第31話 御前
「会議かぁ、めんどくさいなぁ」
「そう言うな、レイ。これから魔王様による統治が始まる以上、我々十三冠位にとっても大きな変革の時なのだぞ」
王城内の回廊に、二人の男が歩いていた。
一人はレイ。コルトの兄貴分であり、メレチエレの街を襲った人間である。
そしてもう一人は、背丈も横幅もレイの倍はある巨漢だった。彼は全身をマントで隠し、巨大な竜の頭蓋骨を被っている奇妙な出で立ちをしている。
二人が目指すのは玉座の間。本来であればこのエルディア王国を治めるエルディア王が座る場所。しかし今そこに居るのは、その地位を奪ったものである。
その名は魔王。
王位の簒奪者である。
「なんだ、今日は集まりがいいな」
レイと巨漢の二人が玉座の間に来てみれば、自分たち以外に九人の人間が待っていた。人間と言っても、その誰しもが異形であり、とてもじゃないが人間とは思えないような怪物じみた姿をした者もいる。
それは体の半分が植物であったり、鳥に人の顔が付いた人面怪鳥であったり、三対の手を持った奇人であったり――異形と呼ぶにふさわしい人間ばかりだ。
「ガーゴイル。室内で火って大丈夫なのか?」
「あぁ!? おいレイ! それは俺の体を見て言ってんのかよ!」
「いや、そんなわけないだろうカルマ」
さて、入室したばかりのレイが呟いた言葉に、一人の男が反応した。彼は頭から火を立ち昇らせて(文字通り)彼に近づく。
「滅してやろうか!?」
「悪かった悪かった。だから近づかないでくれカルマ、俺が燃える」
「燃やしてやろうとしてるんだよ!」
カルマと呼ばれた男に詰め寄られて、困った様子のレイ。彼の出す炎にチリチリと体を焼かれるような思いをしていると、途端に空気が変わった。
まるで昼から夜に代わったように、この場の空気が冷めていくのを感じる。
「二人とも、姿勢を正せ。魔王様が来たぞ」
巨漢――ガーゴイルと呼ばれた男が低い声でそう言うと、レイの後ろにあった扉がゆっくりと開いた。
そして現れたのは――影だった。
人の形をした影が、ゆっくりと玉座の間に這入る。
その影を前に、カルマもレイもガーゴイルも、その他全員が姿勢を正し、首を垂れた。
そうしてできた道を影は歩き、そして玉座にたどり着く。
影は緩やかに自分の歩いてきた道を見た後、そこが自分の居場所であるかのように玉座へ座った。
そう、この影こそが――
「魔王様」
玉座に最も近い場所に居た女が、影の名を呼んだ。
彼女の頭には異形の角が生えており、その姿はまるで悪魔のようだ。
「二名を除き、十三冠位が揃いました」
「そうか」
女の報告に、魔王の影が言葉を返す。たった一言、言葉を呟いただけなのに、隕石が落ちてきたような威圧が玉座の間を制圧した。
「言葉一つが兵器みたいだな」
「レイ、魔王様の御前ですよ。私語は慎むように」
「はいはい」
それから女があれやこれやと、エルディア王国にまつわる雑務の記録を報告する。それを一通り聞いた後、魔王は再び一言だけ口にした。
「それで、ライカンはなぜいない?」
魔王の言葉に、女は短く答えた。
「殺されました」
「誰に殺された」
「それは……今調査中です」
ライカンの死を女は知っているけれど、それが誰の仕業によるものなのかは知らなかった。だからこそ、冷汗を流して彼女がそう言うけれど――そこで、静かに話を聞いて居た十三冠位の一人が、徐に手を上げて言った。
「はいはーい。俺が知ってるぜ」
レイだ。
彼はこの一カ月、王城に戻らずにふらふらとしていた人間である。そんなレイへ、女は語気を強くして言葉を向ける。
「レイ。報告は何よりも優先すべきだと言いませんでしたか?」
「悪いな。でも、こっちだってそれどころじゃなかったんだから許してくれよ」
そう言って、レイは続ける。
「それでえーっと、そうだそうだ。俺は行方不明になったライカンを探しに東に行った。マジョリア、お前にライカンが殺されてたってのは報告したはずだよな?」
「ええ、そうですね」
マジョリアと呼ばれた髪の長い女性が頷いた。
「んで、俺もいろいろやってついに暴いたのさ、ライカンを殺した奴を」
「それで、ライカンを殺したのは誰だったの?」
「それは――」
十三冠位の末席ライカンを殺した人物は誰か。
その問いにレイが答えようとした――その時だった。
「うわぁああああ!!」
天井から人が落ちてきた。
落ちてきたのは少女。白い髪に白い肌、不思議なほどに真っ白なのに、目だけは真っ赤に染まった少女。
彼女が魔王の御前、十三冠位が取り囲む部屋の真ん中に落ちてきたその時、レイは「あっ」と声を出して言った。
「そいつだよ。ライカンを殺した奴」
そう言われた少女――パルフェットは、立ち上がりながら言った。
「あーあ、やっちまった感じだなこりゃ」
手には木剣。それ以外には何もない。
そうして登場した少女に向けて魔王は言った。
「殺せ」
玉座の間に殺意があふれ出した。




