第2章:泥の洗礼
第2章では、生きることの残酷さと、二人の絆を描きました。
少年を抱えて歩く男の背中には、常に突き刺さるような視線が張り付いていた。
四肢のない「肉塊」のような赤ん坊。それを抱く、片腕と片足の浮浪者。街の人々にとって、それは視界に入れてはならない不浄そのものだった。
「……これ、三つ。頼む」
男はコンビニエンスストアのカウンターに、震える手で小銭を並べた。アルミ缶を数百個潰してようやく得た、血と汗の結晶だ。差し出したのは、最も安い粉ミルクの小瓶。
店主は鼻をつまみ、汚物を見る目で男を睨みつけた。
「……足りねえよ。手間賃だ、三倍だ。嫌ならよそへ行け。あ、床を汚すんじゃねえぞ」
男は怒るどころか、深く、深く頭を下げた。
「……すまねえ。これで、これで頼みます」
なけなしの金をすべて奪われ、ようやく手に入れた一本の小瓶。それをボロ布の中に隠すようにして、男は逃げるように公園の隅へと戻った。
哺乳瓶などない。
男は公園の蛇口から出る鉄臭い水で粉を溶かし、自分の指先に浸した。それを少年の、薄い唇に滴らせる。
「うまいか……。たくさん飲め。お前の分は、これしかないんだからな」
少年は、男の指の腹から伝わる微かな震えと、ミルクの温かさを吸い込んだ。男の胃袋が、悲鳴のような音を立てて鳴っているのを少年は聞き逃さなかった。男は自分の食事を三日に一度に削り、そのすべてを少年の「命」に変えていた。
数日後の夕暮れ、男は「宝物」を手に入れて帰ってきた。
「見てな、今日はご馳走だ。パンだぞ。半分こだ」
それは、裏通りのゴミ捨て場から拾い上げた、カビが浮き始めた食パンの切れ端だった。男はたった一本の腕で器用にそれを二つに割り、柔らかい中心部を少年へ、カチカチに硬くなった耳を自分の口へ放り込んだ。
「……あ、あ……」
少年が声を漏らす。
それは、生まれて初めて味わう「甘み」だった。
腐敗し始めた酸っぱい臭いも、泥の味も、今の彼らには関係なかった。
公園の水道水でそれを流し込む瞬間、二人の周りだけは、世界のどこよりも満ち足りた時間が流れていた。
だが、地獄はその直後に訪れた。
「……っ、うあ、がっ……!」
少年の細い体が、弓のようにしなった。
内臓が裏返るような激痛。胃袋が拒絶反応を起こし、飲み込んだばかりのパンを、胃液と共にぶちまける。
男もまた、ベンチから転げ落ちて泥の上でのたうち回った。
「がはっ……、はあ、はあ……っ」
五日間、嘔吐と下痢は止まらなかった。
食べたものが悪いのではない。あまりに飢えに慣れすぎ、泥水に馴染みすぎた彼らの体にとって、パンという「まともな食物」は、劇薬でしかなかったのだ。
少年は、意識を失いかけながら、自分を抱きしめる男の心音を聞いていた。
男も吐き気に襲われながら、必死に少年の背中をさすり続けている。
「……ごめんな。美味すぎたんだな、これ。俺たちの体には……贅沢すぎて、びっくりしちまったんだな」
男の声は、泣いているようでもあり、笑っているようでもあった。
胃の中は空っぽで、喉は焼けるように痛い。
それでも男は、震える手で少年の涙を拭った。
彼らにとって、この嘔吐の苦しみさえも、二人で分かち合った「食事」の証だった。
遅くなりました。
悲しみが耐えない物語です。涙腺崩壊かな?
分からないけど、作者は心が壊れてるから




