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虚史   作者: 田中 平八
時代との邂逅
11/13

[駈絽崎  瑠鵬伝]  開幕の明朝

 今回の話は[万刀流殺戮事件]前にあった一連の動き的なものが描かれています。

 この話の後からあの四人が本編に再び関係し始める予定です。

 どうぞ。

【0】  情勢


 

 昔大戦があった。

 複数の大名と星七剣衆せいななけんしゅうそして隠殺頭拾参連隊おんさつがしらじゅうさんれんたい達の活躍により、多くの良民を犠牲にしたもののなんとか体制側の勝利となった。

 今でも大名が「法」であるのはその名残である。

 しかし、時代は流れてゆき人々は次第に大名や星七剣衆の存在意義を忘れてゆく。

 そして隠殺頭拾三連隊に至っては御伽噺か何かだと考えるようになっていた。

 人々から『危険意識』が消えた。今奴らが動き出す……。


 大名の命を実行するための侍の組織、星七剣衆の一角の万刀流殺戮事件の人間達が党首不在の隙に皆殺しに遭ったという事件は、戦争を知っている世代を殆ど失った大衆に戦争に対する恐怖を思い出させるきっかけにはなった。

 しかし、ただそれだけであった。

 人々の中にその『戦争に対する恐怖』のその先にある『黒幕』に気付くものはいなかった。

 

 

 


【1】  疑惑の影


 

 物語は万刀流殺戮事件が発生する数日前から始まる。

 

 嗣乃組の若き当主、平等丸は今日も新たなる陰陽術を考案するべく、書斎に向かっていた。 

 という事はなく、実際は日記を書いていた。

 しかも日記には、懺悔丸・陀手朗・休兵衛の三人にどのように苛められたなどという、くだらないというか、情けないというかという内容だった。

 本人も最近その深刻さに気付いた様で…。

 んー。流石にこのままこの日記を書き続けても余り意味がないよなぁ。

 元々この日記には日々の失敗を忘れることなく、反省するために書いているんだから。

 ……。しかし、今日の感想については本当にこの程度なんだよな。

 いっそのこと先のことを書いてみるか。

 などと、平等丸がそんなくだらない事をしていた間、とある三人組が『万刀流』と会談を行うために旅をしていた。

 その中でも『蝉』には一緒に旅をしている雇い主のために先に万刀流に向かっていた。

 「ふっうー」と休兵衛は背伸びをしながら最近の近況について考える。

 それは別に深い理由があったからではなく、タダ単に暇だったからだ。

 しかし、ソレ事態は十分暇つぶしにはなる。

 実際、最近休兵衛達の住んでいる嗣乃村には妖怪の出る頻度が異様に高い。

 勿論この村は妖気がたまりやすい地脈で他と比べて妖怪の出没率はダントツだ。

 陰陽師の組合である嗣乃組がここに居を構えているのはそういった理由がある。

 しかし、だ。それにしても今年から始まった妖怪の大量発生は異常というほか無い。

 隠居や先輩達でなくても、何かとてつもなく大きな災厄の兆しではないかと思える程に…。

 「ん?何処だここ」

 休兵衛は考え事をしているうちに、人どうりの少ない通りに出てしまった。

 普段住んでいる町とはいえ、好き好んでいくような場所ではない、町の端っこだ。

 そのため、休兵衛は引き返そうとした。

 ところが…。

 「しゅった」という音と共に町人風の服装の男が着地した。

 休兵衛は全く人の気配を感じていなかったため、かなり高いところから着地したと推測し身震いする。

 しかし、休兵衛が身震いしたのは、かなりの高さから着地した事に対してでは無い。

 休兵衛達陰陽師の中には何千里も飛び越える『跳躍の秘術』を扱う者もいるので、それ程驚きはしない。

 因みにそのような陰陽師は見るからに『偉そう』なゴテゴテの色彩感覚の悪い、金の刺繍が入った服を着ている。

 だが、しかし。

 だぁがしかし、だ。

 その男は町民のような服装をしていた。

 そう、自分のことを偽っているのだ。

 つまり、『忍者』だと。

 だからこそ、休兵衛はその男を見て、身震いしたのだ。

 『忍者』かよ!始めてみたぜ。しかも俺の見立てが正しければ間違いなく、高い経験を持っている『超』がつく忍者だ。

 休兵衛は物陰に隠れている。

 その…つまり。なんだ、『尾行』する気満々なのだ。

 休兵衛はオツムは弱いだが隠れて活動する、それこそ『隠密性』に長けている。

 普段は妖怪に気付かれないようにするための技であるが、この時休兵衛は趣味に使おうとしていた。

 妖怪とは妖気の集まりが意思を持った生命体である。

 そのため五感というより第六感の『妖気探知』で人間などを感知している。

 そして忍びも五感より第六感で探知をしている。休兵衛がそのことを理解していたかどうかは疑問であるが、『陰陽術』をここで使ったこと自体は大正解だった。

 人よりも優れている感覚を持っているものは自然その感覚神経に頼るものだ。

 よって、休兵衛の稚拙な追尾は成功する。

 しかもその忍者は隠密作戦の真っ只中であり、殺気立ってはいなかった。

 休兵衛の尾行が成功したのはいうなれば、その忍者の優秀さがアダとなった。と言うべきか…。


 言うべくもないが、その忍者は殆ど表には出ない汚れ仕事を担当する忍びの軍団隠殺頭拾参連隊おんさつがしらじゅうさんれんたいの一角昆獅子こんじし忍軍所属『セミ』であった。



【2】  獅子の男



 潜入成功。上々といったところか。

 セミはこれから尾行されるという自分の失態に気付く事もなく一人安堵する。

 嗣乃村には嗣乃組という陰陽集団がある。そこには陰陽術に限らず結界に式神、魔草調合から予知に至るまで様々な技の持ち主が集まっている。

 嗣乃村に入るには彼らの監視を潜らなければ話にならない。今回の仕事は何人にもばれる訳にはいかないのだ。

 嗣乃組の村に対する監視は多くのものが、村の四方に構えられた検問所だと言うが、それは違う。

 忍者なら誰でも知っているが、最も潜入しにくい場所として昔から嗣乃組は挙げられている。

 その理由が上空と地下に敷かれた多重結界である。

 詳しく知るすべはないが、陰陽五行全て…即ち、光・闇・樹・焔・土・金・水に対応する属性の攻撃から村を守る障壁が複数。そしてその障壁に攻撃を加えたものに対する排除系術式の罠複数。そして今回の任務において最も鬱陶しいのが様々な術を破って進入して来た者の情報を引き出す結界。

 とにかくその『絶対不干渉領域』に潜入できた時点で今回の自分の『忍者』としての仕事は十中八九成功だ。

 全く。持つべきものは仕事仲間だよな。

 セミはそのような事を考えていた。


 そしてセミは今後起こる万刀流殺戮事件の首謀者であり、今回結界が甘くなっている区域を知らせてもらった、嗣乃組の内通者と出会うのだった。



【3】   愚考転じて福と成す



 数刻ほど経ち、場所は万刀流本家近く茶屋。

 尾行していた忍者は茶屋の入り口付近の席に座っている。よく見ると相席の客と一緒になにやら話をしているようだ。

 話は聞こえない。しかしあまり近づくと話が聞こえる代わりにこちらの存在を認識されそうだ。

 流石に忍者に尾行がばれると…うん。

 妖怪より怖いよね。

 という事で自分は茶屋の前の川を一つ越えた先の馬小屋から観察する。

 内心離れすぎな気もするが茶屋が見れて気配を感じ取れない程度に離れるとこの距離になった。

 「全然見えん」そう呟きながらも、視覚増強術を使用して観察し続ける。

 一緒に話しているのがどんな奴かは、全く死人できない。

 休兵衛が愚痴をこぼしてから暫くするとセミが出てくる。

 休兵衛は慌ててしかし、ばれない様にゆっくりと近づく。

 そして茶屋に近づくと、「よぉ休兵衛」と声を掛けられた。

 尾行中なのに…と思いながら、まさかそんな事も言えず、声のするほうを見る。

 「こんなとこでお前何してんだ?っあ、わかったさてはお前ここで酒を飲むつもりだったんだろ?」

 どうだ?当たらずとも遠からずだろ?と言いそうな顔をしてくるので「急いでるんで」などという意味の言葉を、幾つか並べて忍者を追いかける。

 しかし、少ししか目を離してなかったはずなのに見失ってしまった。

 「くっそさっきの男のせいで…」しかしさっきのは誰だったんだ?同じ組の者か?



 この日彼は結局セミの動向を察知する事は幸か不幸か出来なかった。

 しかし、この事件の一端を真治が知った事によって、万刀流殺戮事件解決の大きな要因となるのだった。

 如何でしたでしょうか?

 よければ感想をお聞かせください。

 基本まめな性格でないので、何かアクションが起きないとやる気が・・・モゴモゴ。

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