第29話 王都到達
王国エルディアの王都エルデリアは、パルフェットがここまでの道で通って来たあらゆる都市のどれと比べても巨大な都市であった。
「ここが都か」
王都大門。訪れた旅人たちを威容によって歓迎する観光名所の一つを見上げながら、パルフェットはそう呟いた。
「いやぁ、流石にこれは……」
「噂以上ね」
しかし、パルフェットの横で王都大門を見上げていたコルトとアネッサの二人は、困惑を顔に浮かべていた。
なにしろ天にも届く要塞のような威容を誇っていた王都大門は、その大部分が崩壊し、かつては二十メートルを超えた威容も失われてしまっているのだから。
崩れた大門の下には何人もの国軍兵士が詰め込んでおり、仮設的な関所を作って通行する旅人や商人を検問していた。
王都で起きた魔王との戦い。その激しさを示すように。
「入ろうぜ、いつまでも門を見上げても仕方ない」
「おう」
そう言って、一行は関所を抜けた。
子供三人とは言え、犯罪者でもない三人が関所で止められることはない。いくらかの通行料と持ち物検査だけで簡単に通行は許された。
「しかし、人が少ないな」
「魔王はともかく、王都で大きな戦いがあったのは事実だしね」
すんなりと関所を通れたことにも驚きだが、それよりも王都の目抜き通りを通っているというのに、人の賑わいがあまりないことが目についた。
王都と言えば国家経済の中心地と言っても過言ではない。メレチエレの街でも、王都の目抜き通りでは様々なものが売られており、それを求める客で海が作られていると噂に聞くほどだった。
しかし、そんな噂が嘘のように目抜き通りは寂れてしまっていた。戦いの痕跡か、目抜き通りの建物のいくつかは倒壊しており、石畳も所々が嵐に遭遇したかのように剝がされてしまっている。
そして肝心の売り物も、商人よりも乞食の方が多い始末だ。右を見れば、足を失った浮浪者が堂々と座り込んでおり、左を見れば自分たちよりも更に小さな子供が、赤ん坊を抱えてこちらをじっと見つめている。
その誰もが、表情に影を落としていた。
「……ちょっと気が滅入ってきたわ」
頭を抱えたアネッサは、気分が悪そうにそう言った。
「こんなもんで……って言いたいところだが……まあ仕方ねぇな」
今日ばかりはコルトも憎まれ口を返さなかった。なにせちょうど、彼らの横を通り過ぎて行った国軍兵士たちが、その手に浮浪者の死体を抱えていたのを見てしまったから。
王都でいったい何があったのか、はわかり切っている。魔王に負けたのだ。この国の支配者が。その結果が今、彼らの目の前にある。ただそれだけなのだ。
「平気そうだな、パルフェットは」
「ん? ああ、まあな」
気分が悪そうなアネッサの横で、ケロリとした様子のパルフェットに呆れるコルト。とはいえ、彼女が他とは違うのは今更のことなので、深くその理由に追及することはなかった。
それから彼は、これからどうするのか、その方針をパルフェットに訊ねた。魔王を斬ると彼女は豪語しているのだ。きっと何か作戦の一つや二つあるはずだ。
そんな風に思ったのだけれど――
「さ、行くか」
腰の木剣を引き抜いた彼女は、そのまま遠くに聳え立つ王城目指して走り出したのだ。
それを見て、コルトは思った。
――ああ、そう言えばこいつは作戦なんて高尚な考えはないんだったな、と。
思い返してみれば、盗賊の時も特に考えなしに斬ろうとしていたし、メレチエレの時も同じだ。
斬ることしか頭にない。
斬ることしか能がない。
そんな人間なのだと。
「ちょっと、パルフェット!?」
「あー……敵情視察もまだだってのに何あいつは突っ走ってんだよ!」
既に星のように遠くへと行ってしまったパルフェットの背を追いかけて、二人はすっかり寂れてしまった王都の目抜き通りを走るのだった。




