も見えてこない。何の目的も見えない捜査をしていた。
朧は先日初めて喋った仲ではあるのだが、これからいつでも時間が取れれば自分の捜査に参加してくれるという話になり、今日から一緒に捜査をする事になった。
ところが、真治自身にはこれからずっと彼と一緒に捜査する気は無かった。
彼との捜査で何も情報が引き出せない場合はそろそろ引き返そうと考えていた。
真治には無駄に時間を浪費するような真似をする気は無かった。
「んー。なんというかソレは何かの見間違いではないんですか?」
と言ったのは、前述した朧。
真治なりの朧の印象としては、目が細く思慮深い。大体そんな感じだった。
服装も陰陽師としては単純なデザインで、殆ど目立つような点がない。
しいて言えばあまり大人数で群れたがらないところだろうか。
「そんなに疑わしいのか?この話は」
「ええ。この村には何十年も前に起きた大戦から本拠地を守ろうとして創った結界網があり、そう簡単に入れるものではありません」
「お前が言うのだからぁやはり、忍者が潜入した可能性は極めて低いようだな」
陰陽師の子供の話ならまだしもこの男の話は9割程度事実なのだろう。ただ一つ忍者が入っているかどうかについての推測に関して以外は。
あの子供の話は理にかなっていた。妙に詳しく、なおかつ追尾中どんな心境だったかも言っており、嘘ではない。
そしてその詳細さから、勘違いなどではないのだろう。
しかしながら、朧の言った結界のくだりも事実なのだろう。
ならば、そこには不確定要素が入るべきであろう。
つまり、『何十年も前に創られた結界である』という事実から来る…風化というものだ。
真治がそう思い切れなかったのはハッキリ言って形のないものに風化があるのかどうかは判らないからだ。
「その結界はどれ位の頻度で調整やら修復をしているのだ?」
「ん?どうしてそんな事を聞くんだ?」
「まぁいい。その結界に関する作業の指示は隠居と呼ばれている嗣乃組上層部がやっている」
朧は真治の質問に嗣乃組なら誰もが知っている程度の説明を済ました。
その程度でも真治にとっては、隆一の土産話程度にはなる。
【3】 発端
「朧。お前はこの組の中で怪しい輩に心当たりはあるか?」
万刀流の屋敷周辺を捜索している間に真治はそんな質問を彼にした。
しかし、返ってきた返事はあくまでも、同じ組の陰陽師としての形式的な返事だけであった。
朧とは専ら集めた情報について討議する関係であった。そのため、朧自身からの情報は期待していないのでソレについてはなんともなかった。
しかし流石に、真治も嗣乃組に来てから暫く経ち、聞き込みは最初と比べるとかなりし易くなっていた。
その中で最近わかったのはどうやらここの陰陽師どもは親戚などで構成されている訳ではない。ということであった。
元来陰陽術に限らず、『人外の技』は親子などで受け継がれる事は無いらしい。
全ては突発的に発生するというのだ。
よって、各地から優秀な人間を集めているというのだ。
最初にその事を知った真治はよくこれだけ集めたなと思ったものだが、考えても見れば人というのは自分とは違う者を排除しようとするものである。
そしてそれは、触らずに物を動かしてり、予言をしてみたりはたまた『見えないはずのもの』を見えるという人間であれば尚更である。
そんな排除される存在である彼らにとっては、自分と似たような境遇を持った者達が多く集まっているこのような集団を知れば、逆にむこうのほうからくる事すらあるかもしれない。
であれば、さして集める事は難しくない。『来る者拒まず』体制でいればいいのだ。
しかし、機密性の高いこの陰陽師においては、流石に外から来る陰陽師全てを信じて全て話す訳にはいかない。
よって、服で区別しているというのだ。といってもずっと区別する服を着るのではなく、何年か経った後に別の服を着るようになるのだというのだが。
そこで真治は妙に納得したものだった。確かに、真治の記憶の中でも話しかけた場合大概の者が一言二言言うものなのに、何も話さない者が何人かいたのだ。
そしてそのものたちの着ていた服というのが、黄色を基調とした袴だったのである。
そこで、疑問に思ったのが、あの栓堂彼方という男である。
あの男はかなりの厚着であった。そしてその服は黄色を中心にしていたのだ。分家からの出と聞いていたにもかかわらずなぜ余所者の記しでもある黄色い布を着用しているのか。
それが真治には疑問だった。
「ということはあの男の中には他の者にあるような、嗣乃組に対する愛着は無いという事か」
朧から聞いた話ではどうやら、栓堂という男は他の小さな陰陽師の組から来たようだった。
ただ、高名な術師であるため、実際には黄色ではなく一般の術師等が着用している白の袴を着用する許可があるそうなのだが、なぜか黄色を主体とした直垂を着ているらしい。
ソレを聞いた真治はどうしても栓堂が怪しく思えたのだった。
【4】 突入
「本当に止めておいた方がいい。今回の件は今までの危険の危険な遊びの感覚では本当に死ぬぞ」
「おい。聞いているのか休兵衛」
陀手朗は今回の『万刀流殺戮事件』に対して休兵衛に再三自重を促していたが、なかなか休兵衛は止めようとしていなかった。
「判っているよ危ない事はしない。それに死ぬんならあのうちの組で調べている、あの勘定奉行の役人の方だろ?」
「危ない事はしないって、万刀流跡で言う台詞じゃないだろぉ」
そう。彼らは今万刀流跡にて術の痕跡について調べている。
しかし、近くに陰陽師の居住区があるため、万全を尽くすとはいえ、何一つとして見つかるものは無かった。
休兵衛と陀手朗達よりもずっと精度の高い術を施す陰陽師たちでさえ、事件に関わる『証拠』となるものを見つけられなかったのだから、彼らに何かを見つけられるはずなど無いのだが…。
「口で無く手を動かせ、絶対に何か証拠となるものがあるはずなんだ。全く証拠となるものが無いという事は、逆に証拠を隠滅した形跡が残っているはずなんだ」
はぁーと溜息をつく陀手朗。ブツブツと「それでも内の陰陽師の調査に使った術の痕跡しか見つからないんだよなぁー」などと来る前から判っていた事を休兵衛に聞こえるようにぼやく。
そもそも、休兵衛は先日忍者を見たので調子に乗っているだけなんだ。なのになんで俺まで巻き込まれないといけないんだ?休兵衛にはああいうことを言っておいたが、実際はかなりめんどくさいのだ。
大体うち等の上層部でさえ今回の件に対しての調査には消極的なんだ。
だから、結果を残したところで誰からも評価などされないのだ喜ぶのは、あの役人くらいだ。
それはもう、大喜びだろう。
自分がそんな事を考えながら、だらだらと見つかりそうに無い『痕跡』を探していると、噂をすればなんとやらとは良く言ったもので、あの役人が着た。
「おや、あなたは勘定奉行の御役人ではありませんかぁ。どうしました?お帰りですか」
あいつ…。明らかに機嫌が悪そうだ。
やはり、外から着ておいて我が物顔で屋敷を歩き回っているのが、他所から来た休兵衛には許されないんだろう。
それに又聞きではあるが、あの男は前四人で話していたとある忍者の話をアイツはよく聞きもせづに否定するような事を言っていたというのだ。
そもそも、役人という大名の下についている時点でたかが知れている。
あの役人が今から帰りという事は無いだろうが…。
そもそもアイツ…何しに来たんだ?
真治が口にした言葉は、真治を好ましく思っていなかった二人にとって、思ってもいない言動であった。
ソレは、「お前が見たという、忍者の話を聞かせてくれないか」というものだった。
いかがでしたでしょうか?
多分この次で[万刀流殺戮事件]編は終わると思います。
誰が犯人なのか。そして今回の事件の背景にある事実とは・・・。
ということを考えて次のを書きます。