第39話 逃げた先で
「むっ?」
パッと目が覚めたパルフェットが体を起こすと、そこは見知らぬ部屋だった。
「……んん?」
首をかしげて状況を確認するパルフェット。自分の体はベッドの上。部屋には自分一人だけで、近くのテーブルには花が生けられている。
体は――ライカンとの戦い後のように、ひどい痛みが残っている。その痛みを確かめて、僅かに残っている最後の記憶をパルフェットは思い出した。
「そう言えば、逃げてる最中だったな」
脳裏に浮かんできた最後の景色は、雨が降りしきる森の中。
そこから芋づる式に、彼女は記憶を思い出していった。
「ここは――あの男たちの隠れ家ってところか?」
そう、確か自分たちは、突如現れた男たちの助けによって魔王の追っ手から逃げられた。それがまさか、あのコルトが戦った赤髪の盗賊の仲間だとは思いもよらなかったが。
とはいえ、魔王の追っ手の脅威を知っていながら、自分たちに手を差し伸べた以上、パルフェットは彼らのことを信用するべきだと思っている。
現に、おそらくは逃げている最中に疲労で意識を失った自分を手厚く看病してくれたのは、この部屋を見ればわかるのだから。
「さて、どうしようか」
動けないほどというわけではないけれど、体が痛くてあまり動きたくないパルフェットは、目覚めてからどうしようか悩んだ。ただ、そうして悩んでいると部屋の扉が開き、見覚えのある顔が出てきた。
「あ、パフィ! よかった、目が覚めたんだね!」
「アネッサ……ふっ、お前も無事だったみたいだな」
部屋に入って来たのはアネッサだった。彼女の手にはなみなみとスープが入った皿があった。
「ほらこれ夕食。食べれそう?」
「助かるぜアネッサ。さっきからお腹が空いて仕方なかったんだ」
「元気そうでよかった」
ただし、戦いの影響でスプーンが握れなかったパルフェットは、アネッサにスプーンで口に運んでもらうことになるのだけれども。
「なんだかちょっと恥ずかしいな」
「スプーン握れないんだから仕方ないでしょ」
「むむぅ……」
むぐむぐとスープの具を舌の上で転がしながらも、なんだか気恥ずかしいパルフェットは何とも言えない顔でそう言った。それから、パルフェットはスープを飲みながら訊ねる。
「それで、アネッサ。ここはどこだ? それと、コルトはどうした?」
「ああ、そう言えばその説明もしなきゃね。私も詳しいことはわからないんだけど――」
まず、アネッサが語ったのは自分たちがあれからどうなったのかだった。
パルフェットの大方の予想通り、ここは件の盗賊の隠れ家らしく、王都の森からそう遠くない場所らしい。そして自分たちは、盗賊に保護される形で助けられたのだとか。
「おかげでコルトも何とか助かったわ。今は別の部屋で、教会の人が付きっ切りで見てくれてる」
「教会? 孤児院の奴か?」
「違うわ。そもそも教会はケガ人の救済に特化した組織よ。孤児の保護も、救済の一環ね」
「なるほどなぁ」
そうなると不思議なことが一つ。
なぜそんな教会の人間が、盗賊の隠れ家にいるのか。
「それは私が説明します」
その時、部屋の入り口に人が現れた。
現れたのは奇麗な少女だった。年のころはコルトと同じ14歳前後。綺麗なブロンドの髪を長く伸ばした彼女は、まるで貴族のような所作でパルフェットへと近づいて来る。
そして、鈴が鳴るような声で自己紹介をした。
「私はエルダ・ドーラ・エルディア。エルディア王の第三子。貴方をここに導いた、あの赤髪の盗賊に指示を出していた人間です」
エルダ・ドーラ・エルディア。
彼女は正真正銘の、このエルディア王国のお姫様だった。
「へー……それで、お姫さんが俺に何の用だ?」
「申し訳ありませんが、貴方がたに用があるわけではないのです。私たちが求めているのは――あなた方のお連れの方。コルト様でございます」
「コルトの奴が? そりゃいったいどうしてだ」
「そうですね、詳しくお話ししましょう。私がなぜここに居て、コルト様を助けたのかを――」




