第41話 悔いて進むは遥かなる道
戦う。
殺す。
生きる。
「……」
パルフェットの前世を構成する要素は、以上の三つで語り尽くせるほどに単調なものだった。戦場を走り、敵を殺し、死の縁で生き延びて、次の戦いまでには使い切ってしまうような金を得る。
その繰り返しだ。
ただ、この世界でのパルフェットは違う。
前世とできることは変わらない。
ただ斬ること。斬って殺すこと。それだけのはずなのに、やってきたことも、やらなければいけないことも、前世よりも格段に増えてしまった。
教会から始まり、襲い掛かる獣を切り伏せ、孤児院の家族たちを守った。
雨の降る街の中、師匠と呼び憧れた存在に思い出を汚された少年の前に立ち、
人を守る。それが彼女がこの世界で掲げた目的だったはずだ。
「よく生きてたな、コルト」
「はぁ? 俺があんなことで死ぬかよ」
けれど、王都での戦いは違う。
魔王を倒せばすべてが良くなる。そんな単純思考で突っ走ったはいいものの、結果は無残な敗走。コルトは死にかけ、アネッサも雨に濡れて戦闘不能に陥ってしまった。自分も疲労困憊で、エルダの助けが無かったら、間違いなく全滅していたであろう。
パルフェットはそれを十分に理解している。
もちろんそうなってしまったのが、碌に準備もなしに突撃した自分が原因であることも――
「パルフェット」
ふと、病み上がりのコルトが彼女へと声をかけた。
「お前は強い。強いが……まだ子供だ。抱え込むじゃねぇよ」
コルトはあの戦いで満身創痍の重症だった。あれから二週間が経って意識が戻ったものの、まだ本調子とは言い難い姿をさらしている。それでも彼は、パルフェットを責めることなくそう語るのだ。
「ふっ……そうだな。俺は少々、仲間というものを理解しきれていなかったみたいだ」
それはパルフェットの前世の弊害か。孤独に生きてきた男は、誰かを頼るという生き方を知らなかった。
ただ、だからこそと思う。
(あの時、俺は俺が魔王を斬らなきゃいけねぇって思っていた)
それは使命であり、決意であり、鎖だ。
パルフェットにとってかけがえのない家族を守るために魔王を斬ると覚悟したあの日、それをパルフェットは自分の人生の意味だと思っていた。
きっと無意識に、斬ることさえできたのならば、相打ちでもいいとすら思っていた節がある。けれど、それでは、ダメなのだ。
(俺は魔王の根城に乗り込み、失敗した。しかもしりぬぐいに来たコルトを死に掛けさせた。いや、コルトだったからまだマシだった。もしもこれがアネッサだとしたら――)
アネッサは戦闘力という面では、コルトやパルフェットには及ばない。もしかしたら、王城に蔓延る異形にすら殺されてしまうかもしれない。そうなったらパルフェットは、死んでも死に切れぬ思いに襲われていたことだろう。
家族を守るために。
人を守るために。
誰かを守るために、魔王を斬ろうとしたのに。
魔王すら斬ること叶わず、家族を死なせてしまっていただろう。
(こいつはなんて……不甲斐ない)
情けない自分を、斬り殺してやりたい気分だった。
本当に、誰も死ななかったのは幸運でしかなかった。
だから、こそ。
(今度は負けねぇ)
パルフェットは覚悟する。
(斬ることしかできない。そんな言い訳はもう使わん。頭を使うのが苦手ってのも知ったことか。考えろ、俺にはそれが必要だ)
斬ることしかできないからと割り切るな。少しでも考えていれば、王城に単身乗り込むのが愚策であったことなどすぐに気づけたはずだ。
(俺はまだ足りねぇ)
力も頭も、なにも足りない。
そのことをこの世界で突き付けられたパルフェットは、だからこそと思う。
(強くなる。前世よりも、もっと――!!)
その時、盗賊の隠れ家で話していたパルフェットとコルトの二人の前に、ある人間が現れた。
「いい目だ。覚悟を決めた、良い目をしてるねぇ」
それは、あの雨の中でパルフェットの代わりにガーゴイルと戦った赤髪の盗賊だった。
名前はフラム。エルダいわく――王国最強の星騎士。
あのガーゴイルと戦ったというのに、彼女の体には傷一つ見当たらなかった。それほどの、実力者。
「エルダ様から聞いてるよ。あたしたちに協力してくれるんだってね。だが……そのためには強くならなきゃいけねぇ。自分が強いと勘違いするなよ? 少なくともあんたらは、弱いから王城から逃げて来たんだからな」
言われなくても分かっている。
才能が有ろうと、なんでも斬ることができようと、それが十分ではなかったから、パルフェットたちは敗走したんだ。
「まあ、それはあたしも同じなんだけどな。弱いから、全部を守れなかった」
フラムのその独白は、確かな後悔が滲んでいた。
王の護衛として付いていながら、その最後には立ち会えず、王の愛娘を連れて逃げることしかできなかった自分の弱さへの嘆きで溢れていた。
「だが、あたしはこれ以上強くなれねぇ。そういうところまで来てるんだ。じゃあどうするか。そんなのは、言わなくても分かるだろう?」
にやりと笑ったフラムが、パルフェットとコルトを見た。
「あたしがお前らを強くしてやるよ」
「「望むところ!」」
戦いは終わり、次なる戦いが始まる。
魔王の玉座は遠く、その道のりは遥かに迂遠だ。
それでも、かつて約束した使命のために、少女は剣を握る。
果たしてその先に望む結末が訪れるかは、まだわからない――
おわり。
あとがき
ども、作者の熊です。
唐突に終わりましたが、はい、最終回です。
諸事情により、打ち切ることにさせていただきました。
ただ、またどこかで書き直したいとは思っているので(未定)、いずれ機会があれば続きを書ければなと思っています。
とりあず、この作品はここで更新停止という区切りとして、ここまで書かせていただきました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次の作品にご期待ください。




