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白の芸術と黄金のサモサ

第八章:白の芸術と黄金のサモサ


今夜の『赤兎馬』は、どこか異国の市場のような、スパイスとハーブの混じり合った香りに包まれていた。カウンターには、店の名の由来でもある芋焼酎『赤兎馬』の緑ラベル。ソーダで割ることで、その爽快なキレがさらに際立つ、今夜の相棒だ。


「まずはこれを、舌の上で転がしてみてくれ」


武が差し出したのは、薄くスライスされた純白の断片。

『背油香草塩漬け生ハム』、イタリアで「ラルド」と呼ばれる一品だ。


武は数ヶ月前、猟師仲間から譲り受けた質の良い豚の背脂を、ニンニク、ローズマリー、黒胡椒、そして天然の粗塩と共に、大理石の重石をかけて冷蔵庫の奥底で眠らせていた。熟成を経て、脂は角が取れ、宝石のような透明感を帯びている。

一口食べれば、体温でふわりと溶け出し、濃厚な甘みとハーブの香りが鼻を抜ける。そこへ『赤兎馬 緑』のソーダ割りを流し込む。強炭酸が脂の余韻を鮮やかに洗い流し、次の一口を誘う。


続いて運ばれてきたのは、武の畑で採れたジャガイモを使った『芋団子』だ。

茹で上げたジャガイモを熱いうちに潰し、片栗粉を加えて丁寧に練り上げる。これを円盤状に成形し、多めのバターを引いたフライパンで両面をカリッと焼き上げた。仕上げに、物々交換で手に入れた純度の高い醤油と砂糖で、香ばしく照りを付ける。

「外はカリッ、中はモチッ」とした食感。素朴ながらも力強いジャガイモの旨味に、客は思わず小さく頷く。


最後は、揚げたての『サモサ』が皿に並んだ。 中身は、先ほどのジャガイモをベースに、クミンやコリアンダーで炒めた挽肉と枝豆を混ぜ合わせたもの。これを薄い皮で三角形に包み、高温の油で一気に揚げていく。


「揚げる直前に、皮に少しだけ冷水を振るのがコツだ。そうすれば、このプツプツとした心地よい食感が生まれる」


サクッという快音と共に、中から熱々のスパイスの香りが弾ける。芋団子の和の甘みとは対照的な、刺激的な辛味。それが再び、シュワリと弾けるソーダ割りの爽快感と最高の調和を見せた。


「手間はかかるが、金はかからん。これが俺のやり方だ」


武は、ソーダの泡を見つめながら、静かに笑った。

背脂の熟成、芋の収穫、そしてスパイスの調合。

千円という価格の裏側に隠された、膨大な「時間」という贅沢。

客は、今夜もその価値を、五感すべてで噛みしめていた。

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