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TS剣神の徒然奇譚  作者:
第二幕『世界の脅威』

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第30話 吶喊道中


 パルフェットが走る町並みはどれもボロボロで、とても絢爛な王国の中心部とは言えないありさまだ。


 人も、町も、空すらも沈痛な面持ちでこの世界を暗く彩っている。


 すべては魔王の仕業だ。

 魔王が王都を襲い、王座を奪ったのが原因だ。


「待っていろよ魔王、俺が斬ってやる」


 木剣を携え走るパルフェットは、ただそのことだけを考えていた。


 斬る。

 斬る。

 斬る。


 ひたすらに。


「むっ」


 目抜き通りを過ぎ、遠くに見える王城へとひたすらに走っていると、街区と王城を隔てる壁に突き当たった。それは壁沿いの三階建ての建物よりも高く聳え立ち、王城への侵入者を阻む。


「はっ、その程度の壁――!!」


 けれど、その程度でパルフェットは止まらない。


「失礼するぜ!」

「わっ!?」


 走るパルフェットは、まず近くに積みあがっていた木箱を足場に跳躍した。近くに居た女が、彼女の登場に驚きの声を上げた。


「行ける!」


 そして高く飛んだパルフェットは、次に家の壁を蹴る。壁蹴りによってさらに高く跳躍した彼女の体は、跳躍に使った家の壁の向かい側へ――そして向かい合って建っていた家もまた、彼女の足場として利用される。


 それを繰り返すことで建物の屋根上へと登り切った後、王城と街区を仕切る壁の方へ彼女は向き直った。


「ギリギリだが……魔力を使えばいけるだろ」


 彼女の魔力強化はまだ万全ではない。

 少なくとも、意識的に身体能力を上げることは不可能だ。しかしコルトが言うには、戦いのさなかでパルフェットは間違いなく魔力強化を使っているのだと言う。


 ならば、戦いの時のつもりで走り抜ければもしや、と彼女は考えた。


 足に力を籠める。

 屋根上から壁の上へ、高さにして一メートル、距離にして十メートルはあろうかという場所へと跳躍する。


 不可能だ。そう思いながら、パルフェットは走り出した。


 加速する体は果たして魔力の恩恵を受けているのかいないのか、踏むたびに割れていく屋根瓦をまき散らし、ついに屋根の端へと到着した彼女はそのまま思いっきり跳躍した。


 三階建ての屋根上からの跳躍。

 落ちたら死ぬような高さだ。


 けれど彼女は、笑みを作りながら跳んだ。


「ふん、こういう感覚か」


 一か八かの魔力強化はうまくいったようで、何とかギリギリで壁の縁を彼女は掴んだ。そうして彼女は、壁の上に立ち、王城を見る。


「鬼が出るか蛇が出るか」


 敵の勢力は不明。

 魔王の実力は未知数。


 ただひとつわかることは、圧倒的武力をもってしてこの国の玉座へと到達したという実績だけだ。


 とはいえ、

 

「魔王の首を取れたら勲章、そうでなくとも生きて帰れれば次につなげられる」


 何も考えていないわけではない。

 考えたうえで、彼女は魔王に向けて吶喊しているのだ。


 なにせ彼女は策を考えることは苦手で、前世では起きた問題のすべてを斬ることだけで解決してきた剣豪である。そのために、今回も斬ることで終わらせようと考えているのだ。


 魔王を斬る。


 例え戦力が未知数であろうと、王国の軍事力を蹴散らした実績があろうと、魔王一人に後れを取ることはないだろう、と、彼女は自信満々に考えている。


 例え戦いの後に後遺症があろうとも、たった一戦動けるのならば、どうとでもなる。ライカンの時も、レイの時も、そうだったのだから。


「行くか」


 狙うは大将、魔王の首。


 白き少女は壁を飛び降り、王城へと侵入した。



 ◆



「おい、誰か壁の上に登ったぞ!」

「女の子よ! 小さな女の子が跳んでったの!」

「馬鹿言え! 子供があんな高さの壁を越えられるわけねぇだろ!」


 今しがた屋根の上から王城の壁へと飛んでいった少女の影を見た民衆が騒ぎを起こしている。


「あいつ……派手にやりやがったな」


 そんな彼らが口々に喋ることを聞きながら、コルトはそう呟くのだった。

 魔王を斬るにしても、敵に近づくには潜伏する必要がある。だから下手に騒ぎを起こすわけにはいかないというのに、さっそく大道芸でも披露するように屋根に上り、壁の向こうにパルフェットは消えてしまった。拍手喝さいの代わりに上げられた悲鳴は、果たしてどんな意味を持つのか。


 ともかく、静かに王城に侵入することはもう不可能になってしまった。その事実に、コルトはより一層肩を落とす。


「王都が魔王に落とされたってのは事実だが、必ずしも魔王がここに居るわけじゃねぇだろ普通……」


 そう言いながら、コルトは周囲を見渡す。


(……だが、王都が襲われたってのは確実なんだよな)


 見れば見るほど、王都が都市としての機能を果たしているようには見えない。それもそうだ。既にそれは、王都の方から逃げるように地方へと移動する人間たちを見ればわかっていたことだ。


 ここに残っているのは、自分の故郷を捨てたくない人間か、動くに動けない人間だけ。それを示すように、目抜き通りの店はすべて閉まっており、この火事場を狙った商人ばかりが法外な値段でモノを売っている。


 路上にゴミや汚物は取り残され、誰も掃除する様子がない。路地裏で喧嘩を始めた浮浪者たちを見た国軍の兵士たちは、誰も止めようとするそぶりを見せない。


 今騒いでいる人たちも、今の出来事で何か良くないことが起きるんじゃないかと不安になっているだけで、パルフェットの身を案じるものは誰もおらず、口々に怒声を上げては逃げ惑うばかりだ。


 治安は最悪。

 ここはもう、安心して住める場所じゃない。


(魔王が君臨しているからか? 街や人を残しているのは……この後もこの地を支配することが目的か。そうなると、王都を襲った魔王の目的は……王位の簒奪)


 街の様子から、朧げに見えてくる魔王の目的。

 それが碌なものではないことはわかり切っており、だからこそそんな魔王について行ったレイの目的が、コルトにはわからなくなってくる。


 親友だったガンドラを殺してまで、どうしてレイは魔王に従うのか。


「っ……俺も行くか」


 パルフェットのように壁の上から侵入するか、それとも門を探して押し入るか。せめて作戦を立ててから行ってくれよと、心の中で愚痴りながら、コルトも自分の侵入経路を探し始めた。

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